B.J. Thomas  「Billy Joe Thomas」(1972)

 極上のカントリー寄りな大人のポップ・ソングブック。しみじみ聴ける傑作だ。

 B.J.トーマスは日本だと「雨にぬれても」のイメージが強い。山下達郎が過去に押してきたミュージシャンで、今一つ日本で再評価されない人。ちなみに「雨にぬれても」はバカラック色が強い。B.J.トーマスの本質はカントリー寄りの、中流階級的なおっとりした伸びやかさにある。さらにゴスペル歌手としての側面も。
 アルバムは膨大で、ベスト盤も山盛り。今一つ全貌が頭に入らない。そこそこ、再発もされてるのだが。

 そんな彼の代表曲で超名曲の一つ"Rock And Roll Lullaby"を収録が本盤。過去に日本でもCD再発済みだ。たぶん、10thのオリジナル・アルバム。ちなみに今は本盤って廃盤のようだ。なんとまあ。中古もさほどプレミアつかず、MP3でも買えるが。
  
 Discogsで本盤のクレジットをキッチリ見ることができる。売れっ子の、有名どころの、若手で生きのいいところの。さまざまな側面で作曲家を集め、丁寧なプロダクションでB.J.トーマスの柔らかくあったかい歌声をたっぷり聴ける。LP時代に12曲入り。思い切り曲をぎっしり詰め込んだ。

 プロデューサーの一人なアル・ゴーゴニは、60年代からいわゆるブリル・ビルディングの作曲家たちのセッションへ、ギタリストとしてキャリアを始めた。作曲も行い、プロデュース業も進出してきた。本盤はそんな一枚だ。
 もう一人のプロデューサー、Steve Tyrellはもともとミュージシャンだが、この当時は本盤の発売レーベル、セプターのA&Rも務めてた。いわゆる実務面でのプロデュース役だったのかも。

 セッションはある程度メンツを固定させつつ、数回にわたり行われたと思われる。
 なお達郎のソロ1st"Circus town"で、彼がミュージシャンを選定したというNYサイド。そこでドラムとパーカッションのアラン・シュワルツバーグと、ジミー・モーレンは、本盤でも多くを演奏してる。もしかしたらこの盤が、達郎のミュージシャン選定へ影響を与えた一枚なのかもしれない。

 まずポール・ウィリアムズの(1)で幕を開ける。30代前半、カーペンターズでヒット飛ばして脂乗ってるころだ。コーラスでも参加した。ヘッドフォンで聴くと、ドラムの丁寧な叩き具合やミックスの細かさが良くわかる。
 マンドリンはアル・ゴーゴニ自身が弾いてる。アコーディングとアコギが良いアクセントになった、おっとりと滑らかな楽曲だ。柔らかく涼し気なストリングスが、甘く楽曲を膨らませる。ここにはロック的な荒々しさや冒険は無い。あくまでも、良い曲をふくよかに、ソフトだが上手い歌声で聴かせる。そんな黄金路線を狙ってる。

 そして大御所マン=ウェイルの名曲な(2)。うっすらとカントリー的なのどかさ、もしくは安定感を感じる。メロディ云々よりも、B.J.トーマス自信の歌声が醸し出す雰囲気に、だが。ストリングスが入っても、豪華さよりもふっくらと身をまとう柔らかさを狙うかのよう。まさにビーチ・ボーイズ的なファルセットを混ぜた西海岸風コーラスを、東海岸の整ったアンサンブルへ溶け込ませた。
 とにかくこの曲は、リフレインのキャッチーな美しさが抜群だ。何度聴いても良さにしみじみする。ギター・ソロがさりげなくエレキギターでクレジットされてるデュアン・エディって、サーフ・インストの彼のこと?

 (3)はスティーヴィー・ワンダーの登場だ。"Music Of My Mind"(1972)に収録したこの曲、スティーヴィーのテイクと本盤のどっちが先だろう。なんとなくだけど、本盤がカバーな気もする。
 ハーモニカでスティーヴィーも参加した本盤、まさに才能が炸裂する萌芽時代なゆえに、このテイクでもスティーヴィーの色があまりにも強い。独特な節回しを自分の世界に引き込んだ、B.J.トーマスの歌唱力はさすがだけども。うーん、味の濃い二人がぶつかった。いや、悪くは無いんだよ。アル・ゴーゴニは11弦ギターやシタールを演奏。アレンジのアイディアも、彼が主導かな。

 (2)に続きマン=ウェイル作の(4)。ピアノはバリー・マン自身が務めた。(2)に通底するソフトさを保ちながら、ドラマティックでスケールの大きな一曲。ストリングスが、とかアレンジ以前にメロディ・ラインそのものにオーケストラが似合う雄大なメロディだ。
 転調してドラムが入り、弦が加わり。派手なオケだが、B.J.トーマスはあわてず騒がずおっとりと高らかに歌いこなす。この自然体っぷりが良いなあ。

