Chris Pitsiokosのライブ映像

 新鋭サックス奏者のライブ映像が、Youtubeにいっぱいあるってエントリ。

 クリス・ピッツィオコスは一昨年くらいからジャズファンの間で語られるアルト・サックスのフリージャズ奏者。90年生まれだから今年26歳の若さ。インタビューを含む5分くらいの紹介ドキュメンタリーがあった。
https://www.youtube.com/watch?v=1yggSi3hca4
 ふとしたきっかけでYoutube見たら、たくさんライブ動画あり。色々と見てみようって企画だ。 

 ピッツィオコスのサックスは高速でテクニカル、かつフリーキーな響きだ。作曲を聴いても急速展開で上下するビバップな変則フレーズが好みっぽい。素直な吹奏から幅広い変則奏法まで多彩な技を持ち、猛スピードで吹き倒す。

 面白いのは彼のサックスに悲壮感や緊迫感が無いところ。息を詰める凄みでなく、涼やかで硬質なスピードの明瞭さが彼のサックスから伝わってくる。ライブ動画見てても、どこか寛いだ余裕あり。この辺が、世代の違いか。猛烈フリージャズって先達の演奏はしばしば水の入った洗面器に顔突っ込んで、顔を上げない我慢比べみたいな空気もあったのに。

 自らの音色、自らのコンセプトを、さらにわかりやすくしたら親しみが増す。またリズム感もグルーヴを前面に出さない。鋭角でむしろ欧州的にドライな色を出す。
 先達を超える暴れっぷりをどう自己演出していくか、がこれからの楽しみ。今は若さの力づくで成立させている。

 彼のウェブはこちら。スケジュール記載皆無のそっけないもの。FacebookやTwitterでライブ情報を発信か。Wikiは英語が無くドイツ語だけあり、の面白さ。CDも数枚、Amazonで入手可能。Bandcampで配信も数枚あった。
http://chrispitsiokos.com/
https://de.wikipedia.org/wiki/Chris_Pitsiokos

   

 筋の一本通った大きなキーワードの音楽コンセプトをわかりやすくピッツィオコスが示したとたん、いきなり大きく化けると思う。オーネットでいうハーモロディクスとか、ジョン・ゾーンでいうゲーム音楽やユダヤ・ルーツなど。
 高速で吹き倒すのは、ある意味フリージャズでは手垢がついた手法。そこからどの方向に行くかがポイントと思う。

 またこういう音楽は周辺ミュージシャンとのシーン形成も興味深いところ。一人で吹きまくるだけじゃなく、気の合う仲間とギグによるダイナミズムもあったら、さらに凄みを増す。
 ということで聴いた順は無視して、演奏の日付順に並べてみた。

https://www.youtube.com/watch?v=pF-Pgdp-ZZU
14/1/14 Chris Pitsiokos & Brian Chase - at Spectrum, NYC
 まずはドラムとのデュオ。って、この動画は下の動画を散々見た挙句、遡ってみた。
 むしろピッツィオコスのみずみずしさのほうが先に立つ。ドラマーは00年に結成のオルタナ・ロックバンドYeah Yeah Yeahsのメンバー。サックスよりも一回り上の世代だ。
 ロッカーのわりにしなやかな乱打をみせ、フリージャズとして普通に聴ける。サックスは循環呼吸でフラジオ連発のフレーズ。このあとの動画でも基本となる、彼の得意技だ。
 なんというか二人してデタラメに音をばらまくことがクールだって雰囲気。

https://www.youtube.com/watch?v=x0vckB7HgIY
14/2/23 Weasel Walter & Chris Pitsiokos - at JACK, Brooklyn

