Prince 「Purple Rain」(1984)

 時代がプリンスと噛み合った。編集が冴え、ポップさを強調の傑作アルバム。
 そして"ビートに抱かれて"が異物であり、むしろ続作"Around the world in a day"の予告編だったと思う。

 映画のサントラで発売、大ヒットしてプリンスが巨大ステップを踏み出した。創作力と予算も噛み合ったのか、本盤あたりから膨大な未発表曲のストックが生まれ始めたとのうわさあり。生前はプリンスのコントロール力で、一切の裏話は出てこなかった。これから、色々と語られて墓が暴かれていくのだろう。悔しいし悲しいが、覗き見趣味をくすぐられもする。

 プリンスは本盤で明確なアイコン化を意識した。ワーナーの努力、映画産業のプロモーション技術をプリンスが取り入れたとも思う。紫の色、鋭く手書きっぽいフォント、バイクに乗った姿、レースを大胆に取り入れた服装、そしてスモーク。
 わかりやすくイメージを固定し、認識をブラさない。気持ち悪いとも評価される、個性も含めた異物感は、とにかく観客へ強烈な印象を植え付けた。
 ものすごく細かく言うと、この盤でも曲によって微妙に白基調だったりとビジュアル・イメージジは統一されてない。けれど、全体像のプランニングは猛烈にまとまっていた。

 MTV時代にぴったりはまり、一枚のアルバムから多数のシングルを切る流行にも乗った。全9曲中、5曲がシングル・カット。"Take Me with U"のB面は"Baby I'm a Star"だから、実質は6曲だ。
 他のシングルはすべてLP未収録。ふんだんに溢れる創作力を奔出させる環境を作り上げてきた。

 サウンドも華やかだ。わかりやすいメロディ、ばふんと鳴るドラム、鮮やかに響くシンセ。そして歪んでサスティンが効きまくったエレキギター。すべてが濃密に溢れ、隙が無い。

 本盤について語ることは山ほどある。エピソードも既存の情報をまとめるだけで、様々な視点が書ける。ここではそれは別の機会に回し、音楽について思うことを書いてみたい。

 "Purple Rain"は長尺の元テイクがあることは、ブートレグを通じて知られている。たぶん"Baby I'm A Star"と"When Doves Cry"以外すべて。公式リリースが無く、あやふやだが。
 その"元テイク"からわかることは、とにかくスピーディに次々と展開したことだ。

 本盤からプリンスは自らのバンド、レボリューションズを本格稼働させた。音楽的にはジャムで盛り上がるグルーヴの楽しさと、ベストテイクを作るまでの回り道。その双方が産まれたことではないか。
 一丸となってファンクする感覚的な楽しさと、音だけで冷静に聴いたら冗長な場面。

 "1999"では12インチを意識かのごとく、このピント合わせは少しばかり緩んでた。だが"Purple Rain"は違う。余計な繰り返しやブレイクを片端からそぎ落とし、どんどんとシェイプ・アップさせて締め上げた。
 これが見事に成功し、情報量が凄まじいアルバムになってる。ジェットコースターのように場面展開が激しいA面。
 
 ざらっとドライな"When Doves Cry"でB面の頭を引き締め、あとはライブのカタルシスを存分に味わえる。"I Would Die 4 U"はテープの回転を上げて、スピード感を強調した。そして最後は長大バラードの"Purple Rain"でしみじみできる格好だ。完璧すぎる。

 "Purple Rain"も、ライブでの歌やソロを細かく丁寧に切り刻み、リフレインを続ける切ない情感の持続をそのままに、冗長さを慎重かつ繊細に取り除いた。
 いかに聴き手を盤に集中させるか。映画でコマ単位の編集を施す、慎重さが本盤から匂ってくる。プリンスは本盤でサントラと自己のポップ・アルバムの落としどころを探っていたようだ。

 英文Wikiを読むと、本盤の前に2種類の曲シーケンスをプリンスは構想あり、の記述が興味深い。実に丁寧に熱を込めて、プリンスが試行錯誤してたと伺える。

 まず83年11月7日の版。LP発売は84年6月25日だから、半年前にほぼ完成してたとわかる。このときは、以下の通りだった。

Side one
"Let's Go Crazy" (7:37 minutes version)
"The Beautiful Ones"
"Computer Blue" (7:23 minutes version)
"Darling Nikki"
"Wednesday"

Side two
"Purple Rain"
"I Would Die 4 U"
"Baby I'm a Star"
"Father's Song"

 "Wednesday"と"Father's Song"が没テイク。前者は聴いたことない。ぱっとYoutubeでも出てこない。"Father's Song"はライブで幾度も披露された。"Purple Rain"当時だけでなく、Hit N Run Tour(2000-01年)でも"When Doves Cry"とメドレーにて。
 ただしこの曲は"Computer Blue"の一部、ともとれる。

