菊地成孔 「OST:大停電の夜に~Wait until Dark」(2005)

 さまざまなメリハリ利かせ、小粋に決めた分裂的な味わいのサントラ。夜電波にもつながってた。

 源孝志監督「大停電の夜に」のサントラ。
 

 本盤発表の05年と言えば菊地成孔が書き仕事をバリバリやりはじめ、大学講師を務める前。初のソロ"DEGUSTATION A JAZZ"をついに前年に発表し、DCPRGとスパンクスをまわしながらペペの結成前夜なころ。膨大な仕事量の中、この盤は唐突にリリースされた印象がある。

 実際、菊地のライナーによれば大御所が手を引いたことで、彼に仕事が回ったとある。 昼はペペの母体となる"南米のエリザベス・テイラー"の録音、夜は本盤の録音だったそうな。そのわりに録音時期は04年12月から05年9月までと半年以上かけている。断片的に、レコーディングが続いたのかもしれない。

 というのも映画監督の源孝志は「秒単位の出し入れやその内容まで細かく指示」とライナーにあり、そうとう作曲に手間がかかったのではないか。フィルムを見て即興演奏してハイ終わり、とか。好きに素材作るから、あとはそっちで編集して、とか。マイルスやジョン・ゾーンみたいな、ある種の牧歌的な音楽作業は許されなかったようだ。

 さらにここへ菊地の分裂趣味が炸裂する。この当時、下手したら今に至るまで、菊地成孔は自分の音楽を素直に表現しない。屈折させ、分裂させ、混ぜ合わせて乱立させる。
 本盤でもハイバジェットなビッグバンド・ジャズ、シンプルなシンセの演奏、ダブ・クインテットを連想させるコンボ編成、ギターのソロなど様々な要素が詰め込まれた。

 菊地は作曲を行う一方で、プロデューサーの立場を強めた。
 坪口のシンセ、コンボピアノのセッション、鈴木大介のギターとさまざまなミュージシャンに演奏の主導権を渡した。
 本盤の仕事を受けるきっかけと言う南博のソロ"Closing Velvets"も転載。色々な仕事、人脈が入り乱れてる。

 菊地は決してペイズリー色のスタジオでひとりシコシコ音楽を作るタイプではない。過去の流れや脈絡を吸収し、音楽へ反映してる。
 リズム隊は菊地のバンドやジャズ仕事で顔なじみのメンバーがずらり。コンボピアノの起用は菊地の初ソロ名義である"10 MINUTES OLDER"(2003)ともつながっている。


 本盤は発売当初、戸惑いを持って受け止めた。なんでジャズじゃないんだ、って。ガツガツせず、すっと引いてしまう。プロデューサーの側面を出し、プレイヤーの色を消した。
 だから菊地のサックスも、ほとんど聴けやしない。いつになったら、菊地のサックスを存分にCDで聴けるんだ、と思った記憶ある。といいつついまだに、コンボ編成の菊地のジャズってリリースされてない。ダブが無い、の意味でね。ダブと新ピで昔に演奏してたコンセプトは、全く違う。"花と水"(2009)とも、もちろん違う。話がそれた。

 収録曲の取捨選択にどの程度、菊地のエゴが反映かはわからない。収録順や曲の長さは菊地の編集だと思いたい。
 冒頭からいきなり不穏なSE、さらに短い曲が続く。まるで菊地の1stソロ"DEGUSTATION A JAZZ"(2004)のように。
 ド頭にゴージャスな曲をいっぱつかまして、組曲やトータル・アルバム風に編集もできたと思う。

 だが菊地は、しごくざっくばらんに本盤を仕上げた。すなわちチープでシンプルな楽曲を最初に並べ、戸惑い続けた挙句にゴージャスなオーケストレーションの曲を連発する。
 まるで我慢したあとの放出を演出するかの如く。
 本盤のシンセ音楽を聴いて連想したのは、鈴木慶一。"Mother"(1989)や"風のリグレット"(1997)で聴ける、素朴で柔らかな世界だ。

 全28曲中、曲名の"M-"の番号は、映画で使用順を指すという。曲名を見るといい。大まか、演奏順に並んでいる。つまりは映画の追体験を正しくできるよう、曲を並べたともとれる。だが、微妙にM番号の曲順は前後する。そこに菊地の意思が入り、自作品として演出を加えた。
 ここでもやはり、一筋縄でいかない。映画に沿ったと思わせて、作品として聴きやすさを目指すコンセプトが含まれている。

 なお今の耳で聴くと、(20)の"Motif 3バリエーション"が「粋な夜電波」のテーマへ展開したことが分かり、面白かった。本盤でMotif 3の変奏は少ない。続く20秒の(21)だけだ。

 約30分、短い22曲を連発のあと、おもむろに"My Foolish heart"のカバーが登場。ついに菊地のサックスが聴けるか?と期待したが、南博のピアノを前面に出し、中島ノブユキの弦アレンジな演奏だ。菊地は音を出していない。すなわちこれも、南の"Touches & Velvets"路線。さらに"南米のエリザベステイラー"に続く、ペペのバリエーションともとれる。

