"Blues And Boogie Shoes" Keene Brothers (2006)

 アルバム一枚で終わった、唐突なコラボ作。ボブにはポップすぎたか。今は廃盤?Amazonで出てこない。

 メロディと歌詞、リード・ボーカルがロバート・ポラードで、伴奏がトミー・キーン。ボブのプロジェクトではおなじみの、完全分業スタイルな録音だ。ボーカルはトッド・トバイアスがエンジニアを務め、楽器はドラム以外はほとんどトミーの多重録音。
 ボブはイリノイ州で、トミーはカリフォルニア州。実際に顔を合わせることもなく、テープ交換だけで録音が進んだと思われる。
 さらにミックスも曲ごとに主導権が違う。2, 6, 8, 11はトミーのほうでミックスまで行われた。結局、06年に本盤をリリースしただけで、その後に続かず本プロジェクトは消滅してしまう。

 06年当時にボブのソロ"From A Compound Eye"ツアーを06年1月から2月に実施。その時にギターと鍵盤を担当がトミーだった。その縁でコラボへ至ったのか。
 このツアーは良好な音質のフル音源があった。06年1月26日、40 Watt Clubでのライブで、ツアーの初日にあたる。既に次のソロ"Normal Happiness"に収録曲も演奏しており、ボブの新曲が溢れてたことが良くわかる。

 映像のほうは同年11月10日のライブ。ちょうどこの盤に収録の(2)を演奏の映像だ。次のボブのソロ"Normal Happiness"のツアーで、こちらにもトミーは参加してた。

 本盤が発売は、ボブのレーベル"Fading Captain Series"の終焉期。06年5月2日に3枚同時リリースをしたうちの、一枚が本作に当たる。他はサルサレンコとのデュオ、The Takeoversの"Turn To Red"と、トッド・トバイアスとのデュオ、Psycho And The Birdsの"All That Is Holy"だった。
 そしてFCSは、7月にPsycho And The BirdsのEP"Check Your Zoo"を発表、翌07年に年にレーベルのベスト盤として"Crickets"を発表、99年から8年間の幕を下ろす。
 レーベルとしては翌年Guided By Voices Inc.を立ち上げ、いまに至るわけだ。

 サルサレンコやトバイアスと異なり、トミーとの共演は人脈的には新鮮だった。どういう縁でボブのツアー・バンドに参加だろう。トミーは79年頃から活動する、ボブとは同い年のミュージシャン。多重録音を武器に、いわゆるパワー・ポップの文脈で今も断続的にアルバムを出している。
 https://en.wikipedia.org/wiki/Tommy_Keene

 特に派手なヒット曲は、残念ながら無いようだ。例えば、こんな曲を書く。

 ボブと比較したら、よりメロウな持ち味でシンプルなアプローチか。トビン・スプラウトほど屈折してない、無邪気さがある。それが本盤に独特の風味を足した。
 メロディは確かにボブの節回し。だがアレンジや演奏はすっきりとポップなロックだ。
 典型が(2)。軽やかな鍵盤の動き、甘く広がるアレンジの響き、堅実なリズムと破綻無い演奏。どれを取っても、わかりやすい。なんだかんだ屈折して、妙に実験的なことを恐れず試みるボブの荒っぽさと相いれない。でも、聴きやすい。難しいバランスだな。
 そんな趣味性の違いが、一過性のプロジェクトで終わった理由だろう。
 アルバムは、ちょうどLP一枚分。コンパクトにまとまめた。

<全曲感想>

1.Evil Vs. Evil 0:50

 イントロのように一分未満の小品。ただしうわずるようなメロディから、華やかに広げるキャッチーな展開は耳を引く。これを一曲に仕上げず、サビ風のメロディから平歌一回で終わらせてしまう、贅沢な使い方がボブ流だ。

2.Death Of The Party 3:14

 アルバムを代表する名曲。静かに始まり、サビでふわっと軽やかに跳ねた。鍵盤とギター、ドラム。すべてが柔らかく軽い。ドラムをすっと後ろに下げて、それなりにテンポが速い曲ながら、せわしなさやあおりを抑えた。
 みずみずしく鮮やかな寛ぎを、優美に展開する。大サビへ滑らかにつながるコード進行が美しい。
 ボブもむやみにシャウトせず、丁寧に喉を震わせた。

 数小節の短いギターソロへかぶって、歌が入る。しかしつながらず、断片的に。このもどかしさも、味だ。最後でオクターブ上げず、下げて落ち着かせ、次にハイトーン。音程を選択するセンスも、穏やかながら耳を引く。

3.Beauty Of The Draft 3:15

 ゆったりしたギター・ストローク。雄大さより寛ぎを優先か。サビでの語り掛けるダブル・トラックがうっすらと切なくて良い。ギターとベースの譜割を揃えつつ、ときおり対位する。薄くダビングされたピアノが厚みを出した。

 転調して一節、そしてギター・ソロ。隅々まで丁寧にアレンジされ、トミーの多重録音はノリがきれいに揃ってる。トバイアスの荒っぽいグルーヴよりも、スプラウトの自己構築性に近しい完結度合いは、こういう曲でよくわかる。

4.Where Others Fail 2:55

 曲途中から始まるようなフレージングのロック。初期ビートルズを連想する、イギリス風味のヒリヒリと乾いた和音感だ。もっとテンポアップして押すと切迫さが増すけれど、むしろテンポを抑え気味に、じっくり畳みかけた。
 この曲もアレンジがきれいにまとまり、途中の甘酸っぱいコード・チェンジを魅力的に光らせた。典型的なパワー・ポップ。

