Nara Leão 「Dez Anos Depois」(1971)

 切々とボサノヴァを唄い綴り、しとやかな普遍性を表した一枚。

 もともとナラ・レオンは裕福な家に生まれ、若いときは自宅がミュージシャンのたまり場と化したという。それがきっかけで音楽が活発に鳴り、ボサノヴァの発祥は彼女の家って説もある。
 だが自身は60年代にレコーディングするころには、興味がボサノヴァからサンバへ移っていた。よりアグレッシブな表現とリズムに惹かれたか。そして60年代半ばに米英ロックから影響受けけ興った芸術運動、トロピカリア/トロピカリズモ。ほんの10年足らずの間にボサノヴァからぐいぐいとナラは離れていく。

 当時のブラジルはアメリカの支援で、カステロ・ブランコ将軍が軍事独裁政権を行っていた。自由の賛歌を唄い政府へ疎まれたナラはフランスへ亡命する。その後に発表したのが、本盤。
 彼女のキャリアでは"初の本格的なボサノヴァ・アルバムだそう。邦題は「美しきボサノヴァのミューズ」。
 知識が無いためどれが正しいいか分かっていないけれど。Discogsのディスコグラフィーでは14枚目、Wikiでは13枚目。歌手として作品を多数残した上で、亡命先で切々とボサノヴァを望郷の念で歌った盤ということか。

 収録曲はボサノヴァのスタンダード集、のようだ。アントニオ・カルロス・ジョビンの作曲を筆頭に、2枚組で24曲を収録した。
 ただし調べられた限りでも、(3)は65年、(19)は68年の作曲。10年前に想いを馳せたノスタルジックなアルバムではなく、71年の録音当時でボサノヴァの歴史そのものに向かい合った盤のようだ。

 Disc 1はアコースティック・アンサンブル。亡命先のパリで録音された。同時期に亡命のブラジル人ギタリスト/歌手のTucaがプロデュースした。
 ギターとピアノ程度の簡素な編成で歌われる。(1)で多重ボーカルを行ってるが、他はすごくシンプルな弾き語りめいたアレンジ。逆になぜ(1)だけ小技を使ったんだろう。
 ギターは時に数本聴こえる。ダビングか、複数奏者は不明。ディスコグラフィーがネットで見つからない。
 リズムの要素も薄い。ピアノも刻みより素朴に伴奏のメロディを紡ぐ場面も。妙に稚拙なピアノに聴こえる箇所もあるが、すべてTucaの多重録音かもしれない。
 Tucaのキャリアはここここを参照できる。

 Disc 2はリオでオーケストラが加わった。ナラのギターと歌へあとからダビングしたという。亡命の立場とこの録音の流れが今一つわからないが。リオ録音のアレンジはRoberto Menescal, Luis Eça, Rogério Dupratといった面々。それぞれブラジルで活躍し、リーダー作を持つミュージシャンら。

 こちらではオーケストラのゴージャスさに頼らず、ボンゴやシェイカーも加えた、リズミカルなアレンジも。ブラジルだからリズム楽器はアタバキやカシシかも。
 Disc 2は亡命したナラと共演手法を模索し、テープのみフランスから輸送して伴奏を様々にアレンジ、ってところか。

 むやみに過剰なアレンジを施さない、Disc 2のセンスが素晴らしい。曲ごとに編成を大きく変え、飽きさせない構成だ。(19)のようにナラのギター弾き語りを生かし、ギターを小さくダビングするだけ、みたいなアレンジも混ぜて主役のナラを多面的に光らせた。

 双方の盤を通じ、ナラの歌声は柔らかい。妙ないれこみが無く、肩の力を抜いた。喉を張らずつぶやくようにしみじみと歌いかけた。ウィスパーなどのテクニックではなく、しっとり自然な感じで。譜割を揺らし、微妙なダイナミズムをつけて、歌のうまさをさりげなく披露してる。 
 何年ぐらいの映像だろう。動く、ナラも貼っておこう。
 

 これは67年と明記あり。歌声にパワーがある。本盤での静けさと違い興味深い。

 
 Disc 1で穏やかな世界観を表現し、Disc 2ではブラジル文化そのものを包含したゴージャスさにも目配りする。アルバム全体としても、素朴に触れて複雑なアレンジでしめる流れは物語性があっていい。
 29歳、大人のナラが過去を振り返って、美しく自分の人生を総括するようなコンセプト・アルバムに仕上がった。

 ナラのアルバムは何枚もあるが、廉価版の再発も少ない。活動初期の60年代から70年代初頭までを14枚組Boxにまとめた箱が2013年に出たが、少々高い。MP3でもかろうじて20曲入りのベストがあるくらい。世界的には復刻や再評価は、まだこれからのようだ。
 

 むしろこの二枚、穏やかさと陰りにテーマ化したコンピが手っ取り早いか。
 

Track listing:
Disc 1
Side A
1. Insensatez (Tom Jobim - Vinícius de Moraes)
2. Samba de uma nota só (Tom jobim - Newton Mendonça)
3. Retrato em branco e preto (Tom Jobim - Chico Buarque)
4. Corcovado (Tom Jobim)
5. Garota de Ipanema (Tom Jobim - Vinícius de Moraes)
6. Pois é (Tom Jobim - Chico Buarque)
Side B
1. Chega de Saudade (Tom Jobim - Vinícius de Moraes)
2. Bonita (Tom Jobim - Gene Lees, Ray Gilbert)
3. Você e eu (Carlos Lyra - Vinícius de Moares)
4. Fotografia (Tom Jobim)
5. O grande amor (Tom Jobim - Vinícius de Moraes)
6. Estrada do sol (Tom Jobim - Dolores Duran)
Disc 2
Side A
1. Por toda minha vida (Tom Jobim - Vinícius de Moraes)
2. Desafinado (Tom jobim - Newton Mendonça)
3. Minha namorada (Carlos Lyra - Vinícius de Moraes)
4. Rapaz de bem (Johnny Alf)
5. Vou por aí (Baden Powell - Aloysio de Oliveira)
6. Once I Loved|O amor em paz]] (Tom Jobim - Vinícius de Moraes)
Side B
1. Sabiá (Tom Jobim - Chico Buarque)
2. Meditação (Tom Jobim - Newton Mendonça)
3. Primavera (Carlos Lyra - Vinícius de Moraes)
4. Este seu olhar (Tom Jobim)
5. Outra vez (Tom Jobim)
6. Demais (Tom Jobim - Aloysio de Olieveira)

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