 ピッツィオコスの二世代上、当時42歳のドラマーと24歳のサックスがバトル。
 テクニックよりも勢いでシンプルなセットのドラムを乱打する暴れっぷりに、フリーキーな音色を存分に膨らませ襲い掛かるサックス。類型的だがシンプルな気持ちよさあり。
 ドラムがビート感を出さないため、グルーヴとは違うスピードさが先に立つ。流れでなく、瞬間の炸裂がどんどん持続していく。
 パワフルなドラミングがぐいぐい引っ張り、のびのびとサックスはノイズを軋ませた。

https://www.youtube.com/watch?v=qGzmnsyhX1I
14/3/11 Chris Pitsiokos solo - at Spectrum, NYC

 アルト・サックスのソロ。冒頭から循環呼吸で猛烈に高速なフレーズを吹き倒す、凄まじいテクニックを見せつけた。倍音をいななかせながら、ときおりの低い音を出す。
 やがてフラジオと実音の重音奏法に変わり、もう一度フラジオへ。片足を上げたまま立ち尽くし、間を取るあたりはパフォーマンス色が強い。
 次はブレスと高速タンギングでパーカッシブな音色を出す。腿にベルを押し付けて、倍音の嵐へ。
 ハイ・テクニックの見本市だ。フリージャズ・サックスの派手な技をつぎつぎ繰り出した。根底に音楽心があり、ひけらかしに終わらないため飽きずに聴ける。
 逆に動画側が気を使ったか、ときおりカラーフィルターを入れて画面に変化を付けた。効果はいらんよ、ライブ映像そのままでいい。

https://www.youtube.com/watch?v=8TG2OcR2gTI
14/7/8 Chris Pitsiokos Trio - at Spectrum, NYC
 Chris Pitsiokos - alto saxophone, compositions、Max Johnson - bass、Kevin Shea - drums

 完全にピッツィオコスが目立ちまくりのアコースティック・トリオ。下の15/7/18の動画よりあとに聴いたが、僕はこの14/7/8の演奏が好み。ベースが前に出て、ドラムとがっつり熱いノリを作ってる。ベースの指が追い付いてないきらいもあるが、それもご愛敬。
 楽曲の緩急でなく、パワーに任せてグイグイ押すフリーな展開は、ベテランの老獪さが無く粗削りだが生き生きして良い。この時点のドラムはまだ変則奏法に雪崩れてない。
 つまり演奏テクや構成は一年後の下の動画に負けるが、煮えたぎる勢いはこっちのほうが優れてると思う。ピッツィオコスはバンドのノリと別次元に吹き倒してるなあ。
 15分あたりでサックスがロングトーン、ベースも緩やかな弓弾きで静かに奏で、おもむろにハイテンションに戻っていく。この辺のバランスが今の若い人は巧みだ。倒れるまで前のめりな体育会系なノリで行かず、綺麗にメリハリをつける。

https://www.youtube.com/watch?v=ck9DqkJKsdE
15/2/26 Chris Pitsiokos Trio - Ran Tea House, Brooklyn
 Chris Pitsiokos - alto saxophone, compositions、Max Johnson - bass、Kevin Shea - drums

 上と同じトリオ。ドラムの刻みがちょっとひねりを入れ、ベースはオフ気味だが派手にリズム・キープした。ベースが堂々としてる。
 サックスはけっこう軽やかさを増し、無邪気なほど涼し気なフリーをかました。なんというか、ノッてる感じ。もっともサックスに限らず、三人とも余裕が見える。アンサンブルに慣れが出たか。
 暴走機関車は走り続けず、山あり谷ありのメリハリが一杯のステージ。スリルはいくぶん大人しくなった。11分過ぎのドラム・ソロの時、ケヴィン・シーが譜面を破って、静かに髭を剃るふりするユーモアもみせる。

https://www.youtube.com/watch?v=dXmP9xahn9M
15/7/18 Chris Pitsiokos Trio - at New Revolution Arts, Brooklyn
 Chris Pitsiokos - alto saxophone, compositions、Max Johnson - bass、Kevin Shea - drums