5.Island Of Lost Lucies 2:34

 ロバート流の甘いメロディが、きれいなアレンジで映えた佳曲。ギターを幾本も重ね、微妙にアクセントをズラシて波打つ多く深さを作った。毒の無い淑やかな仕上がりは、むしろ甘味過多なほどだけど。
 どっか無頼に引き締める、武骨なセンスをメロディに感じる。

6.Lost Upon Us 3:43

 こもったチープなリズム・ボックスがイントロ。途中でギターが現れ、くっきりポップにまとまるけれど。こういうラフな音こそボブ側の主導権か?と思いきや、トミー側のミックスなアレンジで面白い。
 いちおうビート性をリズム・ボックスが作るが、しっとり雪崩れるようなノリの楽曲。あえて生ドラムを目立たせないところが、楽曲に不思議な軽みを与えてる。終盤ではフィルやシンバルを中心に、ドラムの存在もアピールした。

7.Heaven's Gate 2:29

 バンド風の威勢いいイントロなロック。いまひとつボーカルとの親和性が低い。ひしゃげたフィルター処理かける変な声のほうが、すっとオケに馴染んだ。生声と加工声、双方を交互に登場させる。
 ポップなアレンジでごまかされるが、楽曲はいまいち面白くない。アイディア一発のフレーズ連呼タイプか。逆に、こんな耳ざわり良く仕上げるトミーの手腕は大したもの。普通のパワー・ポップになってるもん。

8.The Naked Wall 3:51

 サビで転調するようなひねくれた和音感が楽しい曲。ちょっとサイケ風味が強調された。ボブならアコギ一発で仕上げそうな一筆書きメロディを、見事にバンド風アレンジにまとめるトミーのセンスが良い。
 平歌はボブ節のねじりながら歌い上げるタイプ。ふんわり柔らかい。だがサビでの少し陰った切ないムードを足すことで、曲世界に奥行きを与えてる。
 ポップさ的には地味なため、あまり押さないが・・・今回改めて、何回も聴いてたらグッと来た。

9.The Camouflaged Friend 3:35

 数本のギターを重ね、ストロークで爽やかなスピード感を出す。インスト曲で歌は無い。これもボブの作曲だろうか?ミックスはイリノイ州側だが、演奏はたぶんすべてトミー側。
 野外で車の音や鳥の鳴き声みたいなSEもしくはフィールド・レコーディングの音から、ギター・ストロークにつながった。ワンフレーズが延々と繰り返され、ときおり場面展開。二つの楽想を行き来した。

 涼やかだがシンプルでミニマルな展開。リピートして流してると、なんだか酩酊感もうっすら漂う。
 悪く無い曲だし、素朴なカントリー風味も心地よい。しかし歌ものロックな本盤へ、なぜ収録って謎は残る。ボブのセンスかな。トミーはもともとSSWで、楽器演奏で目立ちたいってタイプじゃなさそう。
 それともボーカルを足すつもりが、何らかの理由で中止されたとか。こっちのほうが、ありそうだ。一応、歌が乗りそうな雰囲気なので。

10.Must Engage 2:53

 柔らかい歌声と、威勢いい爽快な演奏が上手いこと混ざった。メロディの合間に、語り掛けるような音程でダダダッと言葉が零れる。フォーク風のアプローチだが、意外にボブの曲では珍しいのでは。

 キャッチーで鍵盤が鮮やかなフレーズを足すアレンジにごまかされるけど、メロディそのものは意外とシンプル。
 この盤全体に言えることだが、ボブのメロディはあんがい凝ってない。楽曲込みで曲想の魅力は増している。ボブの歌も猫撫でっぽく抑え気味。大人路線か。

11.This Time Do You Feel It? 3:20

 ゴツッとラフなミックスだが、これまたトミー側のミックス。逆ならわかるのに。面白いな。タム回し中心のドラムと、唸るギター。いちおう体裁はアンサンブル形式に留まりながら、楽曲はあんがい実験的。なのにポップな完成度へ持ち込むトミーの手腕を褒めたい。
 こういう曲をラフにローファイに仕上げるのが、ボブが得意なやり口だ。その魅力にハマったぼくみたいな聴き手には、こんな綺麗にまとまった完成度に戸惑うくらい。
 ちょっとこもり気味な音質だが、いかにもボブ風のメロディや構成が魅力的。でも3分半はちょっと長いな。ボブならもっと短く、放り投げる未完成色を出してたかも。

12.Blue Shadow 4:14

 アルバム最後はバンド風に、大団円っぽくも聴こえるロックへ。ドラムがフィルを頻繁に混ぜながら、手数多くビートを刻むさまがライブっぽい。
 ボブのメロディも短くポップなフレーズを重ねて、瑞々しさを出した。サビへはいきなり突入し、ちょっと盛り上がりに欠ける。
 ここではアレンジをサビで炸裂させず、しっとりジワジワと情感あふれさす手法を取った。

Lyrics By, Lead Vocals, Written-By [Melodies] - Robert Pollard
Music By, Instruments - Tommy Keene

Drums - John Richardson (on 4, 8, 10 to 12), Jon Wurster (on 1, 3, 7)
Piano - R. Walt Vincent (on 2)
Harmony Vocals - R. Walt Vincent, Tommy Keene
Recorded By [Most Everything Else] - Tommy Keene, [Bob's Vocals] - Todd Tobias (2), [Drums] - Chris Widmer (on 8, 11), Jonathan Pines (on 4, 10, 12), R. Walt Vincent (on 1, 3, 7)

Bob's vocals recorded at Waterloo Sound, Kent, Ohio. Most everything else recorded at Tommy Keene's home.
On 1, 3 to 5, 7, 9, 10, and 12 mixed at Private Studios, Urbana, Illinois.
On 2, 6, 8, and 11 mixed at Studio Mesmer, Culver City, California.
Mastered at Private Studios.

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