TZ 8305:John Zorn "Filmworks XXV:City Of Slaughter/Schmatta/Beyond The Infinite"(2013)

 ジョン・ゾーンのサントラ集第25弾。最後は三人のピアノ・ソロを収録した。そのうち一人が、ゾーン自身の演奏。

 本盤でサントラは最後とも噂される。ライナーの最後で「フィルムワーク・シリーズ最後の演奏で、このボートラを楽しんでくれ」とゾーンが書いてるため。

 まず"City Of Slaughter"(2012)について。
 オファーを受けてから作曲、録音完パケまでわずか一週間で終わったという。映画ではなくインスタレーション用の音楽で、モスクワの美術館でユダヤ人の歴史に関する企画展示に置かれた。担当はOren Rudavsky。映画監督で、ゾーンとは"Filmworks XIV: Hiding and Seeking"(2003)や"Filmworks XVIII: The Treatment"(2006)で、仕事の関係があった。
 
 ライナーによると、このときすでにゾーンはサントラ用に新曲を書き下ろすのに飽きており、自らのプロジェクトを深めることに興味あったようだ。
 2012年のこの時点では、1月にレクイエムの小品"Missa Sime"を作曲。未CD化かな。
 2~3月は女性5人の無伴奏歌唱"The Holy Visions"。("Sacred Visions"(2016)に収録)
 4月にはピアノ九重奏"Temptations of St Anthony"と精力的に活動してたという。
 ("On The Torment Of Saints, The Casting Of Spells And The Evocation Of Spirits"(2013)収録)

 さらにライナーには、以下の活動も行ってた時期とあり。面白いから箇条書きで書いておこう。
 ・"Ceremonial Magic I"のPerパート作曲("Music and Its Double"(2012)収録)
 ・弦楽四重奏"The Alchemist"の補筆("The Alchemist"(2014)収録)
 ・Vln独奏"Passagen"の補筆("Lemma"(2013)収録)
 ・flとcl、perの曲"The Tempest"の作曲準備(未音盤化かな?)
 他にもライブの予定などがずらり、だったそう。

 だがその合間をぬった一週間で、ゾーンはこのプロジェクトに強い興味を惹かれオファーを受けた。ところが馴染みのピアニストが捕まらず。たまたま知っていたユダヤ系ピアニストのOmri Morを起用に至ったそうだ。
 それがきっかけで、彼のトリオで同年にMasadaのプロジェクト2ndステージ、Book of Angelsに参加が決まったというが・・・。どの盤のことだろう。"Aguares: The Book Of Angels Volume 23"(2014)はOmriのリーダー作ではないし。ボツったのかも。

 横道にずれるが"Temptations of St Anthony"や"PASSAGEN"は再演の動画があった。ゾーンの知名度で、現代音楽なのに初演だけで終わらぬところが凄い。
 

 さて、"City Of Slaughter"。音楽はテーマをゾーンが作曲して、アドリブ交じりにOmriが解釈と思われる。だがテーマから逸脱せず世界を広げるアプローチなため、どこまで作曲かがわからない。楽曲はゾーン独特のモーダルな旋法を使ったと感じた。コード進行よりも、アルペジオを軸に旋律が流麗に展開していく。

 ドラマティックでほんのり影をまとい、凛として涼やか。ゾーンの世界観が、柔らかなリバーブを載せた音像で明瞭に描かれた。録音は盟友のMarc Ulselli。なお、他の収録曲もすべて彼のエンジニアリングだ。つまり作曲と舞台と凄腕奏者の三要素を整えて、あっというまに聴きごたえある作品を作り出す、ゾーンの素早いプロデュースな賜物となった。

 楽曲単位では瞬間的な炸裂やフレージングの展開に刺激を受け、トータル的には着実で鋭いタッチの音色が統一した引き締めを魅せる。メロディはどれも独特の共通性を持ち、変なばらつきは無い。だが聴きこむほどに、多彩さが秘められてるという。ゾーンの奥深さが、ここでも現れた。
 そうそう、わかりやすく綺麗なメロディってのもポイントだ。前衛性は影を潜めてる。

 もっともユダヤ人への迫害"ポグロム"について描いた曲ではキイキイいう軋み音のダビングや、どっぷり残響の音色で緊迫を与えるのも忘れない。しかしこの倍音、どうやって出してるのか。弓で弦をこする音をダビングか。
 楽曲によって本盤は、一発録りではないと思う場面もあり。
 ともあれ、シンプルだが垂れ流しに終わらぬ完成度がある。
 
 続いて"Schmatta"。ゾーン自身のピアノ曲を、余技でなくまじめに聴ける貴重な機会だ。
 Marc Levin監督のNYを描いたドキュメンタリー、"Schmatta"(2009)用にゾーンが書き下ろした。元はMasadaの曲を使う一方で、ソロピアノ曲も求められたそう。

 映画のトレイラーは見当たらなかったが、当時の監督へインタビュー映像はあった。いつか英語がわかる日が来たら、ちゃんと見てみよう。もしくは誰か翻訳してくれまいか。


 武骨で淡々とした即興が4曲。モーダルな展開っぽい。奇妙な和音構造だが「何を考えて引いてたか、聴いてみるといい」とゾーンはライナーで嘯く。だれか、聴いてくれまいか。
 (17)では軋み音もふんだんに挿入など、単なる一筋縄でいかぬピアノのスタイルだ。
 ライナーによればセロニアス・モンクのブルーズ"Functional"を意識してるという。"Thelonious Himself" (1957)に収録。わかるような、わからないような。


 最後のボーナス・トラックは、おなじみロブ・バーガーによるロマンティックなタッチの、8分ほどある楽曲。"The Goddess - Music For The Ancient Of Days"(2010)に収録の"Beyond The Infinite"で没になったモチーフだそう。
 ミニマル要素を場面転換に取り入れたアプローチを取っているらし流れこの手法は本盤の(3)や(6)でも採用、とライナーに記載あり。

 具体的にピンと来てないが、同じフレーズが波打つように繰り返される場面のことか。熱っぽく硬質なタッチが楽しめる。アドリブあるように聴こえるが、全部が譜面なのかも。

 時やアプローチを超えて、共通性を持たせたアルバムに仕上がった。この首尾一貫性が現在のゾーンだ。即興やアイディア一発とは全く違う。活動初期の乱暴なパワーは、見事に成熟した。
 フィルムワークスのシリーズを時系列で聴いていくだけでも、ゾーンの挑戦と進化の流れが伺えて興味深い。

Track listing:
1. "The End of Tradition" - 3:40
2. "The Oath" - 2:13
3. "Modernity" - 1:27
4. "Island/Ghetto" - 2:34
5. "New Choices" - 2:10
6. "Revolution" - 3:32
7. "New Currents" - 2:43
8. "Loss" - 1:53
9. "Hopes and Dreams" - 1:33
10. "The Bund" - 2:32
11. "City of Slaughter" - 4:44
12. "Anti-Semitism/Pogrom" - 1:24
13. "Pale of Settlement" - 3:03
14. "Requiem" - 2:52
15. "Schmatta" - 1:40
16. "Pins and Needles" - 3:12
17. "Collapse" - 3:06
18. "Hanging by a Thread" - 2:58
19. "Beyond the Infinite" - 8:19

Personnel:
Omri Mor (tracks 1-14), John Zorn (tracks 15-18), Rob Burger (track 19) - piano


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