Jill Jones 「Jill Jones」(1987)

 バック・コーラスの歌姫が唯一、プリンスの関与で残した盤。散漫さが漂う。

 彼女は"Purple Rain"直前の超ブレイク期にプリンスと共演をつづけた。"1999"あたりから彼女のバック・ボーカルの存在感が光る。上下関係が明確だったプリンスとバンド関係の中で、彼女は何だか別格だった。歌声がプリンスの好みだったのか。もっと根本に、人間関係だったのか。そのへんは分からない。

 本盤は82年から86年まで断続的に録音らしい。プリンスのレコードでいうと、"1999"から"Parade"のあたり。まさにプリンスの創作力が炸裂の頃合いだ。
 発売のタイミングでいうと、"Sign O' The Times"が87年3月。本盤が同年5月。ちょっと強力アルバムの直後すぎ。でも、こんな後だったんだ。ぼくが本盤の存在知ったのは、プリンス・ファミリーとしてMadhouseなどと一緒にワーナーがまとめて発売したとき。ジャケットの古臭さから、"Purple rain"より前かと思ってた。

 アルバムは全8曲入りで作曲はほぼジルとプリンスの共作クレジット。
 音のほうはカバーの"With you"を含め、3曲のみにプリンスが関与とあるが、信憑性は薄い。ほとんど、プリンスの多重録音ではないか。このころのプリンスはクレジット信用できないからな。
 "With you"もスティーブ・ガッド他のセッションと記載あるけれど。このドラムってガッド?なんかモタってる。プリンスが叩いてるように聴こえてならない。


 シングルは3枚切られた。"Mia Bocca"はPVが残っている。

 他に"G-Spot"のB面"Baby Cries (Ay Yah) "、"Mia Bocca"のB面な"77 Bleeker St."がアルバム未収録。プリンスはここでも過剰なリリースを行っていた。前者はプリンスが関与なし、後者はDavid Z.のプロデュースとあるが。
 

 本盤全体の印象は、べっとりしたシンセと硬質なエレクトロ・ビート。張りのあるジルの声を塗りつぶすかのように、音数こそ少ないが個々の音色は強烈な存在感を持つ。
 エロティックな歌詞の一方で、サウンドの質感はヘルシー。エアロビにも使えそう。歌詞を聞くとダメだが。
 "My Man"のように生演奏を駆使したアレンジすらも、打ち込みビートがノリを硬直化する。正直、あまりプリンス(いや、クレジットはDavid Z.だが)は彼女の魅力を顕在化させてない。荒っぽいプラスティックなコーティングに包みすぎた。

 歌唱力はばっちり。シャウトからウィスパーまでいける表現力と声量を持つジルだが、本盤では猛烈なプリンス色に埋め潰された。創作力が溢れるゆえの簡素な演奏ぶりと、とことん作りこむ過剰さ。その両極端が聴ける。

 簡素さ組が"All Day, All Night","For Love","My Man"あたり。
 "All Day, All Night"は喉を潰し気味に歌う彼女の歌唱力で聴かせるが、バッキングはデモ並みの簡素さ。リズムにシンセをザクッと乗せたのみ。
 "For Love"はサウンドすらデモ録音なみに音が悪い。ホーン隊のリフはプリンス印で、ボーカルにもプリンスの影がどっぷり。むしろこれはジル色に染める時間が無かったかのよう。
 "My Man"もデモっぽい録音とアレンジだ。このアルバムは時間かけて録音したためか、曲の統一性やコンセプトが散漫だ。

 過剰さの典型が"Baby, You're A Trip"。
 いかにも当時のプリンスらしい、揺れる穏やかなファンクだ。多重録音で裏にうっすらプリンスらしい声も聴こえる。
 猛烈に厚みあるボーカル・アレンジを取ったが、線が細いプリンスの声と違い、ピンで行けるジルには少しやりすぎな感も。ホーン入れたり、アレンジも凝ってる。もっとシンプルなバッキングでよかったかも。

 これをジルの歌う姿とプリンスのバージョンで並べてみよう。ジルのほうはリップシンクっぽい。プリンスのほうは、ピッチが低い。このカラオケをそのまま回転数上げ、管などをダビングがジルのバージョンだろう。こっち聴くと、プリンスの粘っこくもセクシーな歌唱力を、ジルがフィルター通して毒を抜く変換をしてるとわかる。
 

