菊地成孔とペぺ・トルメント・アスカラール 「野生の思考(la pensee sauvage)」(2007)

 美しきアンサンブルの堂々たる船出で、優美なリズムと耽美なメロディの祝祭だ。

 発端は菊地成孔の2ndソロ"南米のエリザベス・テイラー"のライブ用メンバー。これが継続的なバンドとしてペペになった。本盤がペペ名義では1stとなる。
 2枚組だが収録時間は1時間強。1枚に収まったと思うが、なんらかのこだわりでCD2枚に分けて発表された。これで二つの組曲が、より強調されたのは確かだが。

 本盤のコンセプトでも菊地は屈折を見せる。ラテンとタンゴの混交を軸に艶めかしい弦を足した。ラウンジ的な安寧とスリリングなアンサンブルの両面を持つ。
 そこかしこで菊地のサックスは聴ける。だがアンサンブルの一員であり、リーダーだが、自らがマイクを離さぬ傲慢さは無い。

 本盤の選曲はカバーを多数、投入した。そのうえアレンジャーと二曲目の組曲に中島ノブユキを大胆に起用する。
 すなわち菊地の新曲は"組曲「キャバレー・タンガフリーク」"のみ。
 この組曲では歯切れよくリズミックな展開が特徴だ。例えば(4)のリフとハープの絡みがポリリズム。

 本盤では作曲家としても、奏者としても一歩引いた。ああもどかしい。菊地の音楽が、サックスが聴きたい。いや、これも菊地の音楽だ。けれどももっと、わかりやすく菊地のキャラクターに触れたい・・・そんなアルバム。
 今ではわかりづらいと思う。本盤の発表時期は菊地の素直な音楽が次々表出される割に、ジャズ・サキソフォン奏者としての菊地に、なかなかストレートにどっぷり浴びれなかったんだ。
  
 カバー曲のセンスも菊地流でブレは無い。ゴダールの映画音楽"はなればなれに"、細野晴臣の"ファム・ファタール",エリントンの"チェルシー・ブリッジ"、そしてウェザー・リポートの"プラザ・レアル"。選曲から感じられるのは、衒学さとダンディズム、そしてスリル。タイトルのレヴィ=ストロースも意味深だ。

 テンション高くエレガントでスマート。横文字を並べて表現したくなる、カッコよくも爛れた成熟度合いを滲ませた、濃密な音楽が本盤では仕上がった。
 メンバーも豪華。維持とスケジューリングが困難らしく、のちに世代交代をする。この辺も運命共同体のロック的なバンドでなく、経営を視野に入れたジャズ・オーケストラ風で面白い。リーダーの菊地と、核となるメンバーがいて奏者がすご腕であれば、音楽は維持される。エリントンを筆頭のビッグバンドや、アーケストラのように。

 ペペは豪華で熟成した大人の味わいが滲む。ドレスアップして、気取って、そして爛れて。酸いも甘いも嚙み分けて、すべてを美しさに昇華する。そんな精神力の象徴をイメージしている。
 聴くときの、こちらの精神状態によって本盤の音楽はさまざまに印象が変わる。それがパワフルなDCPRGと違うところだ。

Track listing:
DISC 1
01 はなればなれに 作曲:ミシェル・ルグラン 編曲:中島ノブユキ
02 組曲「キャバレー・タンガフリーク」(1)孔雀 作曲:菊地成孔
03 組曲「キャバレー・タンガフリーク」(2)生け花 作曲:菊地成孔
04 組曲「キャバレー・タンガフリーク」(3)儀式 作曲:菊地成孔
05 組曲「キャバレー・タンガフリーク」(4)夜の全裸 作曲:菊地成孔
06 チェルシー・ブリッジ 作曲:ビリー・ストレイホーン 編曲:中島ノブユキ

DISC 2
07 組曲「ヴィオラ・トリコロール」(1)第一楽章 紫 作曲:中島ノブユキ
08 組曲「ヴィオラ・トリコロール」(2)第二楽章 赤 作曲:中島ノブユキ
09 組曲「ヴィオラ・トリコロール」(3)第三楽章 金
    ~"アルトサクソフォンとハープのデュエット"(菊地成孔のために) 作曲:中島ノブユキ
10 プラザ・レアル 作曲:ウェイン・ショーター 編曲:中島ノブユキ
11 ファムファタール~妖婦 作詞&作曲:細野晴臣 編曲:中島ノブユキ

Personnel:
Naruyoshi Kikuchi et Pepe Tormento Azcarar:
菊地成孔 (ts,as. vocal, comp, arr)
北村聡 (bdn)
南博 (piano)
鈴木正人 (b)
大儀見元 (perc)
徳永友美 (vln 1)
栗原尚子 (vln 2)
菊地幹代 (vla )
徳澤青弦 (vlc )
堀米綾 hpf)
中島ノブユキ  (comp, arr)

Guest
山北健一(perc)

関連記事

コメント

非公開コメント