V.A. 「1-800-New-Funk」(1994) 

 94年、当時のプリンスの人脈を駆使したオムニバス。レーベル・サンプラーな趣きも。

 唐突にリリースされた印象ある。TAFKAP騒動の頃だったろうか。Prince Vaultによれば"Come"が8月半ばの発売、その数日前に本盤が発売とある。ワーナーへの当てつけもあった?あからさまなプリンスのクレジットは、一曲のみ。NPG Recordsからの発売だが、当然ながらほぼすべてがプリンス印だろう、と思った。たぶん、誰もが。

 このころのプリンスはリリース的に守りに見えた。特にシングルのB面がやっつけに聴こえてしまって。精彩を欠いていたともいえる。
 前年の3枚組ベスト・アルバムではブートでおなじみの未発表曲が発表され、B面未発表まで収録。なんだかまとめに入ってた。
 
 才能が枯れたとは欠片も思わなかったが、隠居してしまうのか、と。プロデューサーの座で後進の育成に軸足を移し、本盤がその予告編なのか、と。
 "プリンスの死"をコンセプトにした"Come"の噂はどのくらいリリース前に入ってたかなあ。覚えてない。とにかく当時のプリンスには、80年代のひりひりするリリース・ラッシュの凄みが無かった。

 そこで出た本盤。Ricky P.(Ricky Peterson)のプロデューサークレジットが数曲にあり、"Graffiti Bridge"(1990)以降のプリンスゆかりのメンツを集めた本盤は、蔵出しの中途半端な裏ベスト盤に見えた。
 今の耳でも、あまり印象は変わらない。NPG Recordsの立ち上げを高らかに宣言する名刺代わりのアルバム、ってよりも、ファン・サービスのこじんまりしたオムニバスって感じ。

 プリンスはインディーでバリバリと活動するつもりだ、って実感は翌1995年、New Power Generation名義で"Exodus"、Mayte"Child Of The Sun"と矢継ぎ早に発表してから。
 並行してワーナーからは"The Black Album"の公式発表、"The Gold Experience"と出てるのに。創作の蛇口が壊れたのか、と思った。

 当然、全部まともに聴き込めない。このころからぼくのプリンス体験は「リアルタイムながら後追い」になる。何年もたってから、当時のアルバムの良さがわかるありさま。プリンスは彼に専念しないと聴きこむこともできんのか、とぼんやり考えてたような。

 さて、本盤。なぜプリンスはずっと匿名性を持ち続けたのか。本盤では(2)が何となくプリンスは文字通り関与してなさそうに見えた。あとはRicky P.のプロデュース・クレジットも騙しで、プリンスじゃないのかな、と思った。真実は知らない。
 中途半端にプリンスが投げ出した素材を周りのスタッフが作品化するって構図は、今一つ信じられなかったけれど。妙に軽くて明るいサウンドが本盤には通底し、プリンスの暗黒ファンクはどこ行ったって感じ。

 一曲づつ聴いてみよう。
 (1)は重たい機械仕掛けのファンク。当時はピンと来なかったが、今聴くとプリンス印が濃厚な仕上がりだ。打ち込みテクノっぽいビートに乗るのが、女性ハーモニーの機械的な声だからいけない。どうにも安っぽい。後ろでかすかにプリンスらしいハーモニーが漂うけれど、プリンスの粘っこい歌声ならグッとこの曲はかっこよく鳴ったろう。ライブで映えそうなグルーヴだ。

 (2)はなぜ本盤に収録か謎。クリントンがペイズリー・パークからリリースの2枚目、"Hey Man... Smell My Finger"に収録曲。どういう契約形態なんだ。プリンスが敢えてP-Funkの虎の威を借りてるようで嫌だった。楽曲自身はP-Funk印で軽やか。
 当時、改めてこの盤のこの位置で聴くことで、急にすとんと腑に落ち"Hey Man... Smell My Finger"を聴き返したっけ。それまでいまいち、あの盤はピンと来なかったんだ。

 プリンスとノーナ・ゲイのデュオ、(3)。この曲こそ、良さがしみたのはつい数週間前。なんか単調なミディアム・ファンクだな、と思ってた。ところがYoutubeで当時、テレビの朝番組でのどかに演奏してる映像見て、途端にきゅんと来た。こんなキュートな曲だったのか。
https://www.youtube.com/watch?v=2qaop7tv3Ls
 シンプルな繰り返しで妙な小細工無し、じわじわと盛り上げる。プリンスのスキャットや語りがグルーヴィ。ノーナの歌唱力まで意識した単純な構造だったのかも。リフレインをノーナが重ね、プリンスが煽るスタイルだ。

 マイテが歌う(4)は91年にプリンスがミーシャ・パリスへ提供曲のカバー。マイテの"Child Of The Sun"にも収録された。クレジット上はプリンスが無関与に見えるが、実際はどうだろう。ギターのフレーズなどでプリンスの色も見える。
 楽曲は滑らかでキャッチーなサビ一発で盛り上げる。(3)でもそうだが、プリンスは手心加えて女性を華やかに輝かせる楽曲作りにも長けている。

