Elvis Costello & Allen Toussaint 「The River In Reverse」(2006)

 バカラックとの共演に似た大物アラン・トゥーサンとコラボ作。敬愛に終わらず、しっかり自己主張するとこがエルヴィス・コステロ流だ。

 カリフォルニアのサンセット・サウンドと、ニュー・オーリンズのピエティ・ストリート・レコーダーズのスタジオにて、05年11月末から12月頭の2週間であっさり録音が完了した。プロデュースはJoe Henry。

 コステロとトゥーサンの関係は83年にさかのぼる。コステロの"Walking On Thin Ice"でトゥーサンがプロデュースを担当した。さらに"Spike"(1989)収録のバラード"Deep Dark Truthful Mirror"ではピアノを弾き、緩やかに二人の関係はつながっていた。
 05年8月カトリーナ台風の被害後、NYに居を移したトゥーサン。05年9月にカトリーナのチャリティ・ライブで二人は共演の一方、コステロは"The River In Reverse"を書き下ろした。
 この出来事から数か月後、本盤のレコーディングに至る。被災がきっかけのためか、動きが素早い。翌06年2月からフェスの共演をはじめ、5月から7月までツアーに出る。さらに翌07年7月も新たにツアーへと、活発なライブ活動も行った。
 
 本盤はインポスターズがリズム隊、それにトゥーサンのピアノ。ホーン隊とギターがトゥーサンのバンドという混成部隊を取った。つまりリズムはコステロの手ごまで押さえる。色々と運営しやすいというビジネス的な意味合いもあったはずだが、音楽的にはニューオーリンズは上物に抑え、リズムはコステロ流と主導権を渡さない格好だ。
 
 6曲がトゥーサンの過去作をカバー。5曲が共作、1曲がコステロの曲。敬愛しながら、しっかり自己主張をする。それが本盤を奇妙にスリリングなサウンドに仕上げた。

 カバー曲を整理してみよう。
 (1)は1972年のトゥーサンのソロ、"Life, Love And Faith"がオリジナルか。1970年にLee Dorseyが録音、の記述もあるがDiscogには73年のプロモ・シングルのみ記載あり。この辺、よくわからない。他に"Dixie Chicken"(1973)でリトル・フィートがカバーしてる。

 Betty Harrisの67年録音が(2)のオリジナル。(3)と(5)はリー・ドーシーのアルバム"Yes We Can"(1970)に録音あり。
 (7)もリー・ドーシー、71年のシングル曲。70年代はビジネスがアルバム中心と思い込んでたが、シングルのみって曲もあったのね。
 後追いで聴いてる身だと58年頃から活躍してるアラン・トゥーサンは、70年代初頭には既に一時代を築いてシングル・ヒットのみ、みたいな立場と無縁って思い込んでた。

 そして(11)がアーロン・ネヴィルの69年シングル曲。シングルのレーベル写真にはナオミ・ネヴィル名義だが作曲はトゥーサンだったらしい。ミーターズの"Trick Bag"(1976)でもセルフ・カバーされ、コステロも86年にカバーの音源あり。02年の"Blood & Chocolate"の再発ボートラで世に出た。

 では料理っぷりはどうか。これがまた、コステロはニューオーリンズ・ファンクをなぞるつもりはさらさらなさそうだ。
 
 たとえば(1)。リー・ドーシーの盤は歌声の気軽さも後押しして、のどかなグルーヴが全面を覆う。トゥーサンのセルフ・カバーだと、自分の看板背負うせいか若干硬い。重厚さがにじむ。
 ちなみにフィートのテイクだと、もっと骨格のみ吸い取った。頭でっかちとまでは言わないが、理性的に楽曲を料理した。
 これが本盤のテイクになると、がっつりエレキギターがディストーションをかまし、リズムは完全に英国流の堅苦しさ。トゥーサンへの愛情はあるものの、全く違うロックなコステロ流に料理されてるとわかる。
  

 (2)もそう。穏やかで温かく盛り上がるベティ・ハリスのテイクに対して、同じトゥーサンのピアノがありながら、冒頭の歌一発で切なく青白いコステロ節に世界を変えてしまった。アレンジの解釈の問題じゃない。コステロの個性が、陽気さを生真面目な切迫感に変化させた。


 (3)の解釈も面白い。オリジナルはバック・ビートが効いたR&B。トゥーサンのピアノが軽やかに鳴り、ぶいぶいとリズムが押す。テンポが伸び縮みする躍動感もあり。
 本盤ではもっとタイトに仕上げ、ノリが前のめりになった。トゥーサンのピアノがあるけれど、バンドの一体感のほうが強まった。ホーン隊をアレンジしたトゥーサンも、いくぶんこっちのほうが複雑にしてるような。
 コステロのライブ映像では、さらに解釈が変わる。07年7月13日か14日、スペインのフェス出演時のもの。ライブのせいかノリはさらに鋭角に鳴り、ロック色が強まってる。
 