 ベストは"Violet Blue"。大サビの至福感が素晴らしい。
 高い完成度のアレンジだ。冒頭の幻想的な多重ボーカルから、ストリングスが不穏に鳴り、太くベースがうねる強力ファンクに仕上がった。このテイクの出来は好きだ。シンセ・ドラムの平板さはクールに響き、ギターも加わっての絡みが凄みあるノリを産んだ。ジルの歌声も力強い。
 しかしこのくらいにアルバム全体で、シンセを抑えてくれていたら。この曲みたいな生演奏路線を明確に強調したら、凄まじいアルバムになった気がしてならない。

 "G-Spot"も良い。打ち込みにホーン隊が肉感的に絡む。サビのフレーズをメカニカルに歌うジルのそっけなさが、この曲を多層的な魅力に仕立てた。
 シンプルなメロディだが延々と聴いていたいファンク。これなんかはジルの歌よりも演奏や楽曲のほうに魅力がありすぎ。これも一種の、プリンスのやりすぎか。

 ちなみに本盤のアウトテイクには"Living Doll","Killin' At The Soda Shop","Married Man","Come Elektra Tuesday","My Sex","Euphoria Highway"があるという。
 僕が聴いたことあるのは今、Youtubeで出てくる"Euphoria Highway"のみ。他はどんな曲だろう。


 本盤のあとは、華やかと言い難いキャリアを彼女は積み重ねた。
 プリンスのプロデュースは1作のみ。2ndも企画されたが、丸ごとボツった。
 2nd用のテイクと思われるプリンスとの未発表デュオ、"4 Lust"を2011年にジル自身がFacebookで公開、当時に話題になったそうだ。


 他にも2nd用には"My Baby Knows How 2 Love Me","Boom Boom","Flesh And Blood","Am I Without U?"の存在がうわさされた。

 "My Baby Knows How 2 Love Me"は音源が流出した。ちょっとピッチを上げた性急に前のめりなファンク。幾層もボーカルがダビングしミュージカルちっくな曲。プリンスの裏声シャウトも聴こえる。

 "Boom Boom"に至ってはPVまで残ってる。プリンスっぽいファルセットの掛け合いがサビ裏にあり。

 "Flesh And Blood"は楽曲の流出あるが、Youtubeに見当たらない。ちょっとエスニックな香りする派手なアップテンポの曲。パワーあふれるメロディをジルは多重ボーカルで、ベタッとしたシンセに負けず厚く響かせた。コーラスのゲート加工したボーカルは、プリンスにも思える。
 "Am I Without U?"は流出ありかな?ぼくは聴いたこと無い。

 最後に、彼女のディスコグラフィーは以下の通り。

[Discography]
Jill Jones (1987), Paisley Park
Two (2001), Dav Music
Wasted (The Grand Royals Ft. Jill Jones) (2004), Peace Bisquit
Living for the Weekend (2009), Peace Bisquit

    
 
 89年頃にプリンスと袂を分かってから、10年ほどアルバム・リリースが無かった。
 なお90年には坂本龍一の"You Do Me"(1990)にも彼女は参加した。ミクスチャーで坂本が冴えてたころ。アルバム"Beauty"(1989)の海外版のみに収録。ああ、だから日本盤で聴いてたぼくは、知らない曲だったのか。かっこいいね。


 さらにFlying Recordsから"Bald" (1993)のリリースはあったが、アルバムまで玉成せず。このテイク、かな?別の人が行ったリミックスっぽいが。


 ジルは今でも健在、Facebookで投稿はあるが音楽活動が見えない。どんな活動をしてるんだろう。
 本盤も契約の関係で廃盤、プリンスの死を受けてかべらぼうなプレイミアがついている。ぶっちゃけYoutubeで音源は聴けるけれど。そこまで過剰に秘める盤でもない。この手の盤は、容易に流通してほしいものだ。

Track listing:
1.Intro (Baby, You're A Trip) / Mia Bocca 7:21
    Co-producer - Prince

2.G-Spot 4:30
3.Violet Blue 4:24
4.With You   4:00
   Bass - Tony Levin,Drums - Steve Gadd
   Guitar - Hugh McCracken, Steve Stevens
   Keyboards - Mike Chase, Piano - Rob Mounsey

5.All Day, All Night 5:41
   Co-producer - Prince,Featuring - The Revolution

6.For Love 4:27
   Co-producer - Prince
   Drums - Jellybean Johnson,Saxophone - Eric Leeds

7.My Man 3:15
8.Baby, You're A Trip 5:23

Personnel:
Composed By - Jill Jones (tracks: 1 to 3, 5 to 8), Prince (tracks: 1, 2, 4 to 6)
Arranged By, Conductor [Orchestra] - Clare Fischer
Producer - David Z., Jill Jones

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