Rinbjö 「戒厳令」(2014)

 女優の菊地凜子が1st。菊地成孔が絶妙かつ抜群のプロデュースを施し、歴史に残すべき大傑作に仕上げた。

 もとは凜子がオファーしたプロジェクトと言う。だが成孔はやっつけ仕事と全く逆に、自らと周辺人脈を惜しみなく投入し、自然な豪華さを演出した。
 この公式Webで膨大な関連情報や制作秘話が読める。けれどもできればまず、予備知識なしに本盤を存分に聴いてほしい。
 成孔も「聴いてから読んでほしい」と、製作過程の情報へ触れる前に予防線を張っている。そしてたいがい、こういう前置きは「もったいつけてるな」と守られない。そして触れて音楽を聴き直したら、思うだろう。
 「ああ、もっと聴きこんでから、この情報に触れればよかった」と。

 本盤は成孔が当時から交流深めてたSimi Labのクルーが幾人も参加した。奇しくも唐突な脱退を示したQNも本盤に参加し、奇妙なスキャンダリズムも味わえる。これも成孔の運の引きということか。
 さらに本盤はどうしても、スパンク・ハッピー第二期が透けて見える。菊地と女性のデュオという構造、菊地のプロデュースとフロントを飾る女性っていう立ち位置関係、エレガントと病んだ世界観がドロリと溶けるフェティッシュな価値観の歌世界、さまざまな視点から。
 成孔は意図的に過去ファンのイメージを重ね合わせ、膨大なWeb掲載のインタビューで煙に巻く。しかしなぜ、公式WebのN/Kインタビューは5回目が載らないのか。

 本盤はプロトゥールズの切り貼り感、すなわち肉体性の大幅な排除が全体を覆う。だからこそ歌声の生々しさが生きる。そのなかで凜子がもっとも作りもの臭く、周辺の客演ラッパーが生々しいという皮肉っぽい構図をみせる。
 さらにICI(aka 市川愛)という自然体で強靭な透明性を持つラッパーを配置し、凜子の拙さを作りものっぽさとたどたどしさ、双方の視点で多層的に補完した。凜子のラップはやはり本業じゃないだけに、フロウが硬い。拍に乗り、外すことが演技っぽい。
 なのに魅力を失わない。対象物を見事に輝かせる、成孔のプロデュース・ワークの真骨頂だ。

 そして本盤最後に配置されたClare And The Reasonsの3rd"KR-51"(2013)から"The Lake"のカバー。これですべてをぶち壊す。美しいストリングスとメロディ、そしてしっとりした歌声。
 そこまでのメカニカルな世界をきれいに拭い去り、歌手の凜子をとびきり芳醇に演出した。もう、どこまでも目配り効いている。

 リリックはここで読める。
http://taboolabel.net/rinbjo.html#

 冒頭の野太いシンセで危うさを軽やかに描いた(1)は、QNが軽く危なっかしいラップを決める。Rinbjöは歌う役。起伏の小さなメロディを淑やかに決め、ラップに手を出さない。まずは幕開け、きれいなRinbjöをみせたか。

 (2)でSimi LabからMARIA、そしてI.C.Iを客演させ蓮っ葉な女の下品さを魅せた。Rinbjöの拙いラップをはしたない純真さに感じさせる。それが客演二人の確かなラップ・テクニックが支えたがゆえ。
 成孔もコーラスに加わり、男性声域で女性三人のラップと落差を付けた。トラックはN/K名義の成孔。

 (3)は朗読。ラップ一辺倒にせず、焦らすかのようにアルバムは進む。抑えたトーンの声質は、リップノイズが聴こえそうで聴こえない。この呟きがもつスリルが本曲の魅力だ。テキストもすべて成孔仕立て。ところどころでナスティな言葉を織り込みながらも、幻想性を前面に出し、不穏なエロティシズムを静かに演出した。