 このアルバム選曲を見ると、"Let's Go Crazy"でカマしたあとは映画の盛り上がりをなぞるような流れを意識と思われる。最後に"Father's Song"を置いたのはアルバムの余韻狙い、"Purple Rain"がB面トップはまさに、LPとしてB面の印象を強めるためだろう。

 それが約四ヵ月後、84年3月12日には曲順がこう変わる。

Side one
"Let's Go Crazy" (Longer version) – 7:37
"The Beautiful Ones" – 5:15
"Computer Blue" (Longer version) – 7:23
"Darling Nikki" – 4:15

Side two
"When Doves Cry" – 5:52
"I Would Die 4 U" – 2:51
"Baby I'm a Star" – 4:20
"Purple Rain" – 8:45

 "Let's Go Crazy"と"Computer Blue"が長尺はそのまま。"1999"の方向性を持続していた。だがB面は整ってる。ここでついに"When Doves Cry"が現れた。"Take Me with U"は最終曲順のタイミング、つまり更に後にってのが意外だった。この曲こそ、本盤のトーンに合致している。

 "Take Me with U"はまだ、後付けってのが自分の中でしっくり来てない。でも取り出して聴くと、ストリングスや賑やかなアレンジにドライなパーカッションから、"Raspberry Beret"の前触れみたいな曲にも思える。この曲もレボリューションズで録音。バンド的なダイナミズムを持続させた点で、スタジオでの凝った作りも両立させた。
 
 実際は"Purple Rain"もそうだ。ライブの盛り上がりから夾雑物を排しスッキリさせたうえで、終盤に不協和音の弦カルを入れる。プリンスが初めて、ステージとアルバムを融合させた。しかし作り物である、一手間はかけている。それにプリンスはこだわった。

 そして"When Doves Cry"。これこそ異様な曲だ。ベースが無く、ミニマルなファンク。バンド的な盛り上がりと全く対極。さらに先、"Parade"や"Sign o' the Times"の先駆けと言える、密室ファンクに仕上がった。
 プリンスのバランス感覚か。肉感的な本盤で、B面トップに"When Doves Cry"が現れることで、アルバムはひときわ引き締まった。色合いの違う楽曲が入り、アルバムの奥行きも増した。
 バンド体制は選択肢の一つであり、単独構築の世界も提示したい、のプリンスの思いもあったかもしれない。
 
 歴史の皮肉は、この"Purple Rain"と異質な"When Doves Cry"がシングルで切られ、なおかつ大ヒットしたことだ。あの時、「なんだかわからないけど、とにかく気になる」って感じで、ぼくはこの音楽を聴いていた。

 プリンスを初めて聴いたのが、この曲だ。中学生のころ。同級生に「気持ち悪いよね」「えろいよな」と言われながらも、なんだかぼくは、ずっとこの曲が気になっていた。
 もっともベース無しってアレンジに気づいたのは、もっともっと何年もたってから。当時は何を聴いてたんだ、って話だが。

 わかりやすく"Let's Go Crazy"を1stシングルに、派手に盛り上げるのがセオリーではないか。だがプリンスは"When Doves Cry"を最初の名刺に選んだ。そして、大成功した。この時代感覚は、その時リアルタイムだったにも関わらず腑に落ちない。
 だがすべては上手くいった。プリンスは"Purple Rain"まるごとを大量に売り、自由に録音する予算を手に入れた。

 そしてここから、プリンスの快進撃が始まる。目に見えるところも、倉庫に埋もれた内容も、両方において。
 

 今、この本の翻訳が進んでいる。読むのが楽しみだ。紫のベールに包まれた、この映画の裏話がちょっとでも書かれてるといいな。
 

 これから出る本では、これも気になった。とはいえ英語だと読み切れないので、翻訳を希望。


Track listing:
1."Let's Go Crazy" 4:39
2."Take Me with U" 3:54
3."The Beautiful Ones" 5:13
4."Computer Blue" 3:59
5."Darling Nikki" 4:14
6."When Doves Cry" 5:54
7."I Would Die 4 U" 2:49
8."Baby I'm a Star" 4:24
9."Purple Rain" 8:41

Personnel:
Prince - lead vocals and various instruments
Wendy Melvoin - guitar and vocals (1, 2, 4, 7, 8, 9)
Lisa Coleman - keyboards and vocals (1, 2, 4, 7, 8, 9)
Matt Fink - keyboards (1, 2, 7, 8, 9)
Brown Mark - bass (1, 2, 7, 8, 9)
Bobby Z. - drums and percussion (1, 2, 7, 8, 9)
Novi Novog - violin and viola (2, 8, 9)
David Coleman - cello (2, 8, 9)
Suzie Katayama - cello (2, 8, 9)
Apollonia - co-lead vocals (2)
Jill Jones - background vocals (2)

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