Dr. John 「Dr. John Plays Mac Rebennack」(1981)

 冒頭曲だけで本盤の価値がある。美しく、じわっとファンキーな盤。

 所属のHorizonレーベルが倒産し契約が無く、ドクター・ジョンが比較的に不遇の時代の一枚。だがピアノと純真に向かい合い、とてつもなく温かい盤を作り上げた。
 とにかく一曲目のオリジナル"Dorothy"。このキュートでロマンティックな一曲で、本盤は傑作の仲間入りをした。

 ブギ・ピアノ。あるいはラグタイム。しかしドクター・ジョンは荒っぽく鍵盤を叩かず。柔らかく温かく、そっとメロディを紡いだ。本盤の全体イメージは、ニューオーリンズ・セカンドラインをピアノ・ソロで展開した盤だが、"Dorothy"の美しさが本盤をきゅっと格調高くまとめた。

 メロディが溶け、アドリブでフェイクする。たぶん、アドリブだと思う。すべてが譜面でもおかしくない。それくらいの完成度だ。この曲はYoutubeでも素人がカバーした動画がいくつもあり、聴き比べるのも楽しい。
 とはいえ本盤は容易にまねを許さない。ひそやかなリバーブ感と、情感あふれる演奏。隅々まで美しい名演だ。

 2曲目からはブギ風の展開で、キータッチは強まる。でも本盤はちょっと寂しげ。ラフに暴れず、丁寧な演奏のためだ。ばらつくフレーズ、リタルダンド、どれもが感情の赴くままでなく、きっちりコントロールされている。ドクター・ジョンのピアノのうまさを逆説的に味わえる盤ともいえよう。

 81年発売時のLPでは10曲入り、88年のCD化では(6)~(8)が追加。当時、お得感を出すボートラの先駆けな盤でもあった。
 さらに02年のリイシューでは"Dorothy"のTake 2を含む4曲が追加された。ぼくはこちらのバージョンは聴いておらず、コメントできない。ここでは13曲入り、として書かせてください。

 歌入りは(3)と(6)。カバーは(3)(4)(5)(6)(7)(9)(13)とほぼ半数。なんだかジャズ・クラブでカバー曲を取り混ぜた、弾き語りの1セットを聴いてるかのよう。(11)で本編を終わらせ、(12)はアンコール。もう一曲、おまけで明るく(13)。そんな感じ。
 前述のように演奏は丁寧で場末感は漂わない。けれども上品な形骸したピアノにはせず、がっつりグルーヴしてる。
 
 先日出たアラン・トゥーサン追悼ムックに乗ったドクター・ジョンのインタビューを読むと、本盤は確かに挑戦であり、落ちぶれ感を出さないよう気を配った模様だ。
 飾りを取り払い、率直にピアノへ向かうドクター・ジョン。リズム楽器が無く、ピアノのみでグルーヴさせる。アドリブに逃げることなく、一曲をポップスとして仕上げた。

 アプローチがあまりに素朴なため、どうしても場末感が香ってしまう。ピアノはリバーブ感があるけれど、ボーカルがドライであまり高級感を出さぬ録音処理のせいかな。
 
 演奏はダイナミズムあるけれど、あまり起伏はつけない。左右の手がほぼ同じバランスで鳴ることもしばしば。メロディを極端に、情感たっぷりに聴かせようってアンビエント寄りのアプローチは取らなかった。もっと単純に、ドクター・ジョンはピアノを弾いている。
 ただし形式化は無い。左手もリズム・キープを基本ながら時々自由にフレーズを上下させる。この奏法が演奏から古めかしさをきれいに消した。

 さらに音楽の持つロマンティックさ、ニューオーリンズ・セカンドラインのしぶといグルーヴは堪能できる。ロングヘアの(3)、パイントップ・スミスの(13)と、ニューオーリンズへの愛情はたっぷり。セカンドラインで解釈したスタンダードでの茶目っ気も楽しい。

 歌ものロックに慣れた耳で聴いたときは、ピアノ・インストの簡素さに戸惑った。ジャズの文脈からたどったときには、セカンドラインのグルーヴが強すぎ馴染めなかった。
 あるていどぼくが歳取って穏やかに本盤へ耳を傾けたら、じんわり良さが沁みてきた。
 ぱっと聴きで本盤の良さがわかる、感性の鋭い人もいるだろう。
 でもぼくは歳を重ねて折に触れ本盤を聴いて、ようやく良さを感じてきた。夜に、じっくりと聴きたい。切なくて暖かい、このグルーヴを。

Track listing:
1. Dorothy
2. Mac's Boogie
3. Memories Of Professor Longhair
4. The Nearness Of You
5. Delicado
6. Silent Night
7. Dance A La Negres
8. Wade In The Water
9. Honey Dripper
10. Big Mac
11. New Island Midnight
12. Saints
13. Pinetop

 続編の"The Brightest Smile in Town"が、今は"Dr John Plays Mac Rebennack: Legendary Sessions 2"と標題変え、ボートラ付き18曲入りで売られてる。紛らわしいな。それに何だか、趣もない。ボートラ付きは嬉しいが。



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