 菊地が自由に作曲と言う(25)が、アルバムのクロージング・テーマ。40年代のスイング・ビッグバンドを下敷きに大儀見元のラテン・パーカッションを入れてのちのペペに通じるエキゾティック風味を漂わす。要はこの時点での、温故知新でキメラめいた混沌に混ぜる、菊地の興味を素直に反映したようだ。
 
 話題的にはレノンの"Happy X`mas"のカバーも収録。三沢泉の軽やかなパーカッションを根底に、ホーン隊で分厚くまとめる。ファンキーなジャズ風味に仕上げた。シンセのクレジットが無いけど、菊地かな、坪口かな。

 アルバム最後はクロージング・テーマに歌詞をつけた、テーマ曲"Wait Until Dark"。エレガントかつ荒々しさを滲ませるボーカル曲だ。今の耳で聴くと、UAとの"cure jazz"(2006)との連続性も感じた

 本当にこのアルバムは、完成度が終盤で急角度に上がっていく。

 

Track listing:
1. SE Variation #2 (0:43)
2. M-4 (Motif #1 Variation) (2:04)
3. M-23 (Excerpts from M-9) (1:33)
4. SE Variation #1 (0:19)
5. M-7 Jazz Sextet (2:46)
6. M-8 (Motif #1 Variation) (0:49)
7. M-9 (Motif #2 Variation) (1:57)
8. M-11(Motif #1 Variation) (1:03)
9. M-12 (Motif #2 Variation) "Candly" Jazz Piano Trio (2:04)
10. M-13 Jazz Trio (0:16)
11. M-14 (Minami Piano Solo #1) (0:55)
12. M-15 (Motif #1 Variation) (0:29)
13. M-16 Part 1 (0:36)
14. M-16 Part 2 (1:57)
15. M-17 (Motif #1 Variation) (2:36)
16. M- 20 (Suzuki Guitar Solo #1) (1:04)
17. M-18 Part 1 (Motif #1 Variation) (1:04)
18. M-18 Part 2 (Motif #1 Variation) (1:02)
19. M-19 (Minami Piano Solo #2) (1:31)
20. M-21 (Motif #3 Variation) (1:55)
21. M-22 (Minami Piano Solo #3) (0:19)
22. M-23 (1:38)
23. "My Foolish Heart" (5:00)
24. M-25 (Motif #1 Variation) (0:40)
25. "Wait until Dark" (Closing Theme Long Version) (3:59)
26. "Happy Xmas (War Is Over)" (5:36)
27. "Closing Velvets" (5:39)
28. "Wait until Dark" (Tribute to Benny More) (3:59)

Piano solo by 南博
Guitar solo by 鈴木大介


菊地成孔: sax, synthesizer
五十嵐渉: synth programming
菊地雅晃: bass
芳垣安洋: drums
三沢泉: percussion
松島啓之: trumpet


菊地成孔: synthesizer
五十嵐渉: synth manipulation and programming


坪口昌恭: synthesizer


Combo Piano: arrangement, piano
鈴木大介: guitar
花田和加子: violin
三宅進: cello

"Candly"
南博: piano
水谷浩章: bass
芳垣安洋: drums

"My Foolish Heart"
中島ノブユキ: arrangement
南博: piano
鈴木正人: bass
芳垣安洋: drums
花田和加子: violin
赤坂智子: viola
三宅進: cello

"Happy Xmas (War Is Over)"
Orchestrated by 菊地成孔 and 坪口昌恭
近藤和彦: alto sax
鍬田修一: alto sax
小池修: tenor sax
岡崎正典: tenor sax
Andrew Wulf: baritone sax
佐々木史郎: trumpet
奥村晶: trumpet
佐藤洋樹: trombone
青木タイセイ: trombone
坪口昌恭: piano
菊地雅晃: bass
三沢泉: percussion

"Closing Velvets"
中島ノブユキ: arrangement
南博: piano
水谷浩章: bass
野口千代光: violin
景山裕子: violin
山本はづき: violin
寺岡有希子: violin
荒木優子: violin
花田和加子: violin
甲斐史子: viola
木佐貫美保: viola
菊池知也: cello
木ノ脇道元: flute

"Wait until Dark"
Orchestrated by 菊地成孔 and 坪口昌恭
エリック宮城: trumpet
菊地成浩: trumpet
松島啓之: trumpet
近藤和彦: alto sax
津上研太: alto sax
野々田正典: tenor sax
岡崎正典: tenor sax
竹野昌邦: baritone sax
佐野聡: trombone
青木タイセイ: trombone
甲斐史子: violin
辻本玲: cello
坪口昌恭: piano
鈴木正人: bass
芳垣安洋: drums
大儀見元: percussion
高良久美子: vibraphone
Xiomara Lougart aka Yerba Buena: vocal

Recorded and mixed by 赤工隆 at Onkio Haus and Syn Studio, December 2004-September 2005
Produced by 菊地成孔

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