 (5)も引き続きマン=ウェイル。ミュージシャンのメンツはここまで一緒だが、エレキ・ギターやシタールはアル・ゴーゴニでなく、Teddy Irwinに任せた。この辺の振り分けがわからない。一通りベーシックを録った後、アルが片端からシタールをダビングみたいな手順じゃなさそうだ。一曲づつ仕上げていったのかな。
 この曲は和音がくるくると変わるきらびやかで刺激を持つ。ちょっと落ち着かない不安定さを持ちながら、歌声一発で安定感を持たせる。ハイトーンの歌声が心地よい。

 A面最後の(6)はジミー・ウェッブの曲でしめた。ピアノのバッキングとシンプルなアレンジで、演奏はウェッブ本人。音数はさほど多くないのに、恐ろしくロマンティックで懐広いピアノだ。このときウェッブは26歳。既に60年代後半でフィフス・ディメンションなどでヒット飛ばし、ぶいぶい言わせてたのかも。
 しかしB.J.トーマスはブレない。豪勢なオケでも、ピアノのみでも全く変わらぬ落ち着きだ。着地点の見出しにくい、気鋭の曲をしみじみと歌いこなす。
 
 さてB面。(7)の作曲とピアノはキャロル・キングの登場だ。ここでリズム隊がガラリ変わり、ちょっと前のめりな凄みだすサウンドに変わった。管はMemphis Horns。スタックスで活躍したWayne JacksonとAndrew Loveの二人が、ソウルフルに決めた。
 どこかベタッと地に足ついたムードなのは、ロン・タットのドラミングなゆえか。一気に楽想が南部的な香りへ。カントリーって共通項はあるけれど。しかしこの曲をキャロル・キングが書くのか。もっとキャロルは都会的なイメージだった。

 (8)でミュージシャンはA面のメンツに戻る。作曲はWayne Carson。The Box Topsのヒットで知られた人らしい。といっても、The Box Topsを良く知らないんだよな。
 確かにテンポ・アップしたらティーン向けの派手な曲になりそうだ。ぐっと落ち着いたテンポで穏やかに歌われるし、演奏もアレンジされてるけれど。コーラスにバリー・マンのクレジットあり。別曲と同じセッションでの録音か。

 (9)もカントリーっぽい。Hugh McCrackenのハーモニカがイメージを加速する。作曲のMark Jamesは、プレスリーの"サスピシャス・マインズ"を書いた人。そういう意味だと、やはり南部系のカントリー色ってのは当然か。
 コーラスにMark James自身のクレジットあり。楽曲提供してハイ終わりでなく、きちんとレコーディングに参加してたみたい。

 (10)もMark Jamesの作品。こっちはいくぶん、ドリーミーさを増した。サビ前のちょっとした裏声、しとやかに下へ沈むサビ、さりげないテクニックを駆使した曲調が美しい。こっちのほうは都会的。ミュージシャンのメンツは前曲と変わらぬ本盤A面の顔触れ。しかし楽曲のイメージはがらり違う。さすが。
 アランとジミーのリズムは、そっと鳴らしてうるさくない。リズムはキープしつつ、なんというか手が込んでいる。ちなみに楽曲ごとに音色も変え、工夫もしてるっぽい。

 (11)はBobby Weinstein, Jon Strollのコンビによる作曲。職業作曲家として活躍して多数のヒット曲もあるが、超代表曲ってどれだろう。Discogs見て、上げにくい。
https://www.discogs.com/ja/artist/790169-Bobby-Weinstein?filter_anv=0&subtype=Writing-Arrangement&type=Credits
 冒頭から甘いフレージングが異様に耳へ残る。伴奏は小編成コンボで、サビで張るとグッと世界が広がる。Memphis Hornsもクレジットあり後半でリフを入れてくるが、むしろJon Stroll自身のピアノやアル・ゴーゴニやHugh McCrackenの柔らかなギターのほうが印象に残る。
 しかしドラムがさりげないなあ。打ち込みみたいなタイトさと滑らかさを見事に両立させた。

 最終曲(12)でラヴィン・スプーンフルのJohn Sebastianの曲を持ってきた。A面のウェッブといい、各面の最後で思い切り色を変えるアイディアか。とはいえこの曲、どっぷりアコースティック・カントリーな面持ちだけど。ハーモニウムはバリー・マンが弾いてる。セバスチャン自身はアル・ゴーゴニとアコギを本曲で弾いている。
 スティール・ギターを弾くPete Drakeは、ナッシュヴィルでレコード会社経営もする有名な奏者らしい。こういうところ、きちんと予算を使ってサウンド作ってる。
 最後に針音というかノイズでしめるあたり、妙ないたずら心もあるけれど。

 ということで、淡々と曲を聴き連ねてみた。どの曲も隙が無く愛情こもった仕上がり。歌声もばっちり、破綻は無い。カントリー寄りで安定路線な、大人向けのポップスだ。長く、じっくりと聴き継げる名盤。

Track listing:

(1)That's What Friends Are For

Written-By - Paul Williams
Accordion - Dominic Cortese
Acoustic Guitar - Teddy Irwin
Acoustic Guitar, Electric Guitar, Mandolin - Al Gorgoni
Backing Vocals - Jon Stroll, Mark James , Mentor Williams, Paul Williams
Bass - Kirk Hamilton
Drums - Alan Schwartzberg
Percussion - Jimmy Maeulen
Piano - Jon Stroll

(2)Rock And Roll Lullaby

Written-By - Barry Mann-Cynthia Weil
Acoustic Guitar - Al Gorgoni, Teddy Irwin
Arranged By [Strings] - Glen Spreen
Backing Vocals - Blossoms, The, Dave Sommerville, Gene Morford, Ron Hicklin, Tom Bahler
Bass - Kirk Hamilton
Drums, Percussion - Alan Schwartzberg
Electric Guitar - Al Gorgoni, Duane Eddy
Electric Piano - Barry Mann
Marimba, Percussion [Vibes] - Dave Cary, George Devens

(3) Happier Than The Morning Sun

Written-By - Stevie Wonder
Arranged By [Strings] - Glen Spreen
Backing Vocals - B.J. Thomas, Blossoms, The
Bass - Kirk Hamilton
Congas, Percussion - Jimmy Maeulen
Drums - Alan Schwartzberg
Electric Guitar - Teddy Irwin
Guitar [11 String], Sitar - Al Gorgoni
Harmonica - Stevie Wonder
Organ - Glen Spreen

(4)Roads

Written-By - Barry Mann-Cynthia Weil
Acoustic Guitar - Al Gorgoni
Acoustic Guitar, Electric Guitar - Teddy Irwin
Arranged By [Strings] - Glen Spreen
Bass - Kirk Hamilton
Congas - Jimmy Maeulen
Drums - Alan Schwartzberg
Keyboards - Barry Mann
Organ - Glen Spreen
Percussion - B.J. Thomas

(5)Sweet Cherry Wine

Written-By - Barry Mann-Cynthia Weil
Acoustic Guitar - Al Gorgoni
Acoustic Guitar, Electric Guitar, Sitar - Teddy Irwin
Arranged By [Strings] - Glen Spreen
Bass - Kirk Hamilton
Congas, Percussion - Jimmy Maeulen
Drums - Alan Schwartzberg
Keyboards - Barry Mann

(6) A Song For My Brother

Written-By - Jimmy Webb
Piano - Jimmy Webb

(7)A Fine Way To Go

Written-By - Carole King, Toni Stern
Arranged By [Horns] - Glen Spreen, Wayne Jackson
Backing Vocals - Blossoms, The
Bass - Charlie Larkey
Drums - Ron Tutt
Electric Guitar - Hugh McCracken
Fiddle - Dave Boone
Horns - Memphis Horns, The
Percussion - Jimmy Maeulen, Steve Tyrell
Piano - Carole King

(8)Just As Gone

Written-By - Wayne Carson
Acoustic Guitar, Electric Guitar - Al Gorgoni
Arranged By [Strings] - Glen Spreen
Backing Vocals - Al Gorgoni, Barry Mann, Chip Taylor, Jon Stroll
Bass - Kirk Hamilton
Congas - Jimmy Maeulen
Drums - Alan Schwartzberg
Electric Guitar - Teddy Irwin, Wayne Carson
Keyboards - Glen Spreen

(9)I Get Enthused

Written-By - Mark James
Acoustic Guitar - Al Gorgoni
Backing Vocals - B.J. Thomas, Mark James
Bass - Kirk Hamilton
Drums - Alan Schwartzberg
Electric Guitar, Acoustic Guitar - Teddy Irwin
Harmonica, Acoustic Guitar - Hugh McCracken
Percussion - Jimmy Maeulen

(10)Are We Losing Touch

Written-By - Mark James
Arranged By [Strings] - Glen Spreen
Backing Vocals - Jimmy Maeulen, Jon Stroll, Mark James , Rodney Justo
Bass - Kirk Hamilton
Congas, Percussion - Jimmy Maeulen
Drums - Alan Schwartzberg
Electric Guitar, Acoustic Guitar - Teddy Irwin
Percussion - Steve Tyrell
Piano - Glen Spreen

(11)We Have Got To Get Our Ship Together

Written-By - Bobby Weinstein, Jon Stroll
Arranged By [Horns] - Glen Spreen, Wayne Jackson
Bass - Kirk Hamilton
Congas - Jimmy Maeulen
Drums - Alan Schwartzberg
Electric Guitar - Hugh McCracken
Electric Guitar, Acoustic Guitar - Al Gorgoni
Horns - Memphis Horns, The
Piano - Jon Stroll

(12) The Stories We Can Tell

Written-By - John Sebastian
Acoustic Guitar - Al Gorgoni, John Sebastian
Backing Vocals - Steve Tyrell
Harmonium - Barry Mann
Steel Guitar - Pete Drake

Engineer - Eddie Kramer, Eric The Norwegian, Gene Eichelberger, Ralph Moss, Ron Johnson
Producer - Al Gorgoni, Steve Tyrell

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