Shirley Scott 「Shirley Scott & The Soul Saxes」(1969)

 奏者の顔が見えづらいが、聴きごたえある盤。


 当時のソウル・ヒットをオルガン・ジャズでカバーした盤。サイドメンはスタジオ・ミュージシャン。演奏は、一流奏者ばかりで気持ちいい盤だ。巷では評価の高い盤のようだが、シャーリー・スコットの意図が見えづらく、匿名的なヒット曲の安易なカバー盤にも見えてしまう。

 スタンリー・タレンタインと公私のパートナーを解消な頃合いの盤。前作"Soul Song"(1968)にはクレジットあったが、既に本盤からはタレンタインの参加は無い。
 シャーリーは58年にアルバム・デビューし、女性ジャズ・オルガン奏者として多数のリーダー作をプレスティッジからリリースした。64年にインパルスへ移籍、68年の前作"Soul Song"からアトランティックへ移った。

 このアトランティックあたりから、ジャズとは裏腹にポップやソウルのカバーを主軸とした、一歩引いた活動・・・言い換えよう、一線級から離れたように見えてならない。
 演奏は悪くないのが、無念。いわゆるジャズからフュージョンへ。さらにポピュラーの主軸はR&Bやソウル、ロックへ。さまざまな時代の波を生き延びるのに必要な選択肢だった。

 本盤はまさに分岐点。前作までは伺えたオリジナル曲も無くなり、すべてがカバー曲。まず録音曲から見てみよう。

Track listing;
1. "It's Your Thing" (O'Kelly Isley, Jr., Ronald Isley, Rudolph Isley) - 4:30
2. "(You Make Me Feel Like) A Natural Woman" (Gerry Goffin, Carole King, Jerry Wexler) - 4:20
3. "I Wish I Knew How It Would Feel to Be Free" (Dick Dallas, Billy Taylor) - 6:24
4. "You" (Jack Goga, Ivy Jo Hunter, Jeffrey Owen) - 5:42
5. "Stand by Me" (Ben E. King, Jerry Leiber, Mike Stoller) - 4:04
6. "Get Back" (John Lennon, Paul McCartney) - 4:46
7. "More Today Than Yesterday" (Pat Upton) - 3:39

1.アイズリー・ブラザーズ(1969)
2.アレサ・フランクリン(1967)
3.ニーナ・シモン(1967)
4.マーヴィン・ゲイ(1967)
5.ベン・E・キング(1961)
6.ビートルズ(1969)
7.スパイラル・ステアケース(1969)
 
 超大ヒットと、通好みのヒットをほぼ半々。スタンダード的な取り扱いと思われる"Stand by Me"以外は、ほぼ録音時期に発売のばかり。ビートルズだって、この時点ではリアルタイムだ。この曲のみソウルと並んだら座り悪いが、選曲的にはヒット狙いに欠かせぬ鉄板だったのだろう。
 
 そもそも本盤の録音は3回に分けられる。(3)のみ68年10月。前盤"Soul Song"のアウト・テイクだ。本盤の中でもサウンドが明確に違ってる。
 他は(1),(4),(5)が69年7月9日、(2),(6),(7)が同年の10日。ジャズは一日でサクッと録音って別に不思議じゃないが・・・なんともやっつけな、録って出しの荒っぽさも感じてしまう。

 なにせ録音メンバーが凄い。
Personnel;
Shirley Scott - organ
Ernie Royal - trumpet (tracks 1, 2 & 4-7)
King Curtis, David Newman - flute, tenor saxophone (tracks 1, 2 & 4-7)
Hank Crawford - alto saxophone, baritone saxophone (tracks 1, 2 & 4-7)
Richard Tee - piano (tracks 1, 2 & 4-7)
Eric Gale - guitar
Jerry Jemmott (track 3), Chuck Rainey (tracks 1, 2 & 4-7) - electric bass
Jimmy Johnson (tracks 2, 6 & 7), Bernard Purdie (tracks 1 & 3-5) - drums
Marty Sheller - arranger, conductor (tracks 1, 2 & 4-7)

 スタッフ結成前のリチャード・ティーとエリック・ゲイルが全面参加。特にゲイル前盤"Soul Song"から連続してる。前作のアウトテイクを除き、ベースはチャック・レイニー。ドラムは半分がバーナード・パーディ。当時の売れっ子がずらり、だ。

 ホーン隊は4人の大編成。ジャズ組でErnie Royal。あとはリーダー作の多寡からDavid "Fathead" NewmanやHank Crawfordも、ジャズ組に入れるべきかもしらんけれど。この二人はキング・カーティスに引きずられ、ソウル界隈に組み込みたくなる。

 タチ悪いのはリチャード・ティーとシャーリーの鍵盤デュオ編成なところ。音色違いやアレンジで明確に分かれてはいるけれど、少しばかり狭苦しい。鍵盤はシャーリーだけで、スペースを作っても良かった。

