Carmen Electra 「Carmen Electra」(1992)

 ラップ寄りの歌唱っぷりが、意外とトラックにハマった一枚。

 全編プリンス印だがずいぶん遠慮深い。自分の色に染めず、一歩引いてリズムや音像を整えることに気を配った。むしろこのバランス感覚の鋭さを称えるべきか。時代との流行の立ち位置に戸惑ってた実験作、とも読めるが。
 おっさんが若い子のノリへ目を細めつつ、愛でているって感じもした。新しいものを追求するときのヒリヒリする緊張感はあまり、無い。アルバム終盤でプリンスのエゴというか個性が滲んでくるけれど。

 でもプリンスが新曲で関与って点で、カルメンは恵まれていた。マルティカや小比類巻みたいにプリンスが歌った完成トラックを、歌だけ入れ直したってわけじゃないものな。
 プリンスのプロデュースや曲提供した女性シンガーってのは、音楽性うんぬんより単に女性として気に入ったってパターンもありそう。したがって聴いて楽しいかは別。どうしてもプリンスの楽曲や演奏としてどうか、って観点になってしまう。
 本盤も本来ならば、そんな一枚・・・のはずだったが。意外と歌として面白い場面もあり、プリンスが最後まで持ちえなかったヒップホップ要素を上手くアルバムへ取り入れた。
 
 クレジット上は、プリンスの関与が明確なのは(1),(6),(9),(10),(12),彼の変名っぽいのが(4)。リーヴァイ・シーサーなど周辺ミュージシャンの作曲ながら、明らかにペイズリー・パークで録音なのが(3),(5),(14)。つまりプリンスの関与がほぼ間違いない。

 少々謎が(2)。これはカルメン・エレクトラの自作。だが彼女はこのあと、音楽活動をしていない。その程度のモチベーションにもかかわらず、作曲までやろうとするものだろうか。いちおうカルメンはそもそも歌手を目指して、デモテープを各所に送ってたらしいが。
 この曲のクレジットにプリンスの明記はない。エンジニアはペイズリー・パークがらみ。

 そして最後に、全くプリンスが関係なさそうなクレジットが(7)となる。でもプリンスっぽいなあ。

 しかし過去から、プリンスは自分の作曲や演奏をまともにクレジットせず、ミュージシャンへ鷹揚に与えていた。例えばザ・タイムの初期盤のように。
 この観点から、果たして本盤のクレジットは信用できるのか・・・?結局全部、プリンスが録音してるんじゃないの?本稿のテーマの一つ。

 (1)は妙に打ち込みリズムがポップな曲。スクラッチをパーカッション替わりに上手く使ってる。歌声はメロディアスながら基本はラップ。タイトルをリフとして執拗に繰り返すさまはプリンスっぽいが、ボーカルはあまり癖がない。
 歪んだギターのオブリ、ざくっと叩きつけるシンセなどプリンスならではのアプローチもあるけれど。べったり塗りつぶしたビートのヘルシーさに、妙なそっけなさあり。プリンスが良く自分の名前をクレジットしたな。
 しかし曲タイトルを連呼するコーラスのメロディは、ずいぶん下世話だ。

 全面的に打ち込みな鍵盤とビートが続く(2)。歌はやはりラップ寄り。吐息を強調したセクシャルな歌声はカルメンのアイディアか。プリンスらしいひねりとも聴こえるが。サンプリングふうにエレキギターのカッティングも載った。
 基本はパターンを積み重ねたアレンジや楽曲ながら、ギターや鍵盤のセンスはやはりプリンス印。歌声にさほどメロディ感が無いため、プリンスがカルメン名義にしたのかも。
 プロデューサークレジットは無いが、これはプリンスの録音だろう。
 
 (3)は言うまでも無し。サンプリングに混ざり聴こえるプリンスのシャウトと、エリック・リーズのブラスが飛び交った。JBの声もサンプリングされてる。疑似的な競演が聴けるしかけが施された。
 全面的にヒップホップを強調した楽曲で、拍頭を滑らせながら叩きつけるエレクトラのラップは大したもの。歯切れよく息で押しながら、鋭く切り裂くリズム感が良い。

