Jad Fair and Kramer 「Roll Out the Barrel」(1988)

 詩人ジャド・フェアを担ぎ、ラフなアイディアを詰め込んだ一枚。

 27曲入り、カバーを多数含む。クレイマーが主催したシミー・ディスクの12枚目。膨大にあるクレイマーのコラボ作として、初期にあたる作品だ。
 さまざまに妙で尖った才能ある人物が集まった、NYの音楽仲間かいわいでクレイマーは、当時は出世頭とだった思われる。スタジオを持ち、レーベルを主宰して。
 
 ただし当時の彼の音楽を評価には、パンクを通過したスカムの視点が欠かせない。あるいはドラッグでのヘロヘロな酩酊。テキトーにむちゃくちゃに、荒っぽく。テクニックがあろうとも、雑さこそ優美って価値観が根底にある。
 そんな要素がこの時点の音楽では、それなりの比率を持つ。したがって後追いかつシラフで聴いてると、少しばかり辛い。若さゆえの暴走は、音楽的なクオリティと逆ベクトルだ。

 こんな騒ぎを冷めて見ていたのか。本盤でもサックスを吹いてるジョン・ゾーンは、同じようにレーベルを始動させながらも着実だった。ジワジワと地歩を固めクリーンで強靭な音楽環境を、しっかり築いて独自のシーン形成に成功した。生々流転のクレイマーとはエラい違いが、今にして出てる。

 だが当時はイケイケのクレイマー。絶頂期はもう数年後と思うが、ボングウォーター、キングミサイル、B.A.L.L.、ショッカビリーと刺激的なバンドを同時進行させていた。
 そんななか、ハーフ・ジャパニーズのジャド・フェアと組んだ初コラボ盤がこれ。ジャドはクレイマーの4歳上で当時34歳。ハーフ・ジャパニーズのデビューが80年だから、クレイマーにはちょっと先輩格だったのかも。

 本盤ではコラボといいつつ、主導権が誰かは謎だ。音楽的にはクレイマー。全編で作曲をした。歌詞はWikiにPenn Jilletteの作品とあるが、これは間違い。ジャケットにはジャドの歌詞とクレジットあり。
 Penn Jilletteは(4)と(21)でボーカルを取った。彼はマジシャンであり、コメディアン。88年当時はペン&テラーというユニットで活動っぽい。こういう芸風みたい。


 本盤はジャドの世界観をクレイマーが音楽化した?だがクレイマーの趣味ならば、もっとサイケに仕上げそうな気がする。まさに(9)のように。
 カバーのセンスもオールディーズ満載で謎だ。
 ジャドの思い付きをクレイマーが形にした?クレイマーがジャドを操り人形でスカムな一枚を作った?それとも二人して盛り上がりながら作った?どれが実際のとこだろう。

 本盤はクレイマーが鍵盤やベースを演奏。打楽器のほぼすべてはクレイマーとなじみ深いバンド仲間のデヴィッド・リクト。
 ギターのほとんどはハーフ・ジャパニーズでジャドと、B.A.L.L.でクレイマーとバンド仲間な、これまた当時イケイケのドン・フレミングが担当した。

 ゲストも今となっては豪華。ジョン・ゾーンがLPのB面にあたる(16)以降でサックスを吹き、ソニック・ユースでデビュー済みのキム・ゴードンとサーストン・ムーアが(22)で参加してる。当時のニューヨークの音楽仲間がずらり揃った。

 その割に、演奏は雑でいい加減なのが悩ましい。フリーキーなゾーンのサックス、曲によって冴えわたるクレイマーのアレンジなど、耳をそばだてる箇所はいくつもあるのだが…。
 ジャドは詩人としてポエトリー・リーディングな位置づけで、歌うことは歌うが下手。歌唱力より歌詞に軸足を置いた。ラップのノリでなく、鼻歌みたい。アクセントつけた朗読が、音楽に溶けるスタイル。
 ところどころで非常に音楽的な世界が産まれる。ぼくは当時何回か聴いて辟易したが、今本項を書きながら繰り返し聴いてると、面白い箇所がいくつも。聴きこむならもっと面白い盤は確かにあるが、本盤も捨てたものじゃない。

 なお本盤の約1/3がカバーだ。(3)はディラン、(15)と(27)はトラッド。
 (16)はビートルズで、(17)はチャック・ベリー。(21)はビートルズのカバーで知られるアイズリー・ブラザーズの曲。
 (22)はたぶん若かりし才能と彼らが注目してたであろう、ダニエル・ジョンストンの曲。(23)はホーギー・カーマイケル。スタンダードって位置づけか。(25)もジャズ・スタンダード。

 LPにこれだけ詰め込むから、各曲は1~2分。次々とアイディアが溢れた。
 (1)はザクザクと刻むリズムと違う譜割で朗読が入る。ボ・ディドリー・ビートとは違うが、そんな前のめりのノリ。音質もラフで、初手から荒っぽい幕開けだ。朗読の会話風がちょっと入り(2)へ。
 (2)はヘンテコなピアノの乱打にジャドの甲高い絶叫。リコーダーをひよひよ吹いてるのもクレイマーか。一転してピアノと同じ譜割で群唱になる部分がカッコいい。全体の雰囲気はラリってる。

