Bob Dylan 「Modern Times」(2006)

 妙に陽気で生き生きした、ディラン32枚目のスタジオ作。

 ルナのEP"Hedgehog"(1995)と同じ、写真家テッド・クローナーの"Taxi, New York at Night"(1947)がジャケに使われた。ディランの指定と思うが誰か指摘する人はいなかったのか。せっかくのオリジナル・アルバム、なるべく唯一無二のほうがいいのに。
 ただしディランのほうが色合いが鮮やかな感じ。
 

 ディランの活動はもはや生きて動いてるだけで良い、と思ってる。かといってライブへ行く気もしない。かなりガラガラ声でラフな演奏をしてるってイメージあるため。だがニュースを見る限り、とても活発に活動し、なおかつ惰性感が無い。たとえスタンダードを唄っても、改めてのルーツ回帰と捉えた。決して懐メロのディナーショー対応とは思えない。

 稀有な存在だ。かなりの曲者だが老いてなおビジネスと創作活動の折り合いをつけている。今の60年代ビッグスターはビジネス規模がでかくなり過ぎ、雇うスタッフの生活もあるため、本人の一存で辞められるように見えない。休ませて上げなよ、と思う。ポールしかり、ストーンズしかり。
 だがディランは立場は似たようなはずなのに、唯我独尊っぷりがいまだに漂う。この存在感は素直に凄い。

 で、本盤。もう10年前か。つい最近出たような気がする。完全に後追いで聴いてるため、時代とディランの関係に寄り添えてない。
 このときディランは65歳。今考えると老け込む歳ではないが、既にベテランすぎて老成してる気がしてた。

 だが今聴くと、ずいぶん溌剌として生き生きと張った喉を聴かせる。これはかっこいいわ。
 実際に本盤は、世界中でとても売れたそう。
 本盤からのシングルは(5)。i-podのCMに使われた。


 英語のWikiを見ると本作収録曲のラインは、他の人の作品から取り入れた箇所があちこちに見られるらしい。紀元17年に没したローマの詩人オウィディウスの作品と類似性もあるそう。でも2000年近く前の作品だから、既に著作権も切れてるよな。
 いろいろと論争はあったようだ。
 みんなそれぞれがディランに対し真摯に接し、純粋な創作性をディランへ求めているんだろう。
 ぼくはそこまでの熱烈なファンでないため、もう面倒だからディランに対して全肯定したくなるが。

 プロデューサーはジャック・フロスト(ディランの別名らしい)、演奏は当時のディランのツアーを支えるメンバーたち。音楽的に安定した環境で、伸び伸びと録音したのではないか。
 バイオリン入りのメンバーで、カントリーやブルーズを筆頭にアメリカの音楽を素直に表現してる。メロディも歌詞も、アレンジも、どうでもいい。
 ディランのフィルターを通すだけで、ちょっと捻った穏やかで塩辛い風景が浮かぶ。

 どこが「近代の日々」であり、都会的なタクシーのジャケット写真だろう。
 聴こえるのはもっと土臭く、古臭いサウンドだ。このシニカルさこそが、ひねくれオヤジのディランらしい表現だ。

 演奏は過不足無く歌を支え、がっつりグルーヴしてる。60年代の鋭さや、70年代の荒っぽさ、80年代の過多な飾りも、90年頃からの自由なツアー・スタイルとも違う。
 好きな音楽を、丁寧かつ素直に演奏する。歌はぶっきら棒だが決して投げやりではない。
 ブレず、暴れず、飾らず。ディランは本盤で数々のべからずを自然に規定し、素直に飛び越えた。アメリカ人として地に足がついた素敵なカントリー・サウンドを聴かせてくれた。しかも、しっかりロックしてる。

Track listing:
1. "Thunder on the Mountain"
2. "Spirit on the Water"
3. "Rollin' and Tumblin'"
4. "When the Deal Goes Down"
5. "Someday Baby"
6. "Workingman's Blues #2"
7. "Beyond the Horizon"
8. "Nettie Moore"
9. "The Levee's Gonna Break"
10. "Ain't Talkin'"

Personnel:
Bob Dylan - vocals, guitar, harmonica, piano

Denny Freeman - guitar
Tony Garnier - bass guitar, cello
Donnie Herron - steel guitar, violin, viola, mandolin
Stu Kimball - guitar
George G. Receli - drums, percussion




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