Incapacitants 「Repo」(1989)

 プロレス的なノイズ好きの無造作な1st。

 ノイズ第一世代として強烈な地歩を築いたインキャパシタンツの1st。盟友が経営するアルケミーからリリースされた。美川俊治のソロ・ユニットとして。今でこそ小堺文雄とコンビを組んでるが、昔も今もインキャパは美川のソロ。
 日本ノイズ界の帝王、非常階段に参加しながらもパフォーマンスに傾倒するステージングに馴染めず、ソロ活動がインキャパの位置づけ。

 すなわち、日本でも稀有な「ノイズ好き」の純粋な趣味発露がインキャパの特徴だ。
 
 ノイズには様々なアプローチがある。特に日本の第一世代で見るならば、スカムもしくは破壊衝動が根底にあるロックな非常階段。アートな視点を嗜好しオーケストレーションとしてノイズをとらえたメルツバウ。灰野敬二はノイズではなく、人と違う音楽を志向してるだけ。C.C.C.C.はあまり聴いてないが、シンセを中心の電子音楽を突き詰め、ノイズに至った印象がある。
 
 だがインキャパは違う。ノイズに寄り添ってる気がする。騒音へ過度の幻想や意味性を持たせず、日常のストレスを込めてるような。メロディもコードもリズムも不要、響きが欲しい。凶悪であればなお良し。そんなノイズの響きそのものを追求してるかのよう。
 そもそも美川は銀行員(である、らしい)、の本業があった。あくまでサイド・ワークとしてのインキャパであり、非常階段を主とするならば、二重にサブの位置づけとなる。どちらが主かは、美川でないとわからないが。

 ともあれ。インキャパはノイズを攻めながらも、ちょっと違う。
 インキャパのアイデンティティを突き詰めたり、機材を追い込みノイズの響きを探求し、精錬を目指すストイックさと、無縁に聴こえる。
 もっと偶発的に、その都度の録音機会に、あくまでその時点で最も好きなノイズの響きを無造作に封じ込めた。そんな無邪気な自由っぷりを感じる。
 
 特にライブ音源では、一杯ひっかけて大騒ぎするシンプルな衝動や開放性もあり。

 今回、旧譜をまとめた「アルケミー箱愚か」を聴きながら、色々と思うところあり。本稿もその一環だ。いわゆる社会人として生きながらノイズと向き合うことは、どんな意味を持つのか。それをインキャパの音源を流しながら考えてみたい。

 前置きが長くなったが、本盤。今手に入る音源では、ボーナスで(3)のリミックスがあり。この曲は本盤からさらにさかのぼる1985年に非常階段とのスプリットでアルケミーから発売したカセット"Δ8000 / Prelude To Pallo"(1985)に収録された。
 このあと、本1st"Repo"のリリースという流れらしい。
 なおインキャパの音源としては、美川の自主レーベル発売の"Eternal Paralysis"(1981)が最初のようだ。


 本盤"Repo"のタイトルは、金融取引用語を連想する。と言っても僕は門外漢だが。「買い戻し条件付取引」のこと、らしい。
 仕事上の何かがあって本タイトルを付けたのか、もっと音楽そのものに関連あるタイトルかはわからない。
 当時のLPでB面曲な(2)も、A面タイトルを単に裏返しにも見える。実際には「売り戻し条件付買入取引」と、きちんと金融取引用語でレポ取引の裏側にあたる意味があるそうな。
 
 なんにせよ、実際の音は多層的で偶発性を持つノイズが詰まった。宅録でなくスタジオで作ったみたい。ダビングでなく同時発音で一発録音と解釈したが、実際はどうだろう。 複数の音が立ち上り、すべてを一度に操作は難しそう。バックで鳴るノイズを出しつつ、一つか二つの音をマニュアルかつアナログ的に操作してるっぽい。本盤の時期ならMIDIで複数音源をデジタル同期制御には、数年くらい早かったのではないか。

 (1)と(2)はLP片面いっぱいを両面で使い切り、20分越えのノイズが各一曲の一本勝負の作品である。
 双方には連続性が無く、いったん(1)は唐突に終わる。そして仕切り直しのように(2)を始めたっぽい。(2)のほうがいくぶん、冒頭からテンション高いかな。

 しゅわしゅわする高音フィルターノイズの脈動と、低く鈍い低音の唸りが轟く。ある程度は周期性も感じられるが、ざらつくうねるゴムをこするような響きはアナログっぽい操作だ。
 この音源を、どのように録音したかに興味がある。
 電気的な音が詰まっているけれど、いったんスピーカーから出してテープへ録音だろうか。そのわりに個々の音の分離はあんがいクリアだ。だがマルチへ各音源を録音重ね、あとでミックスし多様な硬質さは感じられない。
 
 モノトーンの音像へさまざまな装飾を加えてるかのよう。低音のうねりよりも、高音のつんざく鋭さとエコーで震える非日常性が好みではないか。空白を作らず濃密に複数のノイズで音像を埋める。ホワイトノイズっぽい響きが、常に背後で鳴り続けた。

 発信機がうねる上で、次々と音の主役が変わる。一つの音を轟かせず、ずらり並んだ音源を次々に操作するかのよう。残響深いうねりとともに機材と格闘する美川の様子が浮かんでかっこいい。
 メルツバウのように構築性や物語性は希薄で、感興のままにノイズを絞り出すかのよう。だからちょっと、冗長さもあり。長さへの必然性やドラマが作品から聴き取りづらいため。ライブだとその場の勢いでノレるけれど。

 リズム感も希薄。音源をレイヤーで重ねることでビート性を出す。のっぺりした単調さは無く、躍動する迫力は常に噴出した。
 メカニカルだがミニマルな連続性や暴力的な強迫さは低い。例えば仕事のストレスをノイズにぶつけて昇華、みたいな単調構造ではない。

 コンタクトマイクとエフェクターで加工と思しき、叫びっぽいうねりも現れる。特に(2)で顕著。機械仕掛けの恐竜が咆哮してるかのよう。だんだんパワーが放出され、ゆるやかに下り坂へ向かうのが(2)だ。終わりはカットアウトで唐突に。
 
 全体的にざくざくと貫き、疾走するパワーもある。だがそれはノイズへの感情発露の一方で、根本的に音色や混沌を愛する矜持が滲む。つまりノイズそのものを楽しむ趣味性と心の余裕があった。
 それが、単なるバカ騒ぎと一線を画す凛々しさを本盤へ与えた。

 (3)の"Prelude to Pallo"でいうPalloが何を指すかはわからない。プロレスのパロ・スペシャル・・・じゃないよなあ?インキャパはプロレスも好きと。昔のインタビューで読んだ気がするけれど。
  
 音像のアイディアは本盤と似て複数のノイズを後ろで走らせ、前面でいくつかのノイズを操るスタイル。アナログ・シンセっぽい、空虚だが骨のしっかりした響きが基調。和音っぽさもわずかにある。
 暴力性や剛腕さはぐっと引き、むしろミニマルな涼やかさが前に出る。淡々と単音を鳴らし、おもむろにクラスターへ。テクノとは違うが、共通する味わいあり。音色はノイズとも言い難い。

 混沌で抽象でリズムやメロディが希薄なだけの、むしろ電子音楽とも言える聴きやすさを持った。インキャパの初期音源って、こういうアプローチもあったのか。
 これも26分一本勝負の長尺作品。メリハリよりも、ひとつながりの流れを優先させた。
 
Track listing:
1. Repo
2. Reverse Repo
3. Prelude to Pallo Remixed (Bonus Track)

All Sounds By - T.Mikawa



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