 (3)は静かなアコギと背後にベースらしき動き。サイケな幻想性と、どこか危なっかしいムードが並列する。ジャドはぼおっとした雰囲気で呟くように朗読した。3分弱続くこの曲は、歌詞がわからないと途中で飽きてしまう。
 ディランの(4)は前述のPenn Jilletteが語りを乗せ、ジャドが茶々を入れた。無秩序なハーモニカに騙されるけど、淡々と鳴るピアノと乾いたパーカッションのクールな雰囲気が良い。コラージュめいた編集も冴えている。

 (5)はオブリのエレキギターが地味にメロディアスで良い。伴奏はどっぷりとエコーで潰したピアノ。クレイマーの趣味全開だ。途中でエレキベースが軽やかなオブリで入る。楽曲は朗読で単調だが、バッキングは渋い。
 (6)はボンゴ風のリズムとギターの刻み。20秒であっという間に終わってしまう。
 今回、特に惹かれたのが(7)。早回し風のループが軽やかに繰り返され、数本のエレキギターがシンプルに鳴る。素晴らしいアレンジだ。朗読へ寄り添わず、朗読と音楽が並列で立ち上がった。
 (8)はマリンバとエレキギターのサイケなからみ。淡々とした朗読に、女性の声でヘンな歌が無秩序に入る。即興的なアイディアっぽい。これはこれで面白いが。

 そして(9)。クレイマーのオリジナルらしい、隠れた名曲。メロディが希薄な本盤で、唯一の明確なサイケ・ポップに仕上がった。
 サックスのRalph Carneyはスタジオ・ミュージシャン的な参加か。この前後で、クレイマーのセッションにしばしばクレジットされる。
 ジョン・ゾーンが近しい位置にいたというのに、敢えてゾーンをつかわずにラルフか。贅沢な話だ。
 ポップをサイケ風に潰したアレンジで、賑やかにラルフはサックスをブロウさせる。ボーカルはクレイマーも歌ってる。クレイマーのソロに入っててもおかしくなく、ジャドはあまり目立たない。

 (10)はピアノが淡々と同じフレーズを繰り返し、エコーをたっぷりまぶした朗読がダブル・トラックで乗った。エレキギターが複数本入り、じわっと厚みあるサイケな世界を作る。これもクレイマーのアレンジが光る一曲。朗読のため、地味だが。

 (11)は同じような音像だが、ピアノの代わりにエレキギターをメインに置いた。ロックな位置づけならこちら。クレイマー流のサイケなら(10)を推したい。だがちょっと単調かな。途中で一瞬だけ少しテンポ上げたり、アレンジに工夫あるのだが。
  (12)はアコギの弾き語り風。朗読はあえて音程を外すような配置で酩酊感を出す。
 クレイマーのソロっぽい歪んだギターとオルガンの刻みで豪快に決めたのが(13)。右チャンネルに朗読が押しやられ、すっかりクレイマーは自分の世界を作った。これもクレイマー視点で楽しめる一曲だ。
 
 (14)は(12)のエレキ版。歌詞がわからず、いまいち楽しめない。ピアノが加わったり、若干アレンジは工夫してる。
 手拍子のみの無伴奏でへなちょこボーカルな(15)は、フリークスなジャドの世界。シラフか、彼は?途中でテープ・コラージュ風のノイズが加わり、音楽的には若干面白い形をクレイマーは作った。
 
 アイディア一発の極みがビートルズの(16)。"Help"を無伴奏の朗読風に語る。オリジナルの長音符はそのまま伸ばした。平歌の譜割は音程感が無いだけで、オリジナルのまま。コンガの乾いたバッキングのみでジャドはヨレた声で淡々と一コーラス歌い、いや語り切った。
 赤んぼ風のテープ・コラージュが加わり、終盤で変調した声でアカペラっぽい世界がこの曲の聴きどころ。しかし、楽曲としては変てこ。

 (17)も語りふうにチャック・ベリーをカバー。このセンスは何なんだ。ゾーンがアルト・サックスをいななくように軋ませた。鉄琴を混ぜたりアレンジに色々遊びあり。
 冒頭の乱雑さに飛ばさず最後まで聴くほうがいい。

 楽曲風だが、やっぱり朗読な(18)。メロディ感はあるし、アコギ中心のアレンジはクレイマー流のポップ・サウンドな予感を漂わす。せっかくならきちんとボーカルつけて欲しかった。とはいえ演奏は結構荒っぽい。

 セッションみたいな(19)はスカムな印象。クレイマーらのハーモニーがへろへろと腰砕けに響く。和音感のせいだろう。ギターとメロディが噛み合ってない。
 ゾーンがロングトーンでサイレンみたいなフラジオを鳴らした。ジャドはハーモニーに加わってるようだが、本テイクは音楽が主役。
 しっかりしたメロディを中心に置かず、ハーモニー風に潜らせた。クレイマーの冴えたとこながら、もどかしくもある。つまりはきちんと歌ものに仕上がったことも意味するから。
 
