Prince 「Controversy」(1981)

 ついに成熟の方向性をプリンスが掴んだ。しかしアルバムの総合性には、ごくわずかの隙がある。

 ここまでがプリンスの習作めいた香りあり。本盤のあとはコンセプトの妙味を強固に構築した。
 プリンスは音楽と同等以上にコンセプト、コスチュームにこだわる。パープル・レイン以降、アルバムやその瞬間ごとの服装アイコンをそれぞれ設定してきた。わかりやすいマーケティング戦略と、自分ではない何かに自らのイメージ昇華を狙うプリンスの趣味、双方が重なってのことと思う。
 たぶんプリンスは、素の自分を出すことに強迫観念なほどに抵抗があったのでは。非日常の演出、異世界への移動。音楽的には完璧に構築されたメイン・ステージと、気分転換や発散のアフターショー。そんな切り分けを想像する。

 本盤まではヒット曲はあるとは言え、大ヒットには至らない。イメージ戦略も模索中なのか、既存の競泳パンツいっちょとか、まだ目立ちたがりとさほど変わらぬ異物感を出してきた。だが本盤のジャケットで、プリンスは自らのコスチュームを手に入れた。
 薄い紫の色イメージ、右肩の膨大な鋲。独自の鎧を手に入れることで、シンプルなイメージ演出の妙味を、ついにプリンスは掴んだ。

 音楽的にも、ドラムのサウンドで独自性を表現した。リン・ドラムの硬く、はじける響き。さらにギターのカッティングとひずんだ音色のソロ。ボーカルは「アーオァ」ってシャウト。
 すべての楽器演奏ができる、って才能をむやみに奔出続けたプリンスは本盤以降、足し算でなくいかに引くか。まさに溢れる才能を、どう整理するかに腐心していく。

 本盤はファンキーなファンクが並ぶ一方で、基本はプリンスの多重録音。しかし最終曲の"Jack U Off"のみ、ドラムとベースをのちのレボリューションのメンバーにゆだねた。
 これもプリンスの余裕だろう。アルバムでむやみに自己主張の時期は終わり。成熟し、ライブ・バンドへも目配りして、よりビッグになる方法へ視線を飛ばす余裕が出てきた。
 あとはアルバムの統一性だけ。まだ少し、そのときできた曲をまとめたって荒っぽさがある。この要素は続く"1999"まで続き、"Purple rain"以降は全くなくなる。言い換えると、本盤まではプリンスの人間味がわずかに漂う。
 "1999"で音楽世界に没入するステージに突入、"Purple rain"以降は別世界で存分に音楽へのめりこめる世界に至った。

 正確に言うと、アルバムの流れは本作から強固になった。アルバム一枚で一つの流れを使ってる。だがアルバムのイメージが、固まり切れていない。
 一つの音像を作り上げ、流れを構築した。人はそれをコンセプト・アルバムと言う。だが、プリンスに限ってはレベルが違う。
 本盤と、以降の盤を聴き比べればわかるはず。

 なお本盤は全曲プリンスとクレジットの一方で、"Do Me, Baby"はAndré Cymoneの作品って説もあり。仮に真実だとしたら、プリンスはよっぽどこの曲を気に入ってたんだな。

 楽曲アレンジの点では、複数のボーカル・ラインを多重録音し、ファルセットと地声を混ぜて賑やかさと分厚さ、幅広さを演出した。この手法はのちに洗練されながら、幾度も繰り返される。
 楽器の持ち替えだけでなく、ダビングでの変化の付け方。それは本盤でついに完成した。

 ドラマティックに盛り上がる(1)はリサ・コールマン以外はプリンスのボーカルらしいが、わさわさと数本の音域にわたる歌声はスリル一杯だ。他に男性のコーラスもダビングあるようにすら聴こえる。
 この手法で、裏声主体から地声への転換が実にスムースに変わった。本盤以降、地声を多用する。
 ぼくはパープル・レインでプリンスを知り、遡って過去作を聴いた。最初は線の細いファルセットに戸惑ったが、アルバムの流れで聴き進めると本盤でファルセットからのイメージ脱却を凄く見事に行うさまに唸った。

 (1)はシンプルなリズムを、カッティング・ギターの細やかでスピーディな譜割が鋭くかき回していく。この対比が素晴らしい。
 曲後半がかなり長い。40分足らずのアルバムで、次々と曲を聴かせるにはこのアレンジが居心地悪い。ライブでの盛り上がりを再現が狙いか。その割に、プリンスの多重録音ってのも、皮肉なものだが。

 この曲はPVも存在する。バンド・スタイルでライブをする低予算な映像だが、切れのある動きでスマートさを表現するプリンスの様子が伝わってくる。


 きっちり(1)はコーダをつけ、同様なファンクの(2)へ。ファルセット主体の歌声だが、ハーモニーで地声を混ぜたりシャウトしながら音程を下げていく。喉を潰す歌い方を平然とこなす、驚異の声帯だ。
 さらに数本のボーカルはどれが主旋律かわからぬよう、頻繁に役割が変わっていく。P-Funkみたいな大編成アンサンブルを意識かな。演奏はドラムとベースを主体でシンセは抑えた。だからなおさら、旺盛な歌声群が映える。
 
