Edge 「Quartet Edge」(2015)
藤掛正隆はfulldesign recordsを主宰し、精力的にリリースを続けている。音楽レーベルは山ほどあれど、ミュージシャンが主宰するレーベルは自分の活動の場、として使用することが多い。
ところが本レーベルの強調すべきは、自らの音源に留まらないところ。アケタ・レーベルに似て、自分の参加しない音源までも活発に発表し続けてきた。
藤掛がボス的存在になることを狙っての、レーベル媒体を使った音楽シーン構築が狙いではなさそう。単純に音楽仲間の面白い音源を発表、くらいの伸び伸びしたスタンスだ。
さらに発表ペースの活発さも特筆すべき。毎日ライブハウスで演奏のほとんどすべては、風にのって消えていく。こういうふうに現場でのダイナミズムを記録してくれる活動はありがたい。可能ならばずっと続けて欲しい。
さて、本盤。Edgeは藤掛が早川岳晴と組んだユニット。このリズム隊を核にさまざまなゲストを招いた活動を指す。別名が崖っぷちセッション。
Webによれば07年から活動を始めた。リリースは08年から、何作も本レーベルより音盤化されている。
今回はWeb記録で言うと「vol.13 辰巳光英tp 佐藤帆sax,org」の音源か。だとしたら08年8月のライブ。さらに吉祥寺GOKスタジオでの録音も、本盤には収録された。録音時期がクレジット無く、実際の演奏時期は分からない。
編集は藤掛。長尺でなく細かく2~8分程度に録音を切ることで、アルバムにメリハリを出した。曲名がついてるけれど、たぶんすべてがインプロ。
ゆったりしたエイトビートの重たいドラムに、丸太で切り倒すような剛腕ベースの頼もしいリズムの上で、サックスとトランペットがフリーに鳴る。さらに上物二人はたまに電子楽器も操った。
早川も含めて4人とも渋さ知らズの常連。しかし本盤は典型的なジャズ言語から離れて、もっと野太い何かに向かってる。全員が自由で、なおかつ鋭くタイム感を操る。
辰巳光英も佐藤帆も、時にブルージーながら、奔放なフレーズ使い。メロディでなく断片の積み上げでアドリブを紡いでいく。
ダンサブルさは狙わず、縦の線も合わさない。だから時に刺激的なポリリズム風の場面も現れる。かといって抽象的に小難しいサウンドも志向せず。フリーに演奏して、それが自然にまとまる快感が詰まった。
4人とも抜群の安定感を誇る。特にリズム隊は強力無比。テンポを自由に変えるドラム、歌うように低音を操るベース。確固たるグルーヴが根底にあり、ビートを走らせてもテンポを変えても、するっと次の瞬間にビタリ揃ったリズムが生まれる。頼もしいったら無い。
フロント二人の電子楽器も余技ではない。ともすれば飛び道具になりかねない音色を、抑えた操作で見事にサウンドに溶け込ませた。スペイシーで、なおかつ硬質。辰巳はペットの音色もリバーブで飛ばしてるようだ。混沌と秩序が絶妙のバランスで現れた。
たとえば(2)でのミニマルな電子音。辰巳が手弾きか。まったく違うテンポでドラムが暴れ、ベースがうねって疾走する。そこで長尺に吼え続ける帆のテナー。猛然たるテンションと電子音のクールな響きが合わさる奇妙で危なっかしい展開が堪らない。
刹那、スパッと全員の音が消え、電子音のソロへ。
次の瞬間、リズムが吹き荒れオルガン音色とテナーのダブル・ソロに向かう。このスリリングな展開は編集無しだろうか。
やがて辰巳もペットに持ち替え、テナーとソロが並行でよじられていく。電子音のランダムなフレーズはそのままに。
ソロ回しもたぶん、その場のノリ。小節数や構成から解き放たれてた。
それぞれの演奏をライブで聴いてると、この凄さに慣れてしまう。しかし改めて音盤で聴くと、実力のすさまじさに圧倒される。
しかしどの曲がスタジオ録音か、よくわからない。それくらい音の質感は揃ってる。
惜しむらくは音作りが柔らかいところ。あまりダイナミズムを付けないマスタリングを施した。マルチ・トラックなのか、音の分離はきれい。
マスタリングでむやみにレベルを上げない、ソフトな音は小音量だとメリハリがもどかしい。
だからなるたけ、でかい音で聴いてほしい。すると迫力がぐいぐい出てくる。
最後の曲から頭に戻ってくるような、円環を描く構成も面白い。先が読めず、予定調和も皆無。しかし破綻無く自由が踊っている。素晴らしい。
この4人ならでは、の演奏と敢えて書こう。たまたま生まれた奇跡ではない。この4人なら不思議ではないクオリティである。しかし本盤での演奏が極上、なのも確かだ。
Track listing:
1. 十字峡
2. The Six
3. Triangle Mouth
4. Bonito Break
5. 象に遭った男
6. Dragon Snake
7. 羊が来る
8. Kurzin
9. The Saint
Personnel:
藤掛正隆 Fujikake Masataka - drums
早川岳晴 Hayakawa Takeharu - bass
辰巳光英 Tatsumi Mitsuhide - trumpet,iphone,theremin
佐藤帆 Sato Han - tenor saxophone, micro korg
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