 これも上と同メンバーのトリオ。フリーな場面が多いし終盤は全編インプロっぽいが、基本は曲演奏のようだ。オーネットっぽい曲もやっていた。自分が前面に出すぎず、サイドメンの見せ場もきちんと作った。
 途中で編集もあるがおよそ30分の1set丸ごとと思われる映像。ピッツィオコスはフリーからメロディアスなフレーズ、フリーク・トーンなど一通り技を披露した。スピーディでめちゃくちゃ、だが根底は構成力あり。ただし繰り返しでなくメリハリをつけ、繰り返しを避けるアプローチをとってるうかのよう。
 ランダムに叩きのめすケヴィン・シーのドラムは荒っぽいが存在感あり。むしろマックス・ジョンソンが地味なタメ、もっと前に出て欲しい。

https://www.youtube.com/watch?v=ZhaHrY8XOhQ
https://www.youtube.com/watch?v=fBoibSvySds
15/8/24 Chris Pitsiokos solo @ 65Fen, Brooklyn

 アルトの無伴奏ソロ。最初は奇妙に派手なアクセントつけた5連符のアルペジオを基調のソロで、数分たつと高速の循環呼吸無伴奏ソロに行く。このいななきが彼の得意技のようだ。
 6分過ぎのところで考え込むように無音の場面がしばらく続き、タンギングや息音を使った即興へ。ここではあまり長く続けず、ベルを腿に押しつけ低音を膨らますサックス操作に移った。上の14/3/11ライブと似た構成。この展開はピッツィオコスの鉄板か。
 二つ目の動画は、腿にサックスを押し付け張りつめた響きを絞り出す。間を置きながら軋む音色はメロディ感は希薄だが、緊張感に軸足置いた趣きの凛としたノイズっぷり。ベルを外しても音を響かせず、詰まった空気を持続した。
 そしておもむろにメロディを聴かせる展開に。抽象的だが、ノイズから離れた抒情さを滲ませる切ない旋律だ。終盤ではどうやってるのか、妙に潰れた音色。倍音でメロディ作ってるってことかな。

https://www.youtube.com/watch?v=Dek5cGUEBm0
15/11/2 Chris Pitsiokos - solo alto saxophone - Downtown Music Gallery, NYC

 寛いだムードと張りつめた音の対比を感じられるのが、映像のいいところ。たぶん音だけ聴いたら、えらくストイックなインプロに聴こえたはず。たしかに色合いは単色に似た冷涼なソロだけど、吹いてる様子はそこまで切羽詰まってない。
 このライブでは冒頭3分半くらい過ぎたところで、本来のアルトらしい音域でソロを始める。すぐにフラジオ連発の高速に向かうけれど、本エントリのあちこちで聴けるような倍音の音域音色に慣れた耳では、意外と低めの音域が新鮮だった。そうこう書いてるうちに演奏は高速いななきに突入してたのだが。
 そして6分過ぎに間から息音へ。ピッツィオコスの瞑想めいたソロに突入する。興が乗るまま立ち上がってテンションは右肩上がりに。音数は抑え気味に軋ませ、腿当てに展開した。14分過ぎにいったん曲を終わらせる。
 続いてはメロディアスな曲展開に。あれこれ彼の動画を見てると、彼は自分の引き出しを工夫しながら開けてソロを組み立ててるとしみじみ思う。本能的に見せて、そうとう理知的だ。

https://www.youtube.com/watch?v=6LHOBv4oxJE
https://www.youtube.com/watch?v=FJMAmW2DEU8
https://www.youtube.com/watch?v=FuCQy-1R00I
https://www.youtube.com/watch?v=O3NJYu8ltsU
16/1/4 Chris Pitsiokos Quartet @ JACK
 Cris Pitsiokos - alto sax, compositions, Andrew Smiley - guitar, Henry Fraser - bass, Jason Nazary - drums

