富樫雅彦 & J.J.Spirits 「Plays Be Bop Vol.1」(1991)

 4ビートを正面から取り上げたフリー系メンツの名演奏。

 富樫雅彦が峰厚介、佐藤允彦、井野信義と凄腕メンツを集めて4ビートのビバップを真剣に炸裂させたバンドの1stスタジオ作だ。
 91年6月5~7日の3日間でLP2枚分を収録。残りは"PLAYS BEBOP VOL. 2"として同年にリリースあり。

 ライナーの富樫へインタビューが興味深い。車椅子生活で21年、"パラジウム"(1968)以来23年ぶりに4ビートに向かい合う過程をじっくり語ってる。
 当時からフリーに傾倒しつつ、車椅子生活を余儀なくされバスドラとハイハットが不可能になったため、演奏的にも富樫はフリーにのめりこんだという。ところが79年にパリでドン・チェリーとチャーリ・ヘイデンと録音の際、4ビートへの思いが再燃。さらに86年のチェリー、スティーブ・レイシー、デイヴ・ホランドと共演の機会が本バンドのきっかけになった。
 79年が"セッション・イン・パリ VOL.1",86年が"Bura-Bura"のことだろう。

  

 富樫は埼玉県深谷のSPACE WHOで初ライブを敢行。その後に新宿ピットインで約2年間、毎月ライブを重ねてドラムに磨きをかけたという。バスドラとハイハットが無い、ドラミングの研究を、録音テープを聴き返し改善を図ったそう。
 そして満足いくレベルまでドラムが至ったところで、本盤の録音へ踏み切ったとある。

 サイドメンの演奏はばっちり。全員が丁寧で上品なサウンドを志向した。荒さやルーズは無く、まじめに綺麗に整えている。従いロマンティックな世界がアルバム一杯に広がった。
 選曲はすべて有名なスタンダード。よく知られた曲だからこそ、そのアレンジや演奏の確かさがまっすぐに聴き手の耳へ飛び込んでくる。

 凡百のスタンダード集をきれいに流してみた営業ジャズと本盤の違いは、演奏力もさりながら、やはり富樫のドラミング。わかりやすいバスドラの定点提示と、ハイハットのキープが無い。だがリズムは滑らかで、かつ弾んでる。
 
 あれが無い、これが凄いと後付けで言える。だが最初に聴いたとき、ドラムの手腕を全く意識しなかった。そうか、富樫は両手のみだったんだと、このライナーを読んで改めて実感した。そのくらい、ドラムは自然なグルーヴを産んでいる。
 冷静に考えれば、その凄さがわかる。片手でシンバルをキープしながら、どうドラムを演奏するか。富樫の才能とリズム感、創意工夫のすべてが本盤に詰まった。

 片手でシンバル。もう一方のスネアやタムは音色が柔らかく、軽い。両手のバランスを整え、かつシンバル・レガートが絶妙な位置で抜かれる。テンポは維持しつつ、譜割を微妙に変えて素早く両手のスネアへ。叩きすぎず、アクセントやダイナミズムでバラエティさを出した。
 ドラム・ソロがわかりやすい。やたら連打せず、メリハリ効いたパターンと、金物などを並べて音色が単調にならぬよう気を配ってる。特に間を生かした組み合わせのドラム・ソロは、集中して聴いてるとスリリングさにゾクッとくる。

 だがこういう工夫に耳をそばだてるのが、本盤の主眼な楽しみ方ではない。シンプルにジャズのグルーヴへ身を任せること。その根底の基本を、本盤はすっとクリアしてる。
 他のメンバーもありふれた曲ゆえに、手慣れて流した演奏にならぬよう気を配ってる感じ。それとピアノの右手とテナーがぴたり寄り添うフレージングは、かなりの厚みをサウンドに与えた。

 富樫は事故でフリーに大きく舵を切る音楽活動となった。だが本バンドを契機に晩年まで、4ビートとも向かい合っていた。時代ゆえか最晩年の音源はCD化されていないけれど。
【Discography】
1991:PLAYS BEBOP VOL. 1【本盤】
1991:PLAYS BEBOP VOL. 2
1992:LIVE 
1993:STEP TO NEXT
1995:EXPLOSIONS(別タイトル名"So What")
1995:UPDATE
    

 しかしこれを書きながらAmazon検索すると、彼のアルバムはけっこう廃盤と気づく。今、和ジャズだとか廉価盤再発もいろいろあるけれど。海外のマイナー盤へ目を向ける前に、日本にも聴きたい盤が一杯あるんだよな。

Track listing:
1. Confirmation
2. In A Sentimental Mood
3. Oleo
4. Stella By Starlight
5. I Remember Clifford
6. A Night In Tunesia - Monk's Hat Blues

Personnel:
富樫雅彦:ds
峰厚介:ts
佐藤允彦:p
井野信義:b

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