 ビートはSHIRO TANAKAに任せた(4)は、ダブ風にシンセが揺れる。波打つ声は加工され、ボコーダー処理までケロらせた。韓国ラップでオラるPaloaltoをたっぷり配置し、Rinbjöは一歩下がり神々しさを演出か。楽曲の流れとしては、ちょっと一息つく感じ。DCPRGから大村孝佳を招き、歪んだエレキギターで静かな残虐性も漂わす。

 そして偏執的な執着性趣味を淡々と提示したかっこいい(5)。成孔の強引なほど揺らすフロウと、字余りのごとく微妙に跳ねるRinbjöのラップは、エコー感を排除してドライな無残さを出す。キャットと quarto をかけたような、コケッティに弾むRinbjöの声質がぞくっとくるキュートさだ。

 QNがトラックを担当した(6)も、スパンクス二期の後期をふんぷんとさせる長い物語の淑やかな世界観。いかにもエッセイ風なストーリーながら、実際は成孔のテキスト。どこまでが現実を投入し、どこまでがフィクションか。視点をRinbjöに立てるテキストは入れ子構造になり、複雑に展開していく。
 一方でトラックは、全休符を丸ごと立てる豪快さ。この対比構造も魅力だ。トラックがマルチでなかったための単なる偶然、らしいが。成孔はハプニングも演出へずぶずぶと溶かしてしまう。

 ようやく折り返し地点に(7)はまさにスパンクス。成孔とのデュエットで、トラックもN/K。つややかな歌声は岩澤をそのまま投影できる。まるで当時の未発表曲かのよう。
 このように様々な声質を使いこなせるのも、役者ならではなRinbjöのテクニックであり実力だ。ひっかかるリズムがノリを優美かつ危険な雰囲気に連れていく。

 文字通りのインタリュードが(8)。Rinbjöの声すらもサンプリングし、リズムに溶かす。ここではRinbjöが素材なことをあからさまに表示した。この残酷なまでの突き放しっぷりが、逆にRinbjöの存在感を増している。

 同人音楽界隈では名の知れたDJ TECHNORCHは成孔のペンギン門下生らしい。でっぷりと厚く塗ったトラック(9)へ、さらにエレキギターでぎざぎざな雰囲気を強調させた。
 歌声はたっぷり加工され、機械仕掛けのごとくトラックへ混ぜられている。どこまでも多彩なRinbjöであり、さまざまな表情の魅力を滴らせる。成孔の冷静なプロデュースが光った。

 (10)もDJ TECHNORCHのトラック。本盤で唯一、楽曲の連続性が明確な流れだ。だがラップをグイッと前に出す。早口に次々とまくしたてる言葉のスピード感。4つ打ちテクノと隙間なくみっしり音が跳ねまわる。

 エレキギターを共通項にN/Kのトラックに変わる(11)は、再びスパンクスっぽい歌声へ。クレジット上は明確に書かれてないが、成孔が背後でそっと歌声を同じ譜割でなぞり、実質はデュエットみたいなもの。歌詞の世界観は別として、純粋で穢れない空気を漂わす。
 サビの"It’s Angel craft"ってメロディが、さりげなく強烈に美しい。

 濃密なアルバムはまだまだ続く。(11)は会話風に成孔を前面に立てるイントロで、力強く場面転換した。Rinbjöのラップはしこたま変だ。拍をずらすフロウや伸ばしは、そうとうに拙く聴こえる。トラックを聴かず、後付けでリズムを載せたかのよう。
 酩酊気分のふわふわしたおぼつかなさを演出か。クリアで爽やかな舞台だけど。なお楽曲や声は隅々まで加工され、手が込んでいる。トラック一発の流しっぱなしっていう乱暴さは、この曲に限らず、本盤のどこにも存在しない。Rinbjöのスキルがそれを許さなかったのかもしれないが。

 クライマックスに向けてアルバムは加速する。(13)のビートは三輪裕也。成孔と明確に違うのは、リフをきれいに立ててるところ。やはりオートチューンで声を加工されたRinbjöの声は、言葉が数理的。ぱきぱきと冷静に並んでいく。和製R&Bみたいな水っぽいメロディからOMSBのラップへ。整ったアレンジだ。