 (5)が当時も今も意外な選曲だ。4人組のコーラス・グループ、スティールズは"Heaven Help Us All"(1993)にプリンス作曲の"Well Done"を収録した。普通に考えたら、その際の没曲がこれだろうけど。この盤のプロデュースが、Ricky Peterson、すなわち本盤にクレジットのRicky P.。しかし本曲にRicky P.の名前が無い。なんなんだ。
 どうせならズブズブにプリンスの名義で良いじゃないか、なぜスティールズのテイクなのさ。サウンドも妙に軽い。

 NPG名義だが、100%プリンス印が(6)。ライブ会場のみで販売の"Gold Nigga"(1993)に収録曲。なんで手に入りにくい販売手法をするのよ、と思ったかは定かでない。このころは既に就職して仕事がバタバタしてたから、学生時代ほどマメに情報収集もできなかった。ネットもないし。
 ただ、楽曲としてはピンとこない。プリンスのボーカルはハーモニーにうっすら感じる程度。メインの歌抜き、カラオケみたいなファンクってイメージがいまだに抜けぬ。
 いちばんおいしいところを省いてるような。ライブで聴いたら、印象は変わったと思う。
 JBが一小節ファンクの究極だとしたら、これは数小節ファンク。素早くも濃密でもない、なんだか穏やかに黒い煙がたなびいている。
 
 (7)も当時、印象は薄い。Margie Coxって誰?って感じ。今聴くと、プリンスのハーモニーが漂う。ボーカルが素直過ぎるんだな。メロディを丁寧になぞるものの、それ以上の破綻やうねりが無い。歌声のニュアンスって意味で、飾りや毒が無い。シャウト気味に声が跳ねても、フェイクまで行かずお行儀よく聴こえてしまう。
 楽曲は(3)や(4)に通じる、ポップな色合い。プリンスは分かりやすい曲を書いては、人に渡してしまう。自分で歌うには単純すぎるんだろう。

 メイヴィス・ステイプルズの"The Voice"(1993)収録から(8)。どっぷりプリンス印だった"Time Waits For No One"(1989)にくらべ、ずいぶん洗練な印象の"The Voice"。
 この曲もプリンスの作曲だったのか。あまり印象に残ってなかった。
 これまで本盤収録の女性シンガーと比べ、逆にメイヴィスは歌が上手い。したがってプリンス色も咀嚼し、ゴスペル風な自分の色に染め直す。だからなおさら、プリンスの香りが薄まっている。

 目をむいて喜んだのが(9)。3rdアルバムの噂だけあり、そのままボツってたMadhouse名義の新曲。豪華なインスト多重録音だった"16"(1988)に比べ,1st"8"(1987)のカルテット・セッション風味が復活してた。
 終盤でホーンの多重録音など工夫は見えるけれど、ノリ一発の淡々とした展開ながら。
 「もし本盤がレーベル・サンプラーなら、3rdが出ないかな」の望みは結局叶わず、今に至る。

 (10)も印象薄かった。ノーナ・ゲイに思い入れ無かったからな。ボビー・ウーマックのカバー。演奏はNPG印のドタバタさをうっすら伺わす、タイトなファンク。プリンスがギターあたりを弾いてたとしても、特段のコメントは無い。
 でもいい曲だな。今、初めて思った。

 最後の(11)もMPLS名義。まあ、どっから見てもプリンスの変名プロジェクト。(1)のリプライズであっさり終わる。ここだけ抜きだすと、もろにP-Funkの変種だ。

 ということでまちまちなキャラクターを集めた本盤。ポップなプリンスをまとめて聴くって視点なら、統一感がでるか。
 未聴ならぜひ、一度は聴いてほしい。変にこだわらず、あっさりまとめた聴きやすい盤だ。
 

Track listing:
1.MPLS "Minneapolis"
   Edited By - Razor Boy,Mixed By - Ray Hahnfeldt

2.George Clinton "Hollywood"
   Featuring - Dallas Austin, Steve Washington
   Producer - Dallas Austin
   Vocals - Adrian Gomez, Belita Woods, Debra Barsha, Debra Killings,
        Gene Thomas, Theopolis Glass

3.Nona Gaye & Prince "Love Sign"
   Bass - Paul Peterson,Keyboards - Ricky Peterson,Producer - Prince

4.Mayte "If I Love U Tonight"
   Backing Vocals - Kathleen Bradford,Drum Programming - Statik
Featuring - Ricky Peterson,Guitar - Billy Franze

5.The Steeles "Color"
   Featuring - Kirky J,Producer - Kirky J.

6.The New Power Generation "2gether"

7.Margie Cox "Standing At The Altar"
   Backing Vocals - Greg Sain, Rosie Gains,Bass - Jackie Robinson
   Guitar - Levi Seacer Jr.,Keyboards - Mr. Hayes,Saxophone - Eric Leeds
   Producer - Greg Sain, Mr. Hayes

8.Mavis Staples "You Will Be Moved"
   Backing Vocals - The Steeles,Bass - Paul Peterson
   Guitar - Billy Franze, Levi Seacer Jr., Pops Staples
   Horns, Keyboards, Organ - Ricky Peterson
   Percussion - Kirky J.

9.Madhouse "17"

10.Nona Gaye "A Woman's Gotta Have It"
   Bass - Sonny T.,Keyboards - Ricky Peterson,Saxophone - Ken Holmen

11.MPLS "Minneapolis Reprise"

Producer : Ricky P. (tracks: 3, 4, 8, 10) 

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