Rick Wakeman 「The Six Wives of Henry VIII」(1973)

 華麗なテクニックとプログレのダイナミズムが溢れる大傑作。

 ぼくがプログレのかっこよさ、を実感したのが本盤。聴いたのはたぶん19歳くらい。中古LPを買って、すごく惹かれた。プログレそのものは中1の洋楽聴き始めたころに、NHK-FMの「軽音楽をあなたに」で、フロイド、イエス、クリムゾン、ELPを聴いたし、直後に19;15からのNHK-FMの音楽番組で、キャメルなどを聴いてた。だからプログレって概念そのものは、比較的すんなり初期から聴いていた。だが、音だけだったため、イメージがつかめない。

 LPを手にして、見開きジャケットの写真がかっこよかった。ずらり並ぶ鍵盤とめくるめくテクニック、統一性もったアルバム・コンセプトとクラシックからロックまで幅広いスタンス、そして何よりアンサンブルのダイナミズム。
 そしてアルバムを聴く。ジャズとクラシックとロックがひとつながりに溶けた、すごいアルバムだと思った。繰り返し聴いたなあ。

 既に難波弘之のセンス・オブ・ワンダーを知ってたので、鍵盤ズラリ並べるスタイルは目に馴染んでたが。ビンテージな鍵盤(当時は最新鋭、かな)の並ぶとこと、着飾らないギャップが素直にかっこよかった。教会のパイプオルガンを機材として記載も。
 そのLPに書かれた機材クレジットはこちら。

Equipment
• Custom built Hammond C-3 Organ
• RMI Electric Piano & Harpsichord
• Frequency Counter
• Custom Mixer
• 2 x Mini-Moog Synthesizer
• Mellotron 400-D (Vocals/Sound Effects/Vibes)
• Mellotron 400-D (Brass/Strings/Flutes)
• Thomas Goff Harpsichord
• ARP Synthesizer
• Church Organ at St Giles, Cripplegate, London

 本盤は厳密にいうとソロ名義では2作目。1作目は当時のポップ・ヒットをピアノ・ソロで弾いた"Piano Vibrations"(1971)。だけどリック本人も「ソロ・アルバムと認めてない」。本盤こそ、真のソロとしている。
http://www.rwcc.com/title_detail.asp?int_titleID=86

 納得いかない盤こそYoutubeで聴かせればいいのに、さすがにまだ権利が切れてないか。なお何曲か本盤から音源がYoutubeへ上がってるように見えるが、ボーカル入り。別音源のようだ。
 


 さて、本盤。邦題は「ヘンリー八世の六人の妻」で、16世紀、チューダー朝第二代のイングランド王が娶った、6人の妻をテーマに作曲したコンセプト・アルバム。のちのライブ盤で演奏も多数あるが、やはり本盤での音色が捨てがたい。
 楽曲ごとにイエスやストローブスがらみ、さらにスタジオ・ミュージシャンを招いて質の高い演奏を繰り広げた。
 そのうえB面1曲目の(4)ではパイプ・オルガンの独奏で、格調高いバロック風の演奏も聴かせる。

 英国人の矜持や文化資産、そしてロックの荒々しさ。すべてがバランスよく混ざり合った。テクニカルな鋭さは抜群だが、クリックでジャストに仕上げる時代でもないため、微妙な揺らぎもそこかしこに。機械とは違う、生々しさも本盤の魅力だ。

 いちばん好きなのが(2)。アルペジオやミニマルなフレーズを繰り返しながら、ものすごく繊細なところでタイム感が震える。それがブルフォードの正確無比だが、荒々しさを内包するドラミングとばっちり合った。
 Dave Winterのメロディアスで鍵盤と張り合いっぱなしの旋律を繰り出す、高らかなベースも良い。めくるめく変拍子がグルーヴィなジャズ・ロックと仕上がった。

 終わりそうなとこでベースが、ドラムがつなげて鍵盤ソロへ雪崩る大仰な作曲も愛おしい。聴くたびに心が燃える。Mike Eganのギターは弾きっぱなしでなく、場面ごとで効果的に登場した。この曲を聴くたび、ザッパの"Hot Rats"(1969)を連想する。
 オーケストラ的な緻密さと鍵盤の多彩さを演出する(1)や(3)に挟まって、(2)の迫力は猛烈だ。

 なお、くるくると優雅なムードの(3)もBarry de Souzaの破綻無く仕上がる、音色潰れたドラムが、森の木漏れ日を連想するプログレ的な様式美に満ちた。ムーグが中間で吼え、スペイシーな展開に向かう隙の無い鍵盤もすてきだ。

 (4)でのパイプ・オルガンは音の揺らぎが本当に惜しい。LPでもCDでもよれた感じだが、マスターがこうなのかな。最近のリマスター盤を聴いたことないけれど。
 バッハのトッカータを連想する崇高な響きに、途中からシンセを足して野性味を付け加えた。

 本当にこの盤はよくできている。個々の楽曲はイメージを変えてアルバムのバリエーションを持たせる。英国風味の歴史と斬新さが絶妙のバランスだ。
 さらにたとえば(5)の一節でホンキートンク・ジャズな要素を混ぜ、アメリカ音楽も貪欲に吸収してる。ハードロック的な(6)も鍵盤を前面に立てて、清冽さを出した。

 ミックスもノベタンで進ませず、場面ごとに音量バランスを変えてドラマティックさをことさら強調した。
 コケ脅かしでなく、隅々まで練られたアイディアとメロディの持つ魅力、演奏力のスピード感などが緻密に構成されている。

 しかしこの鍵盤、ダビングもありかな。複数の