Incapacitants 「Feedback Of N.M.S.」(1991)

 ノイズと力いっぱい戯れる、インキャパの真骨頂がつぶさに味わえる一枚。

 前作1st"Repo"から2年ぶりの2ndな本盤で、インキャパシタンツは美川俊治のソロから同じ第一世代ノイジシャンで元C.C.C.C.の小堺文雄をサポートに加えた。凸凹コンビのビジュアル・イメージと、パワフルさが同居するインキャパの構造がこの時点で成立している。
 もとより美川は自分のノイズ美学を突き詰めるより、もっと素直にノイズと向かい合いたかったのではないか。堅気のサラリーマンとして日常を踏まえた上で、ノイズという非日常を満喫するために。
 
 すなわち本盤を聴いていて、あまりに投げっぱなしな構造に呆然とする。アルバム・コンセプトやサウンド構造のメリハリは、およそ存在しない。衝動の赴くままに本盤を作ったのではないか。

 一方で本盤は、細かな音まできっちりと録音され、聴き手のボリュームつまみ次第でいかようにも味わえるコンセプトがありがたい。
 ノイズのライブは轟音が常だ。耳は一瞬にして耳鳴りと混ざり、そもそもPAから出音自体が既に歪んでいる。音域も広く低音は身体を切り裂き、低音は分厚く重たく胸を締め付ける。あのダイナミズムは、どんなにボリュームを上げたところでCDではありえない。そもそも、その周波数帯が録音されてないような。

 非日常と混沌の痛快さが噴出するノイズ・ライブの快楽には、唯一の不満が残る。どんな音が出てるか、さっぱりわからないところ。インキャパのライブも何回か見たが、すべてステージ・アクションで潰される。テーブルの上に膨大な機材を並べ、汗まみれで二人は機材へ手を押し付ける。ボリュームや出音に違いは無いはず。単にスイッチのはずだから。
 でも二人は肉体性を常に意識し、けっしてマッチョイズムではないのだが、やはり力いっぱい押し付けてノイズを絞り出してるように見えてならない。

 さらにコンタクトマイク。なにやら叫びながら暴れている。
 ところが出音は混沌な轟音。ライブだと耳が爆音にやられ、個々の音は聴き分けられない。
 そんな不満を、本盤はきれいに解消した。曲によっては機械変調されたヴォイスもたっぷり登場だ。

 そして聴き終わったとき、あまりのあっけなさに驚いた。本盤はおそらく、一発録音。ざらついたフィルター・ノイズの嵐と低音の発信機を背後に並べ、二人は数種類のノイズ・マシンをリアルタイムでいじりながら、サウンドを作っている。
 アレンジは、ほぼ無い。アイディア一本勝負で15~30分にわたる3曲を並べた。

 響く音は、まさにインキャパ印。つんざく鋭さと鈍い低音の嵐。高音中心に吹き荒れ、せわしなく、立ち止まらずに震え続ける。
 ザクザクと絶え間ない狂騒感が常に溢れ、デュオだが互いの押し引きや掛け合いは非常に希薄。その一方で完全無視ではなく、指一本残した協調性もあり。
 完全即興でてんでに疾走する初期の非常階段から、いくぶんアンサンブル性を残した。とはいえメルツバウのような構築性は皆無で、やみくもに暴れる。

 その一方で、ヒリヒリする破壊衝動や、スカム風の無気力さは皆無。ノイズへ真摯に向かうまじめさと、愛情が滲む。本盤をぱっと聴いて、遊びのいい加減さや、ぶち壊しを目的の無軌道さを感じる人は少ないと思う。ノイズ作品へ慣れるほどに。
 本盤でインキャパは「ノイズの響き」を聴きながら、音を出し続けている。投げっぱなしの一発芸さはある。再現性や曲の独立性は薄い。けれどもノイズマシンから溢れる激しい響きをわしづかみにして、豪快に咀嚼する冷静な視点を感じた。

 なおアルバム・タイトルのN.M.S.は謎。金融用語ではNational Market System(全米市場システム)を指すらしい。
 曲タイトルも意味深だが、サウンドとの関連を書くのは野暮な気もする。コンセプチュアルに味わうより、痛快なノイズの連続性に溺れたい。

 いちおう連想したことを書いておこうか。
 (1)は「チャウシェスクの呪い」。ルーマニアの独裁者への憤りを表現、か。
 (2)のF.L.S.は意味が不明。金融用語ではFunding for Lending(融資促進のための資金調達)といった言葉があるが・・・。ただ、いずれにせよ美川の業務ストレスを解消なタイトルっぽい。

 (3)はもっと不明。終盤に拍手も飛び、ライブ録音なのは確か。録音時期や場所は不明だ。
 演奏としては本曲が最も激しい。上がっては下がり、のたうっては突き進む。ヴォイスとフィルター・ノイズの濁流だ。あまりドローンめいたノイズは無く、シンプルな構造で突き進む。たしかにライブっぽい痛快さはいっぱい。
 叫び、暴れ、荒れる。インキャパのライブらしい、サウンドがこの曲ではたっぷり聴けた。いきなりカットアウトで終わるあたり、すでにこの時点で、最後は小堺が客席に乱入しうやむやに終わるって構造が完成してたのだろうか。

Track listing:
1.Curse Of Ceauşescu 29:13
2.F.L.S. Syndrome 14:51
3.Live 22:16

Instruments [All Instruments], Voice - F.Kosakai, T.Mikawa
Producer [Produced By] - Alchemy Records, Incapacitants
 
 
 

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