津上研太 「Kenta Tsugami-BOZO & phonolite 」(2009)

 よりソロに近づいて、自らのバンドBOZOへ水谷浩章のphonoliteを溶け込ませた。
 新機軸よりも音楽性を深く大きく広げるような盤。

 BOZOは津上研太がアルバムとしては02年に始動させた。当時、日本のジャズを積極リリースしてたEast Worksから発売。だがレーベル企画ありきでなく、バンド活動が先だったのではないか。
 この時期、本バンド周辺ミュージシャンの順列組み合わせが多数あり、戸惑っていた。もともとジャズってそういうものかもしれない。一つのシーンにさまざまなミュージシャンがいて、それぞれがリーダー作を出し個性を表現していく。ある意味、本来のジャズらしい空気を味わえていたのかも。

 津上研太は古澤良治郎の"ね"のメンバーでアケタに出演してたイメージがあった。あとは渋谷毅オケのメンバー。それがONJQやDCPRGの参加で聴く機会が増え、ついにBOZOの結成へ。そんな流れで彼を知った。
 BOZOの顔触れだけ見たら、ティポのリズム隊にリリカルな南博のピアノ。さぞかし変拍子でアグレッシブ、かつロマンティックなジャズかと思った。
 けれどBOZOの1stレコ発ライブを02年8月9日に聴いて硬質なグルーヴィさの印象を受けたようだ。当時の感想はこちら

 そのときからBOZOへのイメージは真摯でまじめな硬質さ。なんとなくそのあと、ライブはずっと聴きそびれてる。色々個人的にあって、09年後半ごろからライブへ行くことそのものが激減してるのだが。

 だから僕はBOZOの熱心なリスナーとは、申し訳ないが言い難い。日本ジャズは難しいな。現場がすぐそこにあるし、接し方もわかる。だからライブへ行かなくなった今、ろくに聴きもしない門外漢が適当な事を言ってらあって自分を責めたくなり、凄く文章が書きづらい。割り切って書き進めよう。ファンの人は、読まないでね。

 BOZOは本盤に至るまで、"1st"(2002)、"DUENDE"(2005)、"Red Context-anthology of live 2007-"(2007)と、若干ゆるやかながらもコンスタントにアルバムをリリース。
 ほぼ同じペースで発売に至ったのが、09年発売の本盤となる。逆にその後、BOZOのリリースには至っていない。解散はしてないようだが。
   

 今回共演のPhonoliteは03年に1stをリリース。ほぼBOZOと同様の活動時期となる。前述のようにこの時期は、本盤に参加してるミュージシャンは順列組み合わせのように、さまざまなバンドやセッションを繰り返してたから。って、このバンドの全員が現役。過去形で語るわけにはいかない。

 Phonoliteはもともと8人編成。外山は本バンドのドラマーでもある。水谷の幻想的で浮遊感あるオーケストレーションを楽しめる、繊細で美しいバンドだ。きれいなだけではない。
 芯の太い水谷のベースを軸に強力なリズム隊と様々なキャリアのミュージシャンが織りなす、瑞々しさとしたたかさが共存する複雑なニュアンスも味わいの魅力だ。この辺もアレンジの妙味を生かす水谷らしい音楽ではないか。様々な方向性へ可能性をみせる。

 Phonoliteとしては"while i'm sleeping"(2003)が1st。2nd"My Heart Belongs to Daddy"(2006)で編成が分裂した。トリオ編成と、12人編成のアンサンブルへ。
 現在はさらにphonolite stringsまで派生し"phonolite strings"(2012)の発表に至った。配信のみで"phonolite strings meet 柳原陽一郎 / Live at Pit inn, 1.17.2013"もあり。
  
 Phonoliteは上記と別に、水谷のソロと並列の名義で"Still Crazy"(2008)もリリース。
 この"Still Crazy"の立ち位置が、本盤に呼応してる。つまり自己バンド名義ながらソロも冠して、多層的な立ち位置を示す点が似てる。
 バンドとしての集合パワーと、ソロ名義での責任。双方を一枚でやり、音楽の幅を広げ深める。そんな意向があるのではないか。

 なお本盤のphonolite ensembleは12人編成の縮小版で、サックスとギター、パーカッションを抜いている。BOZOと音がぶつかり、phonoliteに染まるのを避けるためだろう。
 全編がPhonoliteとの共演でもない。全8曲中、4~6の3曲がPhonoliteと共演。あとはカルテットのBOZOが聴ける。
 (5)が2ndや3rdに収録、Phonolite無しのバージョンと聴き比べを楽しませる趣向か。(8)のみ南の楽曲、あとは津上のオリジナル曲を収録した。

 BOZOでサンドイッチしたことで、本盤の印象はドラマティックになった。途中でひっくり返さない、CDならではの起伏を53分かけて作り出す。

 (1)のイントロはフリーキーなソロ。リズムの糸口をつかませない、はたくような外山のビートと絡まり、いつしかベースとピアノが加わって太いグルーヴにつながる。初手からしなやかなしたたかさを表現した。
 
