菊地雅章 「オーロラ;Aurora」(1989)

 怪盤だが、テクノの文脈で今こそ再評価が可能な盤だ。

 菊地雅章の後追いリスナーは現在、彼の全貌を再評価できない。日本ジャズ界の第二世代の先駆けとして、66年に富樫雅彦と渡辺貞夫カルテットに参加を口開けに、若いころからジャズ界で高い評価を得た。参加アルバムもいっぱいある。
 そして特異で変貌する音楽性を持っていたがゆえに、通覧や全肯定の立ち位置をビジネス上では得られなかった。何を意味するか。それぞれの時期に多彩なアルバムを発表しており、現在手に入れられない作品も多数あるってこと。

 本盤も、そんな一枚。
 いや、本盤はまだマシ。廃盤でプレミアついてるがAmazonにカタログが載っている。前身となる"六大"は、本稿を書いてる今は出てきやしない。

 だが、敢えて聴く価値があるか。それが難しい。一般ウケはしない。だが好事家には楽しめる盤・・・・・・・じゃない、かなあ?
 具体的にはアンビエント寄りなドイツのテクノ好きをターゲット。コンラッド・シュニッツラーとか、ピート・ナムルックとか、タンジェリン・ドリームとか。
 あのへんのシーケンサーやミニマルさと、混沌な電子音の連続を楽しめる人ならば。
 もしくはチルとか瞑想、ニューエイジとか。そんな文脈で、本盤は興味深く楽しめると思う。

 本盤は、ジャズ・ピアニストの超大物、菊地雅章の作品だ。なのにメカニカルなテクノの文脈のほうが近しい。だからこそ、本盤は怪盤だ。

 まず、"六大"から書いておこう。もう何年も検索してるが、これをきちんとまとめたページに、どうやっても行きつけない。誰か、ぜひお願いします。音源もYoutubeにあげてくれると嬉しいです。著作権違反ですが。

 "六大"とは「リアルタイム・シンセサイザー・パフォーマンス」を標榜して、87年に次々と発表された6連作のCDシリーズ。通題が"六大"で、"地・水・火・風・空・識"と、漢字一文字のタイトルが"CD"で出た。しかし、現在は廃盤。中古盤でもめったに見ない。ようやくぼくは3枚("火","地","識")まで聴けたが、他の3枚はいつ聴けるやら。

 当時、CDで発売は少しばかり気が早かった。内容もアンビエントで抽象的な電子音楽。あまり評価はされない。リアルタイムで雑誌広告は見かけた記憶ある。レコ屋にも置いてあったような。しかし、高校生だったぼくの興味範囲と限られた財源では、これらを買うには至らず。買っときゃ良かった。そう、「CDは見たとき買え」の格言は、ここにも当てはまる。

 菊地のキャリアでいうと本盤は"Susuto"などを81年に発表して沈黙後、初プロジェクトだったらしい。オフィシャル・ファンサイトから引用しよう。
http://www.cyborg.ne.jp/~poo-sun/biography/
 『83年、ニューヨークのクラッカー・ジャップ・スタジオに膨大な数のキーボードをセッティングし(略)自身で構築した音のモチーフに対し、リアルタイムでインプロバイズしてゆく菊地単独によるこの作業は以後5年間、88年まで続けられる。』

 本コンセプトが87年の"六大"につながる。LDでも出たらしい。タワレコにカタログの残骸が残ってた。
http://tower.jp/item/505924/japanesque-%E5%85%AD%E5%A4%A7%E3%80%883%E6%9E%9A%E7%B5%84%E3%80%89
 発売が1991/11/21、LD3枚組でレーベルは電通、型番は"PCLX-00009"とある。現物を見たことなく良く知らない。

 このコンセプトでは他に、上記のファンサイトによると「月・小夜子・山海塾」、「浮世絵-さがしてた女」というビデオも出たとある。聴いてみたいな。今ではビデオは再生もできない。CD化の形跡もない。それともこれと"六大"は同じ音源だろうか?

 そしてこれらの活動をすべて拭い去り、菊地は88年にファンク・バンドALL NIGHT, ALL RIGHT, OFF WHITE BOOGIE BAND(AAOBB)を結成の結成に至る。黒歴史、みたいに当時から"六大"がらみは黙殺されていた。

 "六大"と本盤"Aurora"はジャズ資料館のページで、ある程度全貌がわかる。
http://alturl.com/jaffw
 "六大は"ポリスター / Geronimoから発売。"Aurora"はフォンテック / Rizomeからの発売。つまり別文脈で、似たような音楽性の盤がリリースされたことになる。発売日がわからない。
 両レーベルを資本関係も知らないが、フォンテックは独立系かな?クラシック寄りのレーベルって印象あり。

 いずれにせよ、良くここまで冷徹で無機質で、ジャズとは異なるスタンスのアルバムをこれほどリリースできたもの。菊地のネーム・バリューと、ぶっちゃけバブルに向かう80年代後半の躁的に浮ついたご時世も後押ししたのではないか。

 本盤は一連の同様盤の中でも、特に極北と思う。若干は生演奏の人間臭さがある"六大"と対照的に、本盤はかなりメカニカルな耳ざわりだ。
 
 メロディはほぼ無く、ランダムとも感じさせる音列が、ジャストなリズムで淡々と提示が続く。人間臭さが、徹底的にそぎ落とされた。
 時代を考えるとここまでメカニカルな世界観は、痛烈に異様だ。
 サウンドは手弾きにしては音列があまりにもジャストすぎ。いったん弾いたフレーズをMIDIにしてクオンタイズ揃え、ループし直したのかな。後述のようにシンセのプログラマーもクレジットされてるし。

 音色はうっすらリバーブがかかった、金属質な音。もし本盤が、緩やかな寛ぎを持っていたら、ニューエイジとかヒーリングの分野で使い道あったかもしれない。
 だが本盤は、そんな安直な道も許さない。もっとスリリングで、前のめりなビート感がある。音数は決して多くない。数音の限られた音色、明確なリズムもないスペイシーな音楽が淡々と脈絡なく続いていく。

 ひとつながりのメロディとも言い難い、抽象的な音列がミニマルに展開し、変化しながらも盛り上がりや構成とは無縁に流れた。

 この音楽、移動中や横になってるときなど、没入できる環境で聴くとハマる。じわりと脳髄に酩酊感が漂い、意味のない音列に物語性を探っている自分に気が付く。

Track listing:
1.Part 1 15:26
2.Part 2 13:03
3.Part 3 13:01
4.Part 4 13:20

Personnel:
Composed,performed & Recorded by Masabumi KIKUCHI
Recorded at Cracker Jap Sound Studio,Brooklyn,NY.,
April 1986 through January 1989

Produced by Masabumi KIKUCHI with assistance of Diane RANDOLPH
Associate Producer ; Kenny INAOKA

Synthesizer programming Lance MASSEY & Masabumi KIKUCHI
Sewuence Modification: Ken IGARASHI (Part 1,4) & Lance MASSEY (Part 2,3)



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