TZ 8050:The Hub "Boundary Layer"(2008)

 CD3枚組で、アカデミックなアプローチの軽やかにノイズはじける電子音楽集。

 The Hubは6人編成の電子音楽ユニット。全員がコンピュータとエレクトロニクス、とクレジットされた。ブックレットにもラップトップに向かう男6人のステージ写真。ブックレット裏には回路図みたいな手書きの図が書かれてる。
 86年から06年まで20年間に、あちこちで行われた音源を収録の、集大成みたいなボックスらしい。大まかにDisc 1が80年代、2が90年代。3が00年代と十年ごとに変遷をくくった構成だ。5~10分程度の短めな作品を収め、延々と長尺突き進みではないため、楽しくじっくり彼らの音楽を楽しめる趣向だ。
 確かに86年からこのスタイルなら、先駆者のひとりと言えるだろう。

 恥ずかしながらこのユニットは本盤で初めて知った。Discogsによるとアルバム発表は少なく、"The Hub"(1989),"Wreckin'Ball"(1994)の二枚のみ。かろうじて"The Hub"のみAmazonで登録あった。電子音楽の分野はともすれば膨大なリリースもあるため、この地道な活動はむしろ意外だ。


 むしろ6人が個別に発表してる盤のほうが多い。現代音楽のアプローチかな。あまり膨大ではなさそうだ。The Hubは継続性あるバンドというより、たまに機会あれば集まるユニットなのかもしれないな。
 実際、ブックレットでは「ネットワーク・バンド」と自らを定義している。ファイルをネットで交換し加工しあう、のスタイルが発端。ブロードバンドな今では考えづらいが、確かに80年代にこの発想は過激な先駆者だった。音だけを聴いてるとわからないが、急激に進化したコンピュータやネットワークの変貌をも体現している。
 とはいえ本盤はあくまでもライブ録音にこだわったようだ。緻密なライナーを読めば、もっと知識が深まる。ぼくは試みたが、どうにも読みづらく途中で投げ出した。

 なお本BoxのDisc 2にはテキスト・ファイルや2本の動画も収められ、多面的にHUBの歴史や考え方を味わえる。
 一本は89年の映像で、カリフォルニアのFM局KPFAでの演奏。デスクトップの古めかしいPCが並が、当時はこれが最新鋭だったな。楽譜でなくプログラム言語で音楽を作ってる様子が伺え、興味深い。
 もう一つは04年にロッテルダムでのフェスDutch Electronic Arts Festivalでのライブ。全員がラップトップへ当然ながら進化してる。このときは仏マルセイユのJean-Marc Montera、加モントリオールのDoug Van Nort、東京のTadashi Usamiとライブ回線でつないで共演、もしてたそう。

 本盤で聴ける音楽はむやみにノイズへ走らない、空白が多いけれど抽象的な乱雑さを持つ。テクノの一環として聴け、ビート感はあるもののリズムが主眼でない。したがってミニマルさやむやみにダンサブルな強引さもない。
 空虚で無機質で、わずかなポップさを持つ。

 本盤は真摯に電子音楽と向かい合った。前衛的なコンセプト、芸術的な生真面目さをもって。ともすればコンセプトに溺れ、つまらなくなる危険性を秘めている。方法論が主眼であり、音楽そのものの美しさを志向しないために。
 実際、そんな方向性はひしひしと本盤から感じる。聴いて楽しい、よりも制限が多い初期PCをいかに多重アイディアを混ぜて構築するか、MIDIを使って民主的に制御するか、に腐心している。
 そう、ここには強烈なリーダーシップは無い。いかに互いのアイディアを並行して注入できるかを狙っている。

 だからこそ音楽は中途半端に漂ってしまう。音の軸が無いから。たとえアイディアがどんなに斬新でも。

 けれども本盤は、面白い。抽象テクノ、インダストリアル・ノイズ、電子環境音楽、いろんな切り口で聴ける。細野晴臣がモナドで実験を繰り返した音楽にも通底する。
 つまり作曲者のエゴが見えづらいために、さまざまな思い入れを音楽から自在に引き出せる。
 この観点ではDISC 1の奇妙なポップさが最良だ。

 約3時間の長尺を、ひとつながりで聴きとおすには集中力も時間もいるだろう。しかし本盤は長尺一本勝負ではない。気分次第に摘み聴きがしやすい。
 ふっと一曲、ちょっと一曲。まじめな電子音楽を、気楽に楽しめるならば、本盤はとても興味深く味わえるだろう。

Track listing:
Disc 1:
Polling
1. Perry Mason in East Germany
2. Rol'Em
3. The Minister of Pitch
4. Vini
5. Hot Pig
6. Peyote
7. Falling Edge
8. Dovetail
9. Farabi
10. Borrowing and Stealing
11. Whackers
12. Simple Degradation
13. Wave Junction
Disc 2:
Pushing
1. Crybaby
2. Hub X 6
3. Waxlips I
4. Stuck Note
5. Wheelies
6. Waxlips II
7. The Glass Hand
8. Hertz Donut
9. Vex
Disc 3:
Boundary Layer
1. Tesla Sync
2. Hot Potato
3. Cut to Ribbons
4. Lou Drift
5. Pins & Splits
6. Boss
7. Noosphere

Personnel:
John Bischoff: Computers And Electronic Instruments
Chris Brown: Computers And Electronic Instruments
Tim Perkis: Computers And Electronic Instruments
Mark Trayle: Computers And Electronic Instruments
Scot Gresham-Lancaster: Computers And Electronic Instruments
Phil Stone: Computers And Electronic Instruments



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