Incapacitants 「Fabrication」(1992)

 バブルははじけた。ノイズも炸裂する。

 一般的にバブル崩壊とは1991年3月以降を指す。本盤収録の時期は不明だが、実際は世間がバブルに浮かれてた時と思われる。実際、91年頃はまだ景気失速って感じがしなかったし。
 とはいえ金融機関に勤務の美川は、そのへんもっと肌感覚で緊迫感を感じてたのではないか。一曲目のタイトル"破産に行こう"のタイトルが象徴的だ。アルバム・タイトルのFabricationとは「でっちあげ、偽造、うそ」の意味。うわべで飾り立てた好景気の虚飾を、美川が苦々しく見ていた、ってことか。

 (1)のサウンドは全面を覆いつくすインキャパシタンツ印。轟音の合間からときおり軋み音や、変調した叫び声めいたノイズが顔を出す。蠢き、奔出し、うねる。
 ビート性は希薄で、ホワイトノイズの濃霧と、無秩序に溢れる鋭いつんざきの対比でノイズ空間を作った。
 カタルシスも物語の色も無い。ただ、ノイズが噴き出す。冷静に空気を貫くノイズを見つめつつ、自棄に暴れるインキャパ。気持ちを上げて聴けば痛快無比、ちょっと冷静に聴くと諦念や絶望が透けて見える。
 感情を素直にノイズへ込め、コンセプトや暴力衝動と別次元なインキャパならではの清々しいサウンドだ。酒に酩酊してるだけ、かもしれない。
 分析は無意味で、しかし単一ノイズに留まらぬ複雑さを内包した作品。
 
 長尺の(2)は91年8月に福島県田島「キャンプ・イン・田島/パフォーマンス・フェスティバル'91」での音源。キャンプしながら各種パフォーマンスを味わうというバブル炸裂なイベントだ。ノイズ系ではメルツバウやソルマニアが出演したそう。
 この音源は早朝ライブで、観客は秋田昌美ほか数名のみだった、とライナーにある。何人くらいイベントそのものへ参加者がいたかは知らない。いずれにせよ朝っぱらからこのサウンドとは。豪気で無謀で呆れた企画だ。

 (1)よりいくぶん隙間を感じるのは、機材のせいか。埋め尽くすホワイトノイズは無く、変調の絶叫と数本のハーシュ・ノイズが暴れる。背後にうっすらとドローンめいたフィード・バックが漂い、音の深みや濃霧を演出した。
 やはりリズミックさは無く、上下する音程の揺らぎで前進感を出した。

 単調一辺倒ではなく、クロスフェイドのように構成音を変えてノイズの表情をずらしていく。一聴してさほど進展ないように聴こえるが、細かく聴くと同じ音は一つとしてない。ただし構成や作曲ではなく、即興的に飽きないよう切り替えてるっぽい。

 金属質なざらつきが全編を覆う。螺旋状のパルスが幾本も重なり、ズレることでスペイシーなムードも漂わせた。ザクザクと鋭角に上下するうねりが、尖った危なっかしさ。
 シャウトはぐりぐりに変調されたうめきとなり、軋みと奇妙に馴染んだ。連続するノイズと、断片的にスイッチを押し下げする突発さが混在する。
 
 たぶんライブ会場では轟音に耳が潰され、ここまで分離良く聴くことはできない。豪快に炸裂するインキャパの暴れっぷりが緻密に味わえるところが、かなり面白い。
 
Track listing:
1.Go Bankrupt 15:47
2.Good Morning, Tajima (Live In Tajima, Early In The Morning, Aug. 25, 1991) 40:33

Instruments [All Instruments], Voice - F.Kosakai, T.Mikawa

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