 プリンスは左右でカッティングを散らばせたりするけれど。基本はリズム・ビート一発のトラックで、サックスのフレージングが唯一の楽曲臭さを残す。でもドラムのブレイクやシンコペーションで畳みかけるのは往年のファンク、すなわちプリンスのこだわりか。 
 全体的にはプリンス流のファンク・マナーを生かしたラップ。(1)のようなディスコ臭さは希薄だ。

 (4)はThe N.P.G.名義。まあ、プリンスのことだろう。これもサンプリングでブラスが乗る。あとは小節ループっぽいドラムの硬いリズムとわずかなギター、そしてスクラッチの音で楽曲を構成した。
 メロディは凄く希薄で、タイトルのフレーズも音程感は無く繰り返されるのみ。楽曲、とはちょっと言い難いか。エリックと思しきテナーが、途中で緩やかにブルージーなソロをラップの背後できめた。
 冒頭のみずみずしいギターの音色に期待するが、吐き捨てるようなラップのナスティさが、ちょっと曲の輝きを曇らせてしまった。逆にラップの喉を強くはじけさせる声質と、ギター・カッティングの質が合ってない。もっと鈍くひしゃげた音色加工をギターへ行う手もあった。こういうところが、プリンスとカルメンの資質は少し違う。

 かっちりと跳ねるリズム・パターンが続く(5)。逆にプリンスの仕業だ、と耳をそばだてる要素が低い。一瞬のギター・カッティングやホーンのリフなど、多少はプリンスの香りがする。でも、特筆するシロモノでもない。
 むしろここは涼やかに色気を匂わせるカルメンのラップぶりのほうが楽しい。

 本盤全体に言えることだが、あまりトラックの面白みや、工夫を凝らした作りこみの感が薄い。単なるループの連続じゃない意地は漂うけれど、マルチ・トラックでそれぞれの楽器を卓で出し入れにてメリハリ作る、ちょっと古めかしいアプローチの域を出ていない。
 基本はワンコード。途中で進行して戻る。ミニマルにトラックはループする。

 プリンスが再び自己名義をクレジットした(6)。上下降する鍵盤、4つ打ちのキックと裏拍のスネアが鍵盤をまとい、華やかな和音の女性コーラスでイントロを盛り上げた。ゆるやかにうねるメロディは確かに80年代のプリンスっぽい。
 いちばんタイトで硬質なミックスに凝っていたこの時代のプリンスらしい曲。かなりメロディは緩いけれど、この数年前に出た"Batman"(1989)の耳ざわりが似てる。その当時のアウトテイクって言われても信じるだろう。
 ちょうどプリンスが、時代の流行と折り合いつけるのに苦労してたころの空虚さを持った楽曲だ。
 
 カルメンのラップは早口でまくしたてるが、譜割をまたぐフロウは無い。ぎりぎり拍頭に押し込める。零れるのはスキルが届いてないだけ。このオールド・タイムなセンスはまさにプリンスと合致するが、今の耳だとラップがヘルシーすぎて物足りない。今さら言われても、って話だけれど。

 (7)もプリンスのクレジットは無いが、パターンは思い切りプリンス印。サビ前のホーンとリズムが重なり盛り上がるところなんて、いかにも。まったくプリンスの関与を匂わせないクレジットが、むしろ深読みしたくなる。プリンスを真似た外部トラックってこと?違うと思うがなあ。

 生ドラムのループにホーンが加わりメリハリを付けた。指弾きっぽいシンセ・ベースがうねうね動いてグルーヴを出す。ドラムを一小節ループさせ、フィルは生演奏をパンチインではなかろうか。
 だがメロディでなくラップで押すのが特徴であり(たぶんプリンスの)潔いところ。自分の色を出し過ぎると、カルメンがかすむとわかってたはず。

 裏声で"Dance~♪"と歌うのは、間違いなくプリンス。たぶんきっちりとメロディもこの曲にはあったろう。だが迷わずすべて捨て、ラップのトラックで終わらせた。
 中盤のオルガン風感想も含めて、明るく賑やかなパーティ・ファンクになったろうに。
 たんなるつなぎが(8)。幻想性を狙ったか、短いサンプルが行き来する。プリンスの"SEXY MF"の一節も漂った。
 