 (20)はゾーンのサックスが左右を飛び交う。多重録音で倍音を軋ませ倒した。
 アコギのストロークと数本のサックスが跳ねる音像は、ゾーン中心に聴くと面白い。気弱気なジャドでなく。
 (21)もアイディア一発。ハーモニーにPenn Jilletteが参加。音痴なジャドの歌に野太いレスポンスが入る。アコギにとっ散らかったパーカッション。あれよあれよと戸惑ってるうちに一曲が終わる。

 (22)は曲と言いつつ、朗読だ。ベースとギターの抽象的な蠢きが、キムとサーストンか。ドラムもバタバタ鳴った。メリハリ無いため、サーストンら目当てで聴くと拍子抜けのはず。幻聴のごとくかすかにゾーンがサックスをかぶせた。一発録りでなく、サックスはダビングかも。
 4分強と本盤では最も長い尺を使ってるが、正直なとこ単調だ。ジャドの朗読も音楽と特に絡まず、ただしゃべる。この異物感が面白いのかもしれないが。
 
 ゾーンが高速メロディアスなサックスを冒頭から聴かせる(23)。メロディ感を削ぎ落したジャドの歌で、ドラムとギターも加わりフリージャズみたいな、落ち着きのないリズムを作った。ただこれは偶発でなくクレイマーのディレクションだろう。
 フリーキーさとメロディを行き来する、若かりしゾーンの生き生きしたサックスを聴いても楽しめる。でもあまりカバーである必然性を感じない。あまりに超解釈なため。

 (24)はホンキートンク風にエコー処理したピアノへ、シンセが絡む。少しばかりキュートな色。エレキギターが入り、合間を縫うようにジャドの詩が入る。
 いや、ジャドが主役のアレンジなはずだが、今は逆に音楽へ耳を傾けてしまう。あっという間に終わる商品だが、音像のアイディアは面白い。

 (25)も(23)と同様、なぜカバー?な曲。調子っぱずれなジャドの叫びも混ぜた語り歌へゾーンのサックスやらパーカッションがおかずに入る。弾きっぱなしでなくブレイクを入れたり、細かくクレイマーはアレンジしてるっぽい。
 鍵盤が不穏なムードを作る(26)。脱力スカム・パンクが続いたムードを、再びサイケな色で引き締めた。エレキギターの唸りが詩の裏で響く。ちょっとクール。
 
 そして最後に(27)。リバーブたっぷりな中、歌ともざわめきともつかぬ響きが広がった。コラージュっぽい混沌も。最初は教会みたいに厳かなムード作りかとも思ったが、なんだかつかみどころ無いまま、幕。

 この投げっぱなし感が、当時のクレイマーのスカムな色あい。ミュージシャンとしてサウンドの構築に移るには、あと数年を要する。その意味で原石だが冴えたアイディアの詰まった盤と、本盤を位置づけられなくもない。
 本盤を何度も繰り返し聴くよりは、クレイマーのソロを全面的に薦めるけれど。時代の空気の記録として、本盤は楽しむほうがいい。

 CDは廃盤だがMP3で容易に聴ける。
  

 最後にオマケ。
 ジャドとダニエルソン、クレイマーによる14年のライブ映像。うおー、こんなのやってたんだ。他にも数曲、ネットで見られる。左が9/9のNY、右が9/3のフィラデルフィア。ホフナー・ベースを弾くクレイマーがろくに映らない・・・。
 

Track listing:
1. Cheerleaders Wild Weekend.
2. Double For Me.
3. Bird Of Prey.
4. Subterranean Homesick Blues.
5. If It's O.K..
6. Better Safe Than Sorry.
7. Den Of Angels.
8. Blind Hope.
9. California.
10. When Is She Coming.
11. Second Thought.
12. Eye Of The Hurricane.
13. Best Left Unsaid.
14. No One Knows.
15. By And By.
16. Help.
17. Around And Around.
18. What I've Been Waiting For.
19. Load And Mount.
20. Nosferatu.
21. Twist And Shout.
22. King Kong.
23. Rockin' Chair.
24. Easy To See.
25. On The Sunny Side Of The Street.
26. Flower Of The North.
27. Paths Of Glory

Personnel:
Producer, Engineer,Music By [Except Where Noted] - Kramer
Banjo, Vocals [Singing] - Rebby Sharp (tracks: 1 to 15)
Guitar [All Over] - Don Fleming
Percussion [All Over] - David Licht
Saxophone [All Over Side Two] - John Zorn (on 16 to 27)
Words By [Except Where Noted] - Jad Fair
Saxophone - Ralph Carney on 9
Featuring - Kim Gordon, Thurston Moore on 22
Vocal - Penn Jillette on 4,21
Drums - Scott Jarvis on 23


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