 あとはアレンジ。Marty ShellerはMongo Santamariaのアレンジを既に行ってたあと。売れてたのかな。そう、本盤はマーティのアレンジしたソウル・ジャズ盤に、シャーリーがフィーチャリングで出演してるような色に見えて仕方ない。

 マーティはところどころで独自色を出してしまう。一番顕著なのが、"Stand by Me" 。シンプルにベース・リフで始めればいいものを、変な和音編成を足してギターとベースで幕を開け、ホーン・リフで飾る。ああ、暑苦しい。

 なおフェイド・アウトは(3)以外、全曲。つまりもっと長い尺のセッションが、このあとも続く。余韻を残す終わり方の魅力は分かる。だがせっかくのジャズ・コンボは、たまにはきっちりコーダまで聴かせ、セッションの落とし前まで見せて欲しいと思うのは贅沢か。手癖でダラダラ続き、適当に雪崩れて終わるって集中力の無さじゃあるまいし。

 と、どうも辛口に見えてしまうが。繰り返すが、演奏は悪くない。上手い奏者がごきげんなファンキーさを聴かせる。単にぼくは、シャーリーの顔が見えづらく、売らんかなの企画盤なセンスが気に食わないだけだ。

 オリジナルの勢いそのままに弾ける(1)から、気持ちは浮き立つ。分厚いホーン隊で厚みを出したバッキングと、かきむしる爽快なギター。ベースがキープしてドラムが溜めながら弾ける。サックス・ソロが長いのと、ピアノとオルガンが並列なアレンジ・バランスは気に食わないが・・・。もっとシャーリーに見せ場を!

 ちょっと和音感がオリジナルと異なる(2)は、妙にポップ。ゴフィン=キングのメロディが、妙に強調され過ぎた。オルガンがメロディを弾き、甘めに仕上げる。だがバッキングが強烈なアレンジで完成しており、カラオケにシャーリーがオルガンを足しただけって感じのセッション臭の弱さが納得いかず。

 前作アウトテイクの(3)が、この盤では異様。ホーン隊のいないシンプルな編成で、がっつりシャーリーのオルガンが楽しめる。ゲイルのシャープなギターを筆頭に、リズムはすっかりR&B。ジャズより粘っこさを増した。この盤のコンセプトとは離れてるけれど。悲しいことにシャーリーへジャズを求めてしまうと、この曲が最もしっくりくる。
 他の曲がいかに飾られてるか、を対比的によくわかるアルバム構成だ。

 演奏が良いので、どうしても本盤に混ぜたかったのだろう。アルバムのメリハリも効くし。本盤の録音メンツなら、(3)を入れずもう一曲足すのも軽々だったと思う。あえて、前作のアウトテイクを採用は、シャーリーの意図と思いたい。真実は、知らない。

 マーヴィンの曲としては歴史に埋もれた(4)だが、切迫感が良い。ホーン隊はオカズのリフに回り、オルガンの音色をスピーディに聴かせた。ホーン隊との共演がコンセプトながら、邪魔。ここではティーのピアノがリズムに回り、シャーリーのオルガンがグルーヴする。がっぷり溶け合うセッション感が良い。

 (5)は前述のとおり、トゥー・マッチなアレンジが嫌だが・・・。オルガンがバックのメンバーを背後に従え、ろうろうと弾き倒すイメージを頭に浮かべると女王様っぷりが面白いかもしれない。

 いきなりサビの部分をホーン隊に任せるイントロから、オルガンがメロを弾く(6)へ。高速にうねるレイニーのベースが真骨頂を魅せた。ドラムはJimmy Johnson。バシャバシャと薄いリズム感が、ベースと混ざりグルーヴィに揺れる。
 オリジナルを下敷きに、がっぷりオルガンでアドリブし続けるシャーリーが素敵だ。ある意味、この曲が最もシャーリーのオルガンを楽しめるかも。アレンジが厚みありすぎ、ホーン隊との対決気分も味わえないが。

 最後は甘酸っぱくしっとりと。ミドル・テンポのR&Bでハッピーにシメる、選曲のセンスが良い。高らかに弾むオリジナル曲から、ごくわずかテンポを落とした。
 平歌でホーン隊を消して、オルガン中心のコンボ。ゆっくりとリフでホーン隊が入ってくる。インストで安易にカバーしてみた、なチープさはぬぐえぬけれど。良いメロディで聴かせてしまう。後半でサックス・ソロから、オルガン・ソロへ。どんどんとソウル・ジャズ的に楽曲が崩されてくさまが心地よい。・・・なのに、フェイド・アウトなんだよなあ。

 やはりこの盤、演奏の質とコンセプトの安易さが噛み合ってない。繰り返し聴くたび、良さと物足りなさの双方を感じてしまう。

 シャーリーの実力は、こんなもんじゃない。例えば、この映像見て欲しい。76年、もっと後年の演奏だ。特に派手なソロを弾いてるわけでもない。しかし、この存在感とかっこよさは何なんだ。こういう凛々しい勇ましさをシャーリーは持っている。


関連記事

コメント

非公開コメント