Abdullah Ibrahim 「African Marketplace」(1980)

 アフリカ風味の伸び伸びしたエレピが楽しめる一枚。

 アブドゥーラ・イブラヒム(ダラー・ブランド)がNYの録音で、バッキングはあくまでアメリカンなジャズ。そこへ異物として南ア風味の鍵盤が乗るスタイルだ。ホーン奏者を多数集め、数管の分厚いサウンドを作った。

 ただしビッグバンド的な迫力は、テーマ部分以外はさほど無い。ハード・バップ風の厚みも狙ってなさそう。単に太めのホーン隊が欲しかっただけ、みたいな無造作なサウンドに聴こえる。
 アドリブに向かうとコンボ編成のコンパクトさに収まった。雄大さと、素朴な小編成。それを行き来するかのよう。明田川荘之や渋谷毅のオーケストラに通底するアレンジだ。拡大コンボ編成、みたいに。

 70年代の南ア帰還で現地ミュージシャンとセッションを重ね、ルーツをしっかり自分のものにしたイブラヒム。その手ごたえを活動拠点なアメリカで試した盤、か。ディスコグラフィーを眺めても、この時期のイブラヒムはワンショット契約っぽく、次々にレコード会社を変えて落ち着かない。Enjaでしっかり腰を据える前の助走時期、か。

 作曲はすべてイブラヒム。
 イブラヒムは本盤で鍵盤だけでなく、ソプラノ・サックスやコンガでもクレジットあり。例えば(A2)での青白い音色なソプラノは、イブラヒムの演奏か。
 後述のクレジット見るとわかるが、曲ごとにメンバーは細かく変わっている。79年12月に録音な本盤、数度のセッションを重ねて一枚にまとめたのだろう。

 とにかくエレピが気持ちいい。ビブラフォン音色で残響する鍵盤が、ロマンティックでスケール大きな世界を描く。温かく、懐深い。イブラヒムならではの解放感と安定だ。
 (A4)のような生ピアノ・ソロでは武骨にグルーヴする左手と、滑らかに和音とメロディを溢れさす右手のバランスで、しっとりと柔らかい世界を描いた。ときおりスッと、鋭いフレーズで緊張感を与えることも忘れない。
 (B4)のイントロで炸裂する、和音をばらつかせて世界を広げる奏法もイブラヒムの専売特許。かっこいいなあ。アルバムの最後はピアノ・ソロできゅっと締めた。

 サイドメンもいい仕事。74年の"The Third World-Underground"から共演歴のあるCarlos Wardが、伸び伸びと美しいサックス・ソロを聴かせた。この盤は2014年に世界初CD化された。今は廃盤。


 リズム隊はセシル・マクビーとAndre Strobertが固めた。マクビーとイブラヒムの共演は、本盤だけかな?Strobertは"At Montreux"(1980)にもクレジットあり。当時のライブでドラム担当か。
 
 Discogsを見ての印象だが、マクビーとCraig Harris以外は、本盤以外の参加盤がクレジット出てこない。有名どころを金に任せて集めた編成ではなく、あくまでイブラヒムの付き合いあるメンバーを集めた、当時に地元で繰り広げてた演奏のスタジオ盤かもしれない。
 バンジョーで一曲だけ参加したLawrence Lucieなんかは、逆に話題作りのゲストかな。

 アルバムを通して、いつまでも音楽は続いて行きそうな解放感と奔放さがあり。ストーリー性よりも一枚の絵を優美に描いてるかのよう。当時のライブを聴きたかった。
 特にLPでいうB面での整った音像は格別。しかし演奏があまりタイトでなく、アクセントや音程がばらつく。それこそが、奇妙におおらかな懐深さを演出した。

 しかしこの盤、今は700円未満とえらく安い値段で売ってるな。


Track listing:
A1.Whoza Mtwana 6:02
A2.The Homecoming Song 3:44
A3.The Wedding 3:48
A4.Moniebah 3:19
B1.African Marketplace 7:02
B2Mamma 3:45
B3.Anthem For The New Nation 4:28
B4.Ubu Suku 3:34

Personnel:
Keyboards, Soprano Saxophone, Congas, Producer – Abdullah Ibrahim
Alto Saxophone, Soprano Saxophone – Carlos Ward (tracks: A1, A2, B1 to B3)
Banjo – Lawrence Lucie (tracks: B1)
Baritone Saxophone – Kenny Rogers (tracks: B2)
Bass – Cecil McBee (tracks: A1, A2, B1 to B3)
Drums, Percussion – Andre Strobert (tracks: A1, A2, B1 to B3)
Percussion – Miguel Pomier (tracks: A2, B1)
Tenor Saxophone – Dwayne Armstrong (tracks: B2), Jeff Jawarrah King (tracks: A1, A2, B1 to B3)
Trombone – Craig Harris (3) (tracks: A1, A2, B1 to B3), Malindi Blyth Mbityana (tracks: A1, A2, B1 to B3)
Trumpet – Gary Chandler (2) (tracks: B2)

 余談。アケタ盤のこれで、本盤のタイトル曲をカバーしてる。彼の盤は聴いたことないが、アフリカっぽかったのか。ジャケットのサラリーマン風味に手が伸びなかった。今度、聴いてみよう。

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