 バラードの(3)。アルバムの流れはばっちり。ファルセットだが音域を下げて地声のウィスパーも混ぜている。ピアノの滑らかで細かいオブリが、カッティング・ギターのような効果を出した。
 シンプルな生ドラムは、武骨な鳴り。プリンスのシンバル・ワークやドラミングは、けっこうストレートだと思う。タッチも荒い。余韻やためをあまり意識せず、タイトさも控えめ。
 なおこの曲もエンディングが長い。終盤は一人芝居でドラマティックに盛り上げた。ナルシスティックな趣味が全開か。たっぷり音世界に浸ってる。

 透き通るファルセットの盛り上がりが痛快な(4)。LPならこれがB面1曲目になる。
 ホーン風なシンセの音色を、あまりこだわらずあっさり提示した。ここでも多層ボーカルの妙味が良い。サビでぴたり寄せたハーモニーの滑らかさったらない。
 この10年後に、こういうプラスティックなハーモニーがソウル界隈で一般化していくが、プリンスは最初から(デビュー盤から)多層コーラス独特の甘くクローズな雰囲気の魅力を理解していた。
 終盤でひずんだエレキギターが、思い切りノイジーな余韻を持たせた。それこそパープル・レインで一般化するプリンスのイメージだ。

 ほぼメドレー的につながる(5)の、短い社会派狙いなファンクでプリンスの狙いは何だろう。ストレートにメッセージを叩きつける。前曲との落差が凄い。賢者タイム?
 引き続きメドレーで行きそうな終わり方だが、いったんテープは区切りをつけた。

 一曲としてばっちり完成した(6)の原題が"Let's Rock"。81年夏ツアーで演奏してたらしい。即時リリースを望むプリンスと、受け入れないワーナー。まだ我を通せぬプリンスは、タイトルを皮肉っぽく"Let's Work"に変えて、本盤に入れた。「働こうぜ」って。
 この辺から、ワーナーとの葛藤は始まってたらしい。アルバム・タイトルの"Controversy(論争)"ってのも、この表れか。
 当時のライブ映像も残っている。激しくダンスし、バンドをコントロールする強烈なステージだ。


 ControversyツアーはTimeを前座に数千~数万人キャパのホール/アリーナ・ツアーだった。その前のDirty Mindツアーは数千のホールがメイン、たまにアリーナのツアー。さらに拡大した規模はもう、堂々たるもの。
 81年10月に本盤を発売、同年11月から翌三月まで60公演をこなした。ツアー冒頭に流れた曲が"The Second Coming"。これも、アルバム化されないままのゴスペル風なアカペラ曲。
 こういう曲をYoutubeで気軽に聴けるようになったのが、プリンスが没後のYoutube嵐ってのが、何とも切ない。


 (6)はまさにライブ映えしそうなファンク。だがプリンスは多重録音で打ち込みドラムに、グルーヴィーなベースをかぶせてく。シンセがリフを刻むが、あまり音数増やさずシンプルなもの。
 この辺はたとえば(4)との対比を狙ったか。ファルセット主体の多層ボーカルは、ユニゾンで地声も混ぜて厚みを出してる。荒っぽいアレンジだが、すごく魅力的。

 そして(7)。妙に内省的な語り中心の打ち込みファンクに。ジョン・レノン暗殺を踏まえた楽曲だ。生々しい怒りをアルバムのバランスを考えず、敢えて入れたか。
 打ち込みビートの背後でエレキギターが吼え続け、プリンスは地声で鋭くアジテーションした。
 なお歌詞にあるABSCAMとはFBI操作による不祥事のこと。

 アルバムを締めた(8)は、前述のとおりドラムと鍵盤はバンド・メンバーによる。ウィスパー気味な地声でプリンスは歌い、バンド風味で自己を明確にアピールした。だがきめ細かなハーモニーやエレキギターのダビングなど、アレンジは凝っている。
 まさにライブ・セッション風の趣だ。大ヒットに向かってツアーを意識した、パワーが煮立ってる。

 この盤からは4枚のシングルが切られた。2nd"Let`s work"のB面には、初のアルバム未収録となる"Gotta Stop (Messin' About)"が発表される。プリンスの溢れる創作力を、録音物として形にできる予算は、得られ始めたらしい。
 そしてプリンスは手始めに、アルバム2枚組って曲の溢れさせっぷりを、次の"1999"で実行した。


Track listing
1. "Controversy" – 7:15
2. "Sexuality" – 4:21
3. "Do Me, Baby" – 7:43
4. "Private Joy" – 4:29
5. "Ronnie, Talk to Russia" – 1:58
6. "Let's Work" – 3:54
7. "Annie Christian" – 4:22
8. "Jack U Off" – 3:09

All tracks written, composed, and arranged by Prince.
Lisa Coleman - backing vocals (on 1,5,8), keyboards (on 8)
Dr. Fink - keyboards (on 8)
Bobby Z. - drums (on 8)


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