坪口昌恭 「Abyssinian...Solo Piano」(2010)

 電気仕掛けを常に意識してきた坪口昌恭が、ピアノを主軸に置いたソロ。

 東京ザヴィヌルバッハや菊地成孔のDCPRGなどを主なイメージに、坪口はずらり鍵盤を並べフュージョン的な奏者って思いこみが勝手にあった。実際には菊地のぺぺやダブクインテットではアコピを弾くし、見たことは残念ながらないがin-Fでアコースティックなセッションも行っていたが。

 本盤はカバーを多く取り入れた、ある意味「ストレートなジャズピアノ奏者」を狙った一枚。ただしエフェクターをさりげなく取り入れるところが、坪口流であり個性だ。
 ピアノのタッチは硬質でメカニカル。強い打鍵でスイング感は生真面目だ。ファンキーさは希薄なのに、不思議と欧州寄りの理性まかせな堅苦しさが無い。

 ロマンティックさがにじむ。決してセンチメンタルでないのに。エフェクタの電気仕掛けとは別次元で、サイボーグめいた強靭で精緻に制御された筋肉のイメージが浮かぶ。
 力任せではない。感情やテクニックの手癖で指を遊ばせていない。
 隅々までコントロールされていながら、じわり感情が滲む。独特の抒情性がかすかに漂い、かといってその感情すらも操られているような。制御されたエレガンスと、漂う上品さ。双方が甘く絡み合う。

 むしろ(4)のように武骨なバップ曲にこそ、坪口の個性が滲む。エフェクタ云々ではない。スイングしながら、そのタイム感や譜割はぶれない。かっちりとまとまってる。決して熱狂するピアノではない。だが奥底に血が通ってる。なんて言うかな、お行儀良い凡百のピアニストとは、坪口は明確に違う。だが注意深く、演奏の破綻が生み出す色や味を回避してるような感じ。

 そして音楽としては、エフェクタ操作が面白い色合いを出した。音を歪ませるのが本盤の主眼ではない。あくまで"効果"に留まる。あとかぶせは無く、すべてリアルタイムの変化。この辺は一発演奏を前提とした、オールドタイムなジャズのスタイルを踏襲してる。
 ときおり現れる音の歪みやひねりのエフェクトは、ホンキートンクやプリペアードの色、さらにもう一歩踏み込んだ電気仕掛けのダブやテクノめいた異世界感まで、様々な要素を上手く演出した。ピアノの響きは、曲によって変えてるようだ。ドライなものから残響を生かしたものまで。
 
 本盤は細かな解説ライナーが封入されている。自分の意図を明確に書いてるがゆえに、聴きながらイメージがどうしてもライナーに引っ張られてしまう。ただしポリリズムを駆使したという(5)などは、言われないとよくわからないので解説がありがたい。
 なお時代は06年と本盤より数年前だが、このインタビューも坪口のスタイルや価値観が伺えて興味深い。
http://www.flyrec.com/interview/tzboguchi.html

 全9曲中、カバーが5曲。うち2曲がマイルスとモンクという伝統芸。そこへクラシックからチャイコフスキーの(7)、サントラの(8)を入れるあたりがアルバムの幅を広げた。さらにYMOの(9)。これをアコピで弾くセンスが嬉しい。オリジナルに引きずられずあまり崩さず、坪口独自の世界観を加えて美しく解釈した。

 ちなみにここによれば坂本自身がピアノ・ソロで弾くようになったのは、2011年のことだそう。本盤の翌年だ。
http://matome.naver.jp/odai/2140722257835500701?&page=3

 アルバムを聴き終えて、端正で真摯な空気が漂う。自分の音楽へ没入しつつも、冷静な視点を忘れない。本盤はミックスも坪口自身が担当した。
 全45分。それぞれの曲も、別に短いわけじゃ無い。とはいえ本盤を聴いてると時間がどんどん立っていく気分。見る見るうちに曲が進んでいく。

Track listing:
1. Logos  by 坪口昌恭
2. Tune Up  by Miles Davis
3. The Peacocks  by Jimmy Rowles
4. Evidence  by Thelonious Monk
5. Afro Poly Etude  by 坪口昌恭
6. Abyssinian  by 坪口昌恭
7. New Doll  by Peter Ilych Tcaikovsky
8. Last Tango In Paris  by Gato Barbieri
9. Castalia  by 坂本龍一

Personnel:
坪口昌恭: Unaccompanied Piano Solos with Effect
Piano:STEINWAY B-211 Humburg 1966
Effect:KORG Kaoss Pad3、Cycling’74 Max MSP

Produced by Masayasu Tzboguchi
Recorded at Wang Guang RecLabs, Tokyo, on May/27/2010

Recording Engineer:Hideki Ataka
Assistant Engineer:Ryo Amakasu
Mixed by Masayasu Tzboguchi
Mastering Engineer:Hideki Ataka
Piano Technician:Masahito Aoki
Effect Technician (Max MSP):Shotaro Hirata(mophONE)

  

関連記事

コメント

非公開コメント