 曲が進むにつれ水谷の存在感が高まる。自由なドラムとビートを溶かし、がっつりと方向性を導いた。南は決して弾きすぎず、少なめの音数で空気を滑らかに塗っていく。
 そして津上はサックスを美しく操った。
 乱暴にブロウしない。特殊奏法のテクニックにも走らない。メロディを垂れ流しもしない。すっと背筋を伸ばし、丁寧に音を乗せていく。
 フレーズを追ってるうちに、いつしか大きなストーリーが産まれてる。

 その様子は(2)でさらに進化した。か細いサックスの音色は金属質に締め付けながらも、フリーに崩れない。メロディアスさを残しつつ、かといってオーソドックスなお約束からは解き放たれて聴こえる。素晴らしい自由さだ。
 続いて聴ける南のピアノも良い。ちょっと濁った響きの和音でも、柔らかいタッチでころころとアドリブが展開した。きっちり叩く鍵盤でも、余韻を響きに残してる。

 ドラムは依然として、パターンのキープとは逆ベクトル。ランダムめいて響く。だがベースが合わさり、しっかりリズムは強靭に鳴った。
 テーマの終わりで、すうっと全員が音を絞る場面が特に好き。筆をすうっと紙から持ち上げるような、力の抜き具合がカッコいい。

 (3)はむしろサックスやピアノが音を抜く。小刻みにシンバルやリムを叩くドラム。けれど決してうるさくない。ベースも緩やかに音を乗せ、空白たっぷりだが過不足無い抜群のバランス感覚な世界を構築した。
 ピアノ・ソロからサックスが入る流れもスマートだ。するりと身をかわし、正面に立つ役割が入れ替わる。ほんのりサブトーン交じりのアルトが、わずかな躊躇いを持った頼もしさを表現した。

 いよいよPhonoliteが加わる(4)。ベースの重厚な弓弾きから、水谷流が炸裂した浮遊感ある響きのアンサンブルに。当然、Phonoliteのメンバーである外山のドラムはしっかり世界観へ馴染んでる。
 ふっくらと穏やかな風景へサックスが加わった。弾み、沈んでいく。あえてピアノを加えず、Phonoliteとの共演を強調するアレンジが見事。
 存分にサックスがアドリブを奏で、細かく変化するアレンジでPhonoliteが受け止めた。

 (5)も同様にピアノが無くPhonoliteと津上の構図で描いた。(4)よりさらにカラフルで濃密。サックス・トリオでいったん設定した場へ、トロンボーンがずるりと滑ってきた。津上のソロが松風のサックスと混ざり、フルートも足される。どんどんと楽器で充満して膨らむさまが刺激いっぱいだ。
 入り乱れる複雑に編まれたサウンドの膨大な情報が、混乱せずスマートかつエレガントに調和している。

 リバーブをたっぷり含み、ピチカートから木管やトロンボーンの跳ねへ。ぽんぽんと水を含んだ音のしぶきで幕開けする(6)は、イントロの空白を的確に生かしたアレンジの余韻が抜群だ。立体的な距離感を演出する、水谷の編曲術が冴えわたる。
 涼やかなサックス・ソロは音像に調和しつつ、しっかりと自らの立ち位置を主張した。

 カルテット編成に戻った(7)。一気にジャズっぽいグルーヴに転換した。ベーシストが同じであると、一瞬とまどってしまう。南が軽やかに鍵盤を鳴らし、サックスはまっすぐに滑るアドリブを取った。
 骨太だがふくよかさを崩さない南のピアノが、たっぷりと暴れた。改めて外山と水谷の奔放で一周回ってタイト極まりないビートにしびれる。 

 恐るべきは最終曲の(8)。これまでの背筋を伸ばした生真面目さが、一気に甘く柔らかく溶けた。曲の違いで、こうまで同じメンバーでも雰囲気が変わるものか。
 南の鋭利な優しさをふんだんに表現したメロディが、和音が、サウンドをふくよかに膨らませた。
 原曲を収録の"Elegy"(2006)よりむしろ、若干テンポも上げてあっさり気味に演奏している。それでも曲の持つ情感の溢れは、本盤でも一面を濡らした。
 
 一通り聴いてそのまま冒頭に戻って聴き返してみる。すると、全く異なる世界観が一枚に詰め込まれたんだと実感する。そして途中のPhonoliteが場面転換の滑らかさに果たした役割の大きさも感じた。繊細に組まれた音の万華鏡が味わえる、傑作。

Track listing:
1. Beyond the mind age
2. On a little red bridge
3. 夜雪 ~In between rain & snow~
4. A spring in our step
5. Mars rush
6. Floating boat
7. Autumn 41
8. Elegy 3

Personnel:
BOZO:
津上研太(sax)、南博(p)、水谷浩章(b)、外山明(ds)

phonolite ensemble:
Miya(Fl)、小林豊美(Fl)、松風鉱一(As,Cl)、松本治(Tb)、平山織絵(Cello)

BOZOのライブ映像は、09年の8/20渋谷公園通りクラシックスと、同年10/13新宿ピットインでの様子が、何曲かYoutubeで聴ける。
 


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