 いよいよ最終曲の(14)。これまでの作り物っぽさをすべて捨て去り、Rinbjöの魅力を存分に引き出した。ウィスパー気味の歌声は、決して上手いわけではない。なのに、心を強烈に揺さぶられる。以前に、ここでこの曲については色々書いた。
 Clare and the Reasonsの"KR-51"(2012)のアレンジを踏まえ、コード感も変えて抜群に美しく磨き上げた。さらに成孔ならではのクロスリズムも弦で投入して。素晴らしい。

 曲目全てが、聴きごたえあり。おなか一杯になる名盤だ。上の感想もかなり端折っている。聴くたびに、色々な思いや感嘆の表現が頭に浮かぶ。成孔のプロデュースが冴えわたっている。何度も言う。本盤は、傑作だ。

Track listing:
1. 戒厳令 ft. 菊地一谷
2. 3b ft. MARIA, I.C.I
3. 魚になるまで
4. 反駁 ft. Paloalto
5. sTALKERs ft. NK
6. アニー・スプリンクル
7. 泥の世界
8. interlude
9. 蛇のmean ft. Dyy-PRIDE
10. 空間虐殺 ft. オダトモミ
11. angel craft
12. MORNING ft. N/K, I.C.I
13. さよなら ft. OMSB
14. The Lake

Personnel:
1. 戒厳令 ft. 菊地一谷
beat SHIRO TANAKA
Top line Composition & lyrics, arrangement & edit N/K
RAP Verse 菊地一谷(A.K.A QN) 

2. 3b ft. MARIA, I.C.I
beat N/K (manipulate SHIRO TANAKA)
Top line Composition & lyrics N/K
RAP Verse & Maria, N/K
Dirty talk Verse N/K,大和田俊之

3. 魚になるまで
beat & text N/K (manipulate SHIRO TANAKA)

4. 反駁 ft. Paloalto
beat SHIRO TANAKA
Top line Composition N/K lyrics N/K & Rinbjö
RAP Verse Paloalto(HI-LITE RECORDS/KOREA) 
  VOICE EFFECT PANDA BOY
chorus 小田朋美(DCPRG)
guiter  大村孝佳(DCPRG/C4)

5. sTALKERs ft. NK
beat QN
Arrengement & edit N/K
Top line Composition,lyrics & RAP Verse N/K
Keybord & additional Beat box N/K
VOICE EFFECT PANDA BOY

6. アニー・スプリンクル
baet QN
text N/K
Edit、Keybord,CD-J scratch N/K

7. 泥の世界
beat N/K (manipulate SHIRO TANAKA)
Song written by N/K
Tenor saxophone N/K
Duet 菊地成孔

8. interlude
beat Hi-spec(SIMI LAB)
Rinbjö’s voice edit(CD-J Scratch) N/K

9. 蛇のmean ft. Dyy-PRIDE
beat DJ TECHNORCH 
Top line Composition DJ TECHNORCH
lyrics N/K
Arrangement N/K
RAP Verse Dyy-PRIDE(SIMI LAB)
Guitar 大村孝佳(DCPRG/C4)
VOICE EFFECT PANDA BOY

10. 空間虐殺 ft. オダトモミ
beat DJ TECHNORCH 
Verse  N/K & OMSB
Guitar 大村孝佳(DCPRG/C4)

11. angel craft
beat N/K(manipulate SHIRO TANAKA)
Song written by N/K 
Guitar 大村孝佳(DCPRG/C4)

12. MORNING ft. N/K, I.C.I
beat Hi-spec(SIMI LAB)
Top line Composition & lyrics N/K
RAP Verse N/K
Dialogue N/K & 大和田俊之

13. さよなら ft. OMSB
beat 三輪裕也 
Top line Composition & lyrics N/K
Arrengement N/K
RAP Verse OMSB
VOISE EFFECT PANDA BOY

14. The Lake
Written by Clare C Manchon and Olivier Manchon
Arrengement 小田朋美

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