 プリンスらしさがグッと出た(9)はカルメンとプリンスの共作名義。やはりラップ中心の歌声をカルメンは披露するが、味わいはぐっとファンキー。The Steelesのコーラスと鍵盤と混ざったホーンのリフ、賑やかに盛り上げて打ち込み満載ながら生演奏っぽいダイナミズムを上手く出した。

 ビートは鍵盤の一部以外、すべて打ち込みかも。細切れでいろんなフレーズをホーンがダビング、エリック・リーズが活躍してる。
 瞬間的なギターや鍵盤のフレージング、ダブ処理されるハーモニー。カミール声で参加するプリンスと、何とも豪華なアレンジが楽しめる曲。プリンス本体の正式アルバム収録には地味かもしれないが。

 がっつりプリンスの色に染まった(10)。カルメンが中途半端に歌っぽい世界に踏み込むため、楽曲としては中途半端だけど。The N.P.G.なプリンスのテープ早回し高音と、地声な低音コーラス。そして幾本もダビングされた、クリアなエレキギターのカッティング。じわじわと寄せては返すホーン隊。背後のオルガン・ソロが粘っこくていいな。
 キャッチーなメロディに欠ける。だが重たいファンクで、サンプリングを散らしたトラックはクールだ。カルメンのラップまでひっくるめて、いろんな声が寄せては返す。
 
 (11)のセグエは軋むサックスとパッド・シンセ。まさに場面転換のような小品だ。
 なめらかにつながる(12)は、プリンス印のスロー。ロマンティックに盛り上がりそうなのに、歌でなく語り掛けのボーカルなために凄まじくもどかしさがつのる。もしかしてカルメンは音痴なの?せっかくなら、この曲くらい歌ってほしかった。
 プリンス作曲、の名を冠する名曲っぽいのに。プリンスが歌ったアウトテイクって存在してないかな。
 なおトラックの下敷きは"Adore"(1987)。言われてみれば、あの曲の静かな盛り上がりの断片をあちこちに見つけられる。
 
 いよいよ最終曲の(12)。エコ活動に目覚めたかのようなシュプレヒコールみたいなファンクネスは少々暑苦しい。The Steelesをハーモニーに加えゴスペル風ともとれるか。
 楽曲はプリンス流のファンクをパターン・ループ駆使して積み上げた。曲として単調なワンコードなので、するっと聴き流してしまう。最後の最後に出てくる早回しな男の声はプリンス、だろうか。 

 本盤はヒップホップ寄りを強調か、サンプリングも多い。プリンスにしては珍しいような。Discogsのクレジットによれば以下の通り。
on 2 :"Think (About It)" and "Funky Drummer" by James Brown
on 3 :"Say It Loud, I'm Black And I'm Proud" by James Brown , "Land Of 1,000 Dances" by Wilson Pickett
on 5 :"Skin Tight" by The Ohio Players
on 7 :"Singers" by Eddie Murphy,"Get On Up"by Moorer and Sheppard
on 10:"Make It Funky" by James Brown

 サンプル曲はJBを筆頭に、ウィルソン・ピケットやオハイオ・プレイヤーズとソウルの基本から取られてる。(7)のエディ・マーフィの83年曲とThe Esquires の67年曲が、ちょっとマニアックなDJ的の選曲だ。


 さらに本盤、3枚もシングルが切られてる。ずいぶん手厚く拡販策が打たれたなあ。
 それぞれタイトル曲の別ミックスがずいぶん入っている。アルバム未収録曲は無いのがレア曲マニアには残念なところ。
   


Track listing:
1.Go Go Dancer 4:45
2.Good Judy Girlfriend 1:59
3.Go On (Witcha Bad Self) 4:09
4.Step To The Mic 3:16
5.S.T. 4:03
6.Fantasia Erotica 4:36
7.Everybody Get On Up 4:01
8.Segue 0:29
9.Fun 3:42
10.Just A Little Lovin' 4:02
11.Segue 0:46
12.All That 4:29
13.Segue 0:12
14.This Is My House 3:28

 カーメン・エレクトラの当時の歌唱映像、それと2013年頃にプリンスについて語った映像がYoutubeにあった。
 



関連記事

コメント

非公開コメント