D'Angelo & The Vanguard 「Black Messiah」(2014)

 繊細かつ内省的でドラッギーなファンクを、大真面目にきめた危うい傑作。

 14年ぶりの3rdアルバム。ディアンジェロはほとんど聴いたことなかったが、本盤は評判良さに今更ながら聴いた。つまり、プリンスが死んだあとに聴いた。失敗した、と思ったよ。あまりのプリンス影響どっぷりな仕上がりで、かつプリンスの根本的なセルフ・アピールを理解してない。なおさら、プリンスの死が悲しくなった。

 とはいえ本盤は傑作だと思う。特に、アルバムとして。ライブではありえない、繊細で自信無げなファンクネスは、録音物としてこそ成立した。
 しょっぱなから群唱が始まる。最初はP-Funkの影響かと思ったが。聴いてるうちに、頼りなさの表出ではと思えてきた。

 どれが主旋律かわからない。リード・ボーカルはファルセットやダビングを多用して、なおかつフィルター処理もしばしば。歌詞見ながらだとわかりやすい。ふわふわと主軸を見せず、地に足がつかない不安定さ。
 これはガンギマリな酩酊を、表したのでは。ただしドラッギーないい加減な作りではない。緻密な計算とスタジオ・ワークでできている。

 しかし、プリンスとよく似つつ違う。ディアンジェロは本盤で、あらゆる楽器を演奏する創作の主導権を持とうとした。だが程度の差こそあれ、本盤は多彩で才能にあふれたミュージシャンらを多く集め、バンド化した。
 この点が、プリンスと大きく違う。

 プリンスはボーカルを多層ダビングし、主旋律をあいまいにした。バンドを幾度も作り、グルーヴを意識した。さらに打ち込みビートも上手くファンクに昇華させた。
 だがこれはすべて、強烈な自意識に基づくものだ。すべての楽器を自分でコントロールでき、自らが主役と絶対的に主張するからこその方向性だ。

 複数の旋律を生かした。すべてが自分、だからだ。バンドのグルーヴを幾度も大切にした。結局は自分でできるからだ。それと、傘下やファミリーを持つプリンスの幻想も合ったように思う。

 だがディアンジェロは根本的に違う。自意識は本盤であまりに希薄だ。演奏に歌は埋もれ、筋が一本通されずふわふわと漂った。冒頭の曲で自分を出したとたん、二曲目は宗教的な説教を漂わせ、ディアンジェロの存在感を希薄にする。

 悪い、と言ってるんじゃない。これも、個性だ。なにもプリンスのフォロワーである必要はない。ディアンジェロは自信なさげに、逃げ道を残すように、頼りなくはかないファンクを本盤で提示した。
 ふわふわと酩酊感を存分に漂わせて。メロディの断片が浮かんでは沈み、危うく瞬く。
 歌声はプリンス、そしてカーティス、ときにP-Funk。さまざまな先人たちの要素を、ディアンジェロの太くきめ細かいフィルターを通して、ディアンジェロならではのか細い歌声に仕立てた。

 これはアルバムならでは、の作り方であり魅力だ。
 きっちり自我を主張する必要があるライブでは成立しないし、実際のライブ映像を見ても思う。ライブでは楽曲は同一でも、アプローチは別物だ。アルバムでの不安定さを、爛れたファンクネスの美学に変化させている。また、そうでないとエンターテイメントとして成立しない。
 

 本盤はトータル・アルバムだ。2曲挟んだ"Back To The Future"でメリハリをつけ、前半は力をふるおうとして怯えもぬぐいきれない、どこか危なっかしいファンク。
 中盤はメロウな幻想性をぐっと前に出した。

 聴くほどに、この盤は丁寧に作られてると思う。明確なビート、きっちりした曲構造、しなやかなメロディやアンサンブル、これらと全く逆ベクトルだ。
 揺らぎ震えるグルーヴに、頼りないメロディを載せる。さらに録音もミックスも一筋縄ではいかない。細かく録音し、緻密にミックスしてる。

 本盤は、内省的な傑作だ。病んで情けなく内にこもっていく。

 だからこそ、最後の"Another Life"が美しい。70年代ソウルを下敷きに、プリンスの影響をどっぷり決めたアレンジや歌を決める。
 ここでは別の世界を求める男の、不安さを見事に表現した。アルバム本編の毒をちらつかせ、崩れそうなファンクネスは無い。ここには、線が細いロマンティックで自己完結を図る閉じた世界が、しなやかに描かれている。

 本盤は爽快さや、頼もしさと逆ベクトルだ。酩酊に逃げ、内的世界で遊ぶ。そんな情けないファンクネスを、見事に構築した。この世界観は怪しく美しい。そんな密室を描いた傑作である。

Track listing:
1.Ain't That Easy 4:49
2.1000 Deaths 5:49
3.The Charade 3:20
4.Sugah Daddy 5:02
5.Really Love 5:44
6.Back To The Future (Part I) 5:22
7.Till It's Done (Tutu) 3:51
8.Prayer 4:32
9.Betray My Heart 5:55
10.The Door 3:08
11.Back To The Future (Part II) 2:24
12.Another Life 5:58


Personnel:
D'Angelo - vocals, guitar, piano, organ, keyboards, synthesizers, bass, electric sitar, drum programming, percussion
Spanky Alford - guitar
Jesse Johnson - guitar
Mark Hammond - guitar
Isaiah Sharkey - guitar
Pino Palladino - bass, electric sitar
Ahmir "?uestlove" Thompson - drums, drum programming, percussion
Roy Hargrove - trumpet, cornet, flugelhorn
James Gadson - drums
Chris Dave - drums, drum programming
Kendra Foster - background vocals
Jermane Holmes - background vocals
Ahrell Lumzy - background vocals
Gina Figueroa- spoken word
Brent Fischer - conductor
Russell Elevado - mixing, engineering
Ben Kane - mixing, engineering
Tony Rambo - engineering
Dave Collins - mastering
Alex De Turk - mastering (vinyl)

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