 4分割、ピッツィオコスのカルテット編成なライブ。のちに今年7月にはこのメンツでCP Unit名義に変わる
 エレべが唸り、ドラムとのグルーヴを作った。連打の途中を変なところで音符を抜き、痙攣するようなビートをジェイソン・ナザリーのドラムは作った。素直なオスティナートでヘンリー・フレイザーのベースが応え、流れを作る。
 メインのメロディは上下するが、バッキングのフレーズを固定でミニマルな展開が、本ユニットの特徴か。アンドリュー・スマイリーのギターはバッキングよりもむしろソロ要員。音出しも少なめで、ドラムとベースのノリへ明確に貢献はしない。ただ、この映像がギターの音をあまり拾っておらず印象薄いせいもある。

 ピッツィオコスのサックスは一人だけ倍テンポで吹いてるかのよう。猛然たるフレーズを小節に叩き込み、目まぐるしい暴風雨を作った。
 ライブは高速疾走一辺倒でなく、ときおりペースを落とした曲も吹いてメリハリだす。だがリズム隊がどんどん盛り上がり、すぐに激しくなるのがおかしかった。上の7/18ライブでやってたオーネット風の曲をここでも演奏してるっぽい。

 ドラムのジェイソン・ナザリーも面白いな。ソロのライブ動画があった。
https://www.youtube.com/watch?v=VsxkKfgn08g
 07年頃から音盤に参加もいろいろあり。Webはこちら。
https://jasonnazary.wordpress.com/


https://www.youtube.com/watch?v=pzen1fhusC0
16/1/10 CP Unit - at Trans-Pecos, Brooklyn
 Chris Pitsiokos - alto saxophone, compositions,Brandon Seabrook - guitar,Tim Dahl - bass,Weasel Walter - drums
 前の日記で貼ったライブ。これはCP "Unit"、CP Quartetとは別か。編成を変えてリーダー・カルテットを二つ、彼は稼働させてるのね。

https://www.youtube.com/watch?v=ZeKPIuBAXuQ
16/3/4 Joe Morris, Chris Pitsiokos @ Muchmore's

 ベテランの即興奏者、ジョー・モリスとのデュオ。寄り添わず自由に弾き流れるモリスへ、ピッツィオコスは変に絡まず肩の力抜いた即興で応えた。良い感じのバランスなインプロで、二本の音列が関係ありそうで無関係に流れていく。
 ある意味、手癖に満ちたフリージャズ。間よりも互いの高速な音で埋めた。競争やテクニックの披露じゃない。空白での間延びを恐れるかのように。メリハリ無くどんどんと時間が進んでいった。

https://www.youtube.com/watch?v=BB4T-F5kt8U
16/6/7 CP Unit - at Muchmore's, Brooklyn
 前の日記でも貼ったライブ。感想は割愛。

https://www.youtube.com/watch?v=_c41qyE9DxQ
16/7/13 CP Quartet - at Muchmore's, Brooklyn
 前の日記でも貼ったライブ。感想は割愛。

https://www.youtube.com/watch?v=_CgRd9k1GmA
16/8/18 CP Quartet - at Muchmore's, Brooklyn
 Chris Pitsiokos - alto saxophone, compositions,Andrew Smiley - guitar,Henry Fraser - fretless electric bass,Jason Nazary - drums

 さきおとといのライブ。今のレギュラー・カルテットによるライブ。キメの多いアンサンブルをダイナミックに展開した。上の16/1/4と同じメンバーだ。ドタバタするドラムに手数多いベース、ギターが切りこみサックスが暴れる。
 きっちり作曲された楽曲を即興と織り交ぜ、複雑なことをやっている。偶発性とテクニックが良い感じで馴染む、ナイスな演奏だ。貫禄すら既に漂い始めた。
 ジャズよりチェンバー・プログレ的な鋭角さを出し、スイング感とは無縁なノリ。かっこいいから、別にいいけど。
 リーダーシップはサックスだが、バンドメンバーも遠慮せず前に出てくる。ギターだけが、一歩引いてる感じ。

 上記以外にも彼のライブ動画は色々あり。きりがないな。前の日記で書いたDon MountってIDの人を中心に、色々と上がってる。良い時代だ。なかなか様子がわからぬNY即興シーンの状況を、なんとなく追体験できる。

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