Miles Davis 「Live in Zurich」(1960)

 ハード・バップからモードの深化まで。ライブでのマイルスの記録。

 サブタイトルは"Quintet with John Coltrane"。58年と60年、二種類の音源を収録したライブ盤で、いわゆるセミ・ブート。Amazonで容易に入手可能だし、著作権的にもそろそろOK・・・なのかな?
 海賊版としては昔から流通と思うが、こういったセミ・ブートCDだとWikiによれば93年に発売らしい。

 当時にマイルスが承認したアルバムではないが、どんな音楽を演奏してたかを追体験できる。ブートならではの醍醐味で、それほどひどい音質でないのもありがたい。

 マイルスはLPだと先駆的な実験を繰り返しつつ、ライブではエンターテイナーとして尖った最先端は控えめに聴きやすいジャズも意識してた。それが、本盤だとよくわかる。
 LPだと58年って"Milestones"の頃。プレスティッジでのマラソン・セッションを終え、メンバーを少しづつ変えて、モード・ジャズへ移行を図る前夜。

 60年は既に"Kind Of Blue"が発売済み。本盤でも"So What"や"All Blues"を演奏してる。だが本盤ではもっと、ホットなジャズを提示した。

 本盤は構成として60年の演奏を先に収録してるが、マイルスの変遷って意味では(6)から先に聴きたい。ただし本盤として58年音源はオマケだが。

 さて、(6)以降から。演奏は58年5月17年、NYのカフェ・ボヘミアでのライブ。Milesの最高峰ファンサイト"Miles Ahead"の記述を見たが、音源としてもそもそも本盤収録分しか残されてないらしい。
http://www.plosin.com/milesAhead/Sessions.aspx?s=580517
 元は放送用音源らしいが、ずいぶん音質は荒っぽい。冒頭からざらつきながら、ホットなジャズを展開した。

 "Milestones"の録音が同年3月4日で、その二ヶ月後のライブ。既にピアノがガーランドからビル・エヴァンスに変わってる。フロントにキャノンボールを入れず、二管体制はアレンジをシンプルにするのが狙いか。

 このライブの約一週間後、5/26にLP"Jazz Track"のB面を収録した。この盤で既にキャノンボールが再び参加し、ドラムがフィリーからジミー・コブへ変化した。
 つまり音楽的、もしくは下世話なスケジュールやもろもろの状況により、マイルスはサイドメンを細かに変えてるのが良くわかる。

 
 本盤の演奏はリズム隊の強固さに、エヴァンスの硬質で軽やかなタッチがアンサンブルをきれいに締め上げた。マイルスの甘いフレージングと対比的に、コルトレーンがすっかり調子に乗って吹き倒す。良い意味でも悪い意味でも、才木ばしった演奏でアイディア一発の力任せなテナー・サックスだ。

 いっぽうでエヴァンスは着実だ。うねりながら上下するベースが快調に煽り、ドラムも歯切れよく刻んだ。
 マイルス自身もアドリブは冴えている。吹きすぎないが、音を抜きもしない。無造作に少なめの音数でフレーズを作った。ときどき考え込むように間を置きながら。クールからキュートまで、音の表情が幅広い。ちょっとピアノがオフ気味だが、楽しめる演奏だ。


 もう半分のライブ、60年4月8日のチューリッヒ公演も演奏は熱い。だが約1年前に吹き込んだ"Kind of blue"のクールさは控え、モード的な不安定さも抑えた。

 もっと明るくクッキリした、ハードバップを披露に聴こえた。
 冒頭に"If I were bell"を置いてるせいで、そう感じる。中盤で長尺の"So What"と"All Blues"が続く場面では、がっつりクールに雪崩れる。

 つまりは掴みは馴染み深いジャズで油断させ、中盤でやりたいことを存分に披露するって構成か。

 本セッションの参加メンバーは"Kind of blue"そのまま・・・と言いたいが、"Kind of Blue"のピアノはエヴァンスって思い入れがあるため、ちょっと素直になれない。
 このライブ音源ではWynton Kellyがピアノ。彼も"Freddie Freeloader"では弾いてたから、本盤は"Kind of blue"と言えなくもないのに。なおキャノンボールはおらず、2管編成だが。

 この時期、3月末からマイルスはこの5人で渡欧し、4月の中頃まで欧州ツアーだったらしい。その一環で放送用音源として本音源が産まれた。現存テープとしては、これがすべてらしい。
http://www.plosin.com/milesAhead/Sessions.aspx?s=600408

 ここでもコルトレーンはズルズルと力任せに吹いている。逆にピアノのケリーは溌剌、跳ね上げる軽快なフレージングでキュートにスイングした。
 手数多いベースに対し、ちょっと絞るようなコブのドラムが渋い。

 前のめりに畳みかける"So What"が肝。少しばかり荒いが、威勢良いクールさはあり。

 スタジオ録音に未収録の"Fran Dance"が聴けるのも、本盤の売り。マイルスのオリジナルで当時のレパートリーだったらしい。
http://www.plosin.com/milesAhead/DiscoDetails.aspx?t=Fran+Dance

 そしてマイルスはこのあと"Sketches of Spain"を吹き込む。コンボ編成ではテナーをコルトレーンからハンク・モブレーに変え"Someday My Prince Will Come"(1961)を作った。
 マイルスにとってモード・ジャズは一里塚だったか。次に強力なリズム隊を入手し、セカンド・クインテットの黄金時代へ一直線に向かった。

Track listing:
1.If I Were A Bell 16:44
2.Fran Dance 7:42
3.So What 15:27
4.All Blues Into 17:06
5.The Theme 0:55
6.Four 4:51
7.Bye Bye Blackbird 6:52
8.Walkin' 6:32
9.Two Bass Hit [Incomplete] 0:48

Personnel:
M-1~5 : Apr. 8, 1960 / Zurich
Miles Davis (tp) , John Coltrane (ts) , Wynton Kelly (p) , Paul Chambers (b) , Jimmy Cobb (ds)

M-6~9 : May. 17, 1958 / NY
Miles Davis (tp) , John Coltrane (ts) , Bill Evans (p), Paul Chambers (b), Philly Joe Jones (ds)


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