TOY 「ふたりでおちゃを」(1997)

 即興を得意とする三人が、たっぷりスタジオで作りこんだ作品。

 立花泰彦,太田恵資,芳垣安洋によるユニット、TOYの1st。三人の頭文字を集めつつ、なんとなく立花が主導権と思っていた。いくぶん、ジャズ寄り。そして即興。だが本盤はスタジオ録音ならではの作りこみが、あちこちで聴ける。

 さらに芳垣が後年に始動するバンド、Vincent AtomicsやEmergency!の萌芽があちこちに見られた。あからさまな主導権やエゴを出さないが、個性と巧みな広がりを投入する太田の絶妙な演奏は本盤でもばっちり。
 改めて本盤を聴き返したとき、三人ともユニットへかなり入れこんでたと気が付いた。ヘッドフォンで聴くことを強く推奨する。

 全9曲中、立花の曲が(3)の冒頭と(4)に(9)。芳垣が(1)と(5)。太田が(2)を提供し、(3)の後半と(6)、(7)、(8)がカバー。ほぼまんべんない提供曲。太田がオリジナルをあまりやらないのはいつものこと。むしろ(2)の投入に意外性ある。(6)の選曲も太田かもしれない。

 (1)はのちに"Vincent I"(2002)にて、芳垣はVincent Atomicsのレパートリーとした。"For Your Sleepless Night"と英題に変えている。本盤ではコンパクトなプログレ風味ながら、幾層にもパーカッションをダビングし厚みを出した。

 バイオリンも、だ。リフを左右のチャンネルに飛ばし、数本も重ねている。トリオ編成で即興中心でない。ここではスタジオ録音ならではの多重録音で、即興性よりも楽曲の仕上がりを優先した。
 小刻みなビートが深くグルーヴし、エレクトリック・バイオリンが鋭くリフを左右で刻む上で中央にて素早いアドリブをバイオリンが奏でた。
 中央で頼もしくベースがアンサンブルを支える。初手からかっこいい名演。

 (2)は太田のボーカルをフィーチュア。中原中也「在りし日の歌」にメロディを付けた。彼らしいさりげないロマンティックさが現れている。途中でアラビックなヴォイスに変わる。本ユニットのレパートリーな一方で、たしか板橋文夫らとのセッションも映像が残っている。
 
 リズム・アプローチが前曲の伸びやかさとがらり変わり、木魚みたいな日本風味、もしくは打ち込みめいたタイトさを漂わす。さらに重厚なシンセの残響を飛ばした。漆黒の荒れる夜の日本海の激しさを表現したか。
 抽象的な譜割、さらに終盤でピッチを極端にずらした下手くそなリコーダーの響き。聴きやすさとはちょっと違うベクトルで、厳しく切ない雰囲気を漏らした。

 (3)の前半は立花の多重録音ベースから始まる重厚な響き。立花の世界がたっぷりと披露された。そこからアコースティックなフリー・ジャズに向かう。
 後半の"Better Get Hit In Your Soul"はミンガスのカバー。芳垣の選曲、かな。後年、芳垣は自らのバンドEmergency!で、この曲を取り上げている。
 (3)のいわゆるイントロから、滑らかに"Better Get Hit In Your Soul"へ雪崩れ、そのまま調子っぱずれで男臭いメロディの叫びへ。頼もしいアンサンブルは、ぐっとテンポを落として即興に向かう。この流れはいかにもライブっぽい。

 切なくも柔らかい(4)は、メロディを生かしたきれいなアンサンブル。クラシカルな雰囲気をバイオリンが付与し、小節感を希薄にフリーをのびのびと演奏する。鋭さや緊張はあるけれど、どこか穏やかでメロディアス。即興巧者っぷりを楽しめる一曲だ。
 
 (5)も抽象的。エレキギターの歪みを弾いてるのは太田、らしい。前曲の滑らかさから一転し、ぐっとハードコアな仕上がりだ。あまりそう感じさせないが、演奏は多様なダビングを施されてる。この辺、ヘッドフォンのほうがわかりやすい。
 スタジオ録音ならではの即興。芳垣はさまざまなパーカッションを操り、アンサンブルに深みを出す。ジャケットにはアフリカからアラブまで世界中のパーカッション名がクレジットされ、芳垣のこだわりが伝わってくる。

 (6)の冒頭はストリング・オーケストラに載ったバイオリンの滑らかな演奏。このオーケストラが、どう録っているかわからない。バイオリンの多重録音にしては音域が広いし、クレジット見る限りオケを起用したとも思えない。シンセの多重録音かな。テープでオーケストラ音源へダビングかな。うーん。シンセかなあ。

 ジャズ・スタンダードをスインギーに奏でながら、中盤に太田のコミカルなボーカルで世界観をぶち壊す。幅広い表現力を得意とした、太田ならではの演奏だ。小粋でスマートなバイオリンをベースがしっかりランニングして支える。そして4ビートを刻みながら、いろんなパーカッションを足してリズムを複雑にしてみる芳垣。三人の持ち味が楽しい。
 すっとテンポアップして走り出し、次にはフリーであいまいに揺らぐ。くるくる変わるリズムをしなやかに立ち回る、安定した上手さも心地よい。芳垣はトランペットもダビングしてる。
 
 (7)は童謡や民謡も残した中山晋平の曲。この渋い選曲も太田のアイディアかなあ。幅広くてらいないとこからして。バイオリンのメロディはいじらずに、ベースやドラムがフリージャズ的に絡むアレンジ。バックがどんなにフリーへ行っても、バイオリンは鷹揚にメロディを奏で続ける。この釣られなさっぷり、も太田らしい。

 (8)はキューバのSSW、シルビオ・ロドリゲスの曲。ギターの爪弾きは太田か。いきなりきれいな歌声が入る。これは、立花かな?ギターの爪弾きはそのままに、トリオの演奏へ。つまりは、これもダビングがいっぱい。
 一見、生演奏一発録りに思わせて、さまざまな技が仕込まれてる。アルコ弾きのベースに寄り添って、静かなマンドリンの爪弾き。これも、太田。背後に聴こえるバイオリンも含めて、ひときわ太田は大活躍してる。

 最後の(9)は(5)に対比の形で、子供から大人、とタイトルを変えた。作曲は立花だが、芳垣はトランペットにバラフォンと、ドラム演奏へ様々な音をダビングした。
 これもテーマ云々より即興的なフレーズが溢れるさまを楽しむ、混沌な曲。最後もバラフォンの奔流で、芳垣が目立ちまくってる。

 なお本盤は97年の7月14~16日の三日間で、あっさりと録音された。その割に、あちこちと手の込んだアレンジだ。ライブを重ね、アイディア豊富さと気心知れた中で濃密に素早くレコーディングされたと思われる。

 アイディア満載、溢れんばかりの才能が詰まった一枚だ。

Track listing:
1.眠れぬ夜のために
2.北の海
3.Introduction~Better Get Hit In Your Soul
4.夢のように
5.子供のToy
6.Tea For Two
7.ゴンドラの唄
8.Rabo De Nude
9.大人のToy

Personnel:
立花泰彦:b,e-b,vo and etc.
太田恵資:vln,e-vln,g,mandlin,vo,and etc.
芳垣安洋:ds,per,tp.vo and etc.

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