TZ 8304:John Zorn "The Concealed"(2012)

 スリリングで渦巻みたいに緩やかな締め付けるメロディが愛おしい、疑似バンドによるジャズ室内楽の作品。

 Wikiには12年の5月18日にカナダのビクトリアビルで初演とある。委細はリンク先が切れて不明だが。録音はその数日後、5月21日にニューヨークのスタジオにて。この日に録音とミックスまで完了とある。ジョン・ゾーンは相変わらず、仕事が速い。

 メンバー的には"Nova Express"に"Bar Kokhba"から弦が二人、ってのがTZADIKのアオリ文句。ただ"Nova Express"の系譜より、室内楽の組曲と捉えるべきかも。サントラ的にテーマを踏まえてベスト・メンバーを疑似バンド風に選定ではないか。もちろん"Nova Express"や"Bar Kokhba"の組み合わせだ、とゾーンは意識してたはず。

 おそらくオカルティックな何らかの出来事をキーワードに作曲したと思われる。
 副題は"Esoteric Secrets and Hidden Traditions of the East(東方密教の秘密と隠された伝統"ってとこか)。

 曲名に散らばる言葉は、グルジエフによる"the way of the sly man"(第四の道)や書名"Life Is Real Only Then, When "I Am"など。ロシアやアフガニスタン、イスラム神秘主義の修道僧やカバラー学者の名前がタイトルに入ってる。なんらかのユダヤ人と旧ロシアとのエピソードが下敷きなのかも。

 とはいえ僕は知識不足で、本盤の意味合いはわかっていない。あくまで音楽のみ聴いている。

 ジャズ的なダイナミズムを軸に、カッチリとアンサンブルが締まってる。 
 テーマからアドリブに切れ目なく流れ、展開する。小節数や決まり事でなく、即興的にゾーンがキューを送ることで、予定調和に無い緊迫したサウンドが成立した。
 メンバーの即興すらも自らの作曲術へ取り込む、ゾーン流の疑似バンドなアプローチ。セッションが弛緩しないよう、ゾーンはソロやオブリのキューを送った。

 13年4月6日に、ゾーン生誕60年祭で行われたライブ・シリーズでの映像がYoutubeにあった。本盤収録曲だが、どうゾーンがコントロールしてるか、よくわかる。
 譜面はテーマのみ。ソロは奏者のアドリブだろう。自由をミュージシャンに与えつつ、主導権はゾーンが握る。この絶妙なバランスが、映像だとなおさら興味深い。


 なお本盤は(8)でのチェロ、(10)でピアノがそれぞれ独奏を筆頭に、楽曲すべてでメンバーが弾いてるわけではない。このあたりが、バンドとは明確に意味合いを分けてアンサンブルを構築するゾーンの意図が感じられる。
 他の曲も全員が前に出ず、ある曲は弦を前に出し、別の曲ではピアノを軽やかに提示した。

 演奏の抜群なタイトさは本盤でもたっぷり味わえる。さらにモーダルな旋法を中心の作曲術は、螺旋状に空気を締め付けて切なく緊迫した雰囲気をアルバムに通底させた。
 すべてが譜面のよう。

 ゾーンの音楽性として、ゲーム・ピースに始まる"即興のコントロール"が一つの軸として存在する。本盤みたいな美しい音楽を聴いてると、その方向性が見事に昇華しており、しみじみ聞き惚れてしまう。
 作曲と即興を行き来する、ゾーン流疑似バンドの傑作アルバム。

Track listing:
1."Persepolis" 4:02
2."The Hidden Book" 2:57
3."Passage to Essentuki" 3:44
4."Pathway of Fire" 4:01
5."Towards Kafiristan" 3:29
6."Kavanah" 5:03
7."Back to Bokhara" 5:24
8."The Silver Thread" 4:28
9."The Dervish" 6:33
10."The Way of the Sly Man" 3:50
11."Amu Darya" 4:45
12."A Portrait of Moses Cordovero" 5:37
13."Visitation of the Night Angels" 4:09
14."Life Is Real Only Then, When "I Am"" 4:31

Personnel:
Mark Feldman - violin
Erik Friedlander - cello
John Medeski - piano
Kenny Wollesen - vibraphone
Trevor Dunn - bass
Joey Baron - drums

Composed By, Arranged By, Conductor, Producer - John Zorn
Recorded and mixed May 21, 2012 at Eastside Sound, NYC


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