 お次は(5)。リー・ドーシーのテイクはR&B色で粘っこく迫った。歯切れ良いビート感が粘るベースと多層的な魅力を作る。コステロのほうはさらにエイトビートを強調。トゥーサンが歌ってて、すらも。要はピート・トーマスのリズム感によるものだろう。
 
 では(7)に。リー・ドーシーの曲は甘いソウル色のスローに仕上げた。女性ハーモニーがうっすらとゴスペルめいた風景を作り、ピアノとベースがマーチング・バンド風のドラムにグルーヴを付与した。
 74年にカバーしたThe Hues Corporationのテイクも、オリジナルを踏襲して豪華なメロウさを強調するアレンジを採用してる。

 ところがコステロは過去に縛られない。アレンジをピアノのみに絞る冒頭部分で、素朴な寂しさをぐっと強調した。このイメージが先入観を固定させ、ホーン隊らが入ってオリジナルと近しい世界を作っても、朗々としたバラードって色に染めている。
 ここまで原曲と違う風景を作ってしまうと、コステロのテイクを素直に楽しめた。 
 

 聴き比べられる最後は(11)。今はYoutubeでこの手の楽曲がすぐ聴けて、すごく便利だ。あまりファルセットに行かず、3連のピアノを中心にロマンティックなドゥワップ風に仕上げた。ミックスの都合で時に聴こえづらくもなるけれど、ハーモニーがしっかりアートを支える。逆に淡々と刻み続けるピアノがくっきりなバランスで面白い。トゥーサンの意地か。後半はジャズ・ボーカル風にダンディな趣もみせた。

 さて、コステロ版。もう、ハナからジャズ・ボーカルのディナーショー・スタイル。3連は綺麗に消え去り、ソロ・ボーカルをがっつり目立たせるスタイル。この辺は円熟した深みあってこその、説得力だろう。
 R&B色はわずかに漂わせるのみ、コンボ編成と管で綻びそうな豪華さを演出してる。

 と、改めて聴き比べても、コステロはニューオーリンズ・ファンクが狙いではない。カトリーナのチャリティってスタンスは横に置き、音楽的に見たときにはトゥーサンのメロウな作曲力と、軽やかなピアノ弾きに軸足を置いてる。
 逆にトゥーサンから搾取一辺倒にならぬよう、ホーン隊をトゥーサンに任せて完全なコステロ色に染まるのも避けている。
 むしろ(13)みたいに共作曲のほうが、ニューオーリンズ的な色合いがある。

 ニューオーリンズ・グルーヴの単純なかっぱらいでもなく、愛情一辺倒の寄りかかりでもない。自らのキャリアと個性を明確に前面へ出し、トゥーサンと渡り合った。キャリア的にはトゥーサンのほうがベテランだが、自分の世界を築いたコステロもプライド持って自分の音楽性を披露した。
 
 しいて言うならインポスターじゃなく、混成でバンド組んでも良かった。せめて腕力強いピート・トーマスでなく、トゥーサン側のドラマーだったら・・・もっと猥雑な音楽文化の混淆ぶりが本盤で楽しめていたかもしれない。

Track listing:
1. "On Your Way Down" - 4:54
2. "Nearer to You" - 3:32
3. "Tears, Tears and More Tears" - 3:30
4. "The Sharpest Thorn" (Elvis Costello, Toussaint) - 4:16
5. "Who’s Gonna Help Brother Get Further?" - 5:04
6. "The River in Reverse" (Costello) - 4:32
7. "Freedom for the Stallion" - 2:58
8. "Broken Promise Land" (Costello, Toussaint) - 4:34
9. "Ascension Day" (Roy "Professor Longhair" Byrd, Costello, Toussaint) - 2:57
10. "International Echo" (Costello, Toussaint) - 4:58
11. "All These Things" - 4:07
12. "Wonder Woman" - 3:08
13. "Six-Fingered Man" (Costello, Toussaint) - 4:31
14. "Where Is the Love" (Costello, Toussaint) - 3:54

Personnel:
Elvis Costello - vocals, guitar
Allen Toussaint - vocals, piano

The Imposters
Steve Nieve - keyboards
Pete Thomas - drums
Davey Faragher - bass

Anthony "AB" Brown - guitar

The Crescent City Horns
Amadee Castenell - saxophone
Joe "Foxx" Smith - trumpet
Sam Williams - trombone
Brian Cayolle - saxophone
Carl Blouin - baritone saxophone

Joe Henry - producer

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