太田恵資×加藤崇之×坂本弘道 「ACOUSTIC」(2015)

 鋭くもしなやかなアコースティックのインプロの一枚。
 Amazonで販売無し。レーベルのページはこちら。
http://fulldesign.sakura.ne.jp/catalog/index.html

 Fulldesignレコーズから発売の本作は、14年10月9月に合羽橋なってるハウスで行われたライブ・レコーディングの音源。たしかエレクトリックとアコースティックの2daysで、本作はアコースティック版。16年5月現在、まだエレクトリック版は残念ながら未発表だ。ぼくは両日とも聴きに行けず。

 いろいろな意味で本盤は貴重な一枚。ライブの現場とライブ盤は別物だが、本盤は生々しい音で当日の様子を元に、涼やかな即興音楽を封じ込めた。

 そもそもFulldesignレコーズからして希少でありがたいレコード会社。藤掛正隆が主宰で、今までに99年から16年で、55枚くらいのアルバムを発表してきた。そもそもは藤掛自身のライブ音源を発表の受け皿と思われるが、03年までに5枚ほどのアルバムを出したあと、いったん活動が止まる。
 05年にリニューアル、藤掛が参加しないBON TEMPS ROULE"Lazyboy wanna go to the sea...come on our live!!!"(2005)を発表後、平均して一年で10枚近くのペースで、恐ろしく精力的なリリース活動を開始してくれている。

 音源ジャンルはライブハウス・シーンで活躍するジャズやインプロ寄りのミュージシャン。新人発掘と言うより、藤掛の人脈を元にリリースな印象あり。つまりベテランぞろいで音楽のクオリティは保証されている。近しいコンセプトのインディ・レーベルにStudio Weeがあったが、今現在はちょっと活動が停滞中。このFulldesignは、とても貴重でありがたい存在だ。精力的すぎて聴くほうが追い付かない。
 
 個人的には、ライブ演奏は膨大だがライブ音源のリリースはほとんどなかった太田恵資を、本盤以外に2枚の音盤化が嬉しい。("太田惠資&藤掛正隆"(2007)、片山広明x太田恵資"K.O."(2015)

 藤掛はZOAやゼニゲバでのパンキッシュな音楽性って思い込みあったが、いつだろう・・・10年くらい前かな?渋さ知らズの活動あたりから、この日本ジャズ/即興シーンで活躍をはじめ、早川岳晴との崖っぷちセッションで刺激的な活動を続けている。このままぜひ、継続した活動を続けて欲しい。

 さて、本盤。録音クレジットはないが、たぶん藤掛。ミックスと編集は藤掛が行った。本セッションは仕切りも藤掛かな?つまり一過性のセッションであり、特にリーダーはいない。この三人がトリオでの共演歴は知らないが、もちろん関連性はあり。渋さ知らズや他のセッションで組み合わせはあった。

 共通するのは全員が即興巧者で、乾いたユーモアの持ち主。それぞれ真摯にインプロへ向かいどっぷり潜っていくが、互いの音を踏まえた上で、シビアな空気に留まらないふっくらした空気感やセンスを持っている。
 アコースティック・ライブなゆえか、たまたまか、坂本弘道がグラインダーでチェロから火花飛ばすシーンは入ってなさそう。だがボディをこする音まで、生々しく録音された。ジャケットがステージ写真だが、コンタクト・マイクで無く、普通のマイクで出音を拾ってるようだ。
 パッと見でギターのボディが見えずチェロも演奏かな?と思ったら。単にアコギを逆さに持ち上げてネックを弾いてるところだった。

 ライブレコーディングゆえに、一時間半強の音源があるはず。冒頭と最後に1分程度のボサノヴァを入れた。これは何だろう。演奏前の遊び弾きに、奏者の雑談をダビングかな?ともあれ、これらを入れることで一つの小宇宙を演出してる。

 実際の演奏においては、藤掛はライブをそのまま音盤化でなく、数分から20分弱の楽曲とし7トラックに分けた。曲中の編集はわからない。ブロック編集してるかも。
 そのため完全に「ライブ演奏」とは違う世界になった。これは正解と思う。即興の現場ならではの空気感を音盤で追体験は、意外に難しい。

 きつい緊張を聴き手に強いられる録音でも、現場では意外にスムーズに音楽が耳に入ることが多い。ボディ・ランゲージやそこに至るまでの展開や雰囲気があるから。もちろん、聴いてるほうも水張った洗面器に顔を突っ込み、息すら止めて聴きいる緊迫した即興もあるのだが。

 と、前置きするのも本盤での演奏は、けっこうにクールだからだ。そもそもこの三人は振り幅が非常に大きい。その中でも、かなりエッジの立った即興を本盤では選んだ。ピックをつかわぬ加藤は、かきむしりを高速で提示する。音域や音量バランスの関係か、太田のバイオリンのほうが比較的耳に入りやすい。
 だが太田は弾きまくることは無い。場面ごとで素早く緩急を示し、坂本や加藤のスペースを作る。それがソロ回しな順番つなぎのノリでなく、相手との場を作っていく印象だ。
 坂本も弓弾きでなく特殊奏法を繰り出し、本盤はメロディと混沌とした短音が目まぐるしく飛び交う。クレジットのSawとはのこぎり楽器のこと。どの部分がそれか、までは音だけだとよくわからない。まだ坂本ののこぎり演奏、生で聴いたことないからな。

 三人の紡ぐ、抽象的でスピーディな空間が生まれた。
 この盤は、聴くだけでは楽しめない。それぞれの奏者のライブへ足を運び、演奏風景を目にすることで、音楽の深みが増す。無秩序でプチプチ鳴るノイズすら、ライブを見ればどうやって音を出してるかがわかる。

 そして一過性のライブで空気に消え去ってしまう音楽の味を覚えて本盤を聴くと、いかに貴重なひとときを音盤化に残してくれているか、という本盤のありがたみがさらに増すって仕掛けだ。藤掛はそこまで、計算してないと思うが。

 ということで、本盤はスルメのような一枚。ぱっと聴きだと抽象フリージャズ。だが、聴き返すごとに、瞬時の丁々発止が飛び交って、旋律にのみに頼らず特殊奏法でのノイズも貪欲に吸収したセッションなことが、じわじわ伝わってくる。
 
Personnel:
太田恵資 Ohta Keisuke - violin,voice
加藤崇之 Kato Takayuki - guitar
坂本弘道 Sakamoto Hiromichi - cello,saw
 
三人の共演映像は無いため、それぞれの演奏映像を貼ってみよう。
  

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