風玉 「ファーストペンギン」(2007)

 ネット発信、日本ならではの瑞々しいラップ。

  アメリカで生まれたラップは、根本的にマッチョイズムやギャングスタの凄みがある。自己表現の根幹に緊張感が必要なのだろうか。では気弱な男がラップはしないのか。これが、わからない。Beckの"Loser"(1994)は例が古すぎる。それにあの曲にも、どこかやさぐれた凄みがある。気弱な男の、繊細で線の細いラップってのを聴いてみたいのだが。

 逆に日本ではオラオラ系のラップもある一方で、ニコニコ動画を主戦場(らしい。きちんと現場を追っておらずリアルな実感を持って、僕はコメントできない)に、独特のしなやかなラップを作り出した。ニコラップと言われるシーン、だ。
 その先駆者な一人が、風玉。いまの名義はらっぷびと。
 当時の作品。07年05月26日に投稿、とある。


 このニコラップ界隈には、2012年に"Grilled Beef"という10分越えの名曲があった。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm17891869
 なぜかいつしか消されてるのが残念。さまざまなタイプのラッパーがいるのがよくわかり、とても面白い。このDLリンク先やサンクラはまだ生きてるが、この曲は動画つきのほうがなおさら楽しめると思う。
https://soundcloud.com/babysickk/grilled

 話を本盤に戻そう。本盤を出したのは彼がたぶん20歳くらいの頃。デビュー前の高校時代に彼は、同級生と組んだクルーROMPIN CREW(もちろん、さんぴんCAMPのもじり)を結成した。
 数年かけてトラックを次々作製して、風花名義でネットでフリー配布したアルバムがこれ。配布URLがこちら。
 http://sound.jp/rompin/album.htm

 彼が主宰するイベント"World Wid Words"のライブMCと思われる(7)は青春賛歌めいた言葉すらつづられるが、これは作為でなくリアルタイムの言葉だ。それほど若く、なおかつ完成度が高い。トラックの出来やラップのテクニックではなく、全体の質感が整っている。
 うわずるようなラップの声質、畳みかけるスピード、そして譜割をコントロールして言葉をリズムに乗せる創意工夫。どれにも荒っぽさが無い。

 力任せに迫力や凄みで押さない。ちょっとばかしひねくれたムードを出そうとも、アウトローには向かわない。いわゆる反社会的な破壊衝動とは別ベクトルのラップが、奇妙に耳を引く。

 この盤は頭の2曲を、よく聴いた。いつ聴いたんだっけな?リアルタイムじゃない。たぶん。数年後。日本語ラップに興味持ってあれこれ検索してたとき、たまたま行き着いたんだと思う。

 複数の声で威勢よくシャウトするさまが、まさに高校生って感じで「若々しいなあ」と中年のおっさんはしみじみした(1)。奇数連符を平然と使いこなし、言葉をくっきり載せる言語感にしびれた。
 やたらメロディアスで若々しいスピード感と、チープなトラックの響きがバッチリ調和して聴こえた(2)。

 ぼくがこの盤を20代前半で聴いたら、全く違う感想を持ったと思う。40歳を超えて違う世代が伸び伸びとラップしてるさまに、リズム感の鮮やかさへ素直に惹かれた。

 アメリカのアウトローでギャングスタなラップも、日本のオラオラ系ラップも、もちろん本盤のラップも、ぼくはリアリティを持って聴けない。あくまでサウンドの面白さを楽しむだけだ。
 今のフリースタイル・バトル見ても、「あんなに次々と言葉が出てこないなあ」と、マジで思う。歳をとるってのは、こういうことか。

 だが若い連中の音楽を聴いて悪いことは無い、よね。決してリアルさを持てないファンタジーの一つとして、ぼくはこの瑞々しいラップをたまに聴き返したい。

Track Listing:
01 すたぁとだっしゅ
02 Rap Music 2007
03 サンライトハート
04 一人じゃないじゃん的な feat. KOU
05 Andante -rhapsody- feat. くり, boon
06 涙のピースサイン feat. 抹
07 skit -World Wide Words 1-
08 When They Cry (TOFUBEATS remix)
09 Laugh Life in Rough Life
10 モッチャ feat. KOU
11 スキルハンター feat. motsu
12 幸せノート
13 skit -World Wide Words 2-
14 Network Performance feat. yack, 枯渇, TOSHIKI, 抹, イロリ, 実車中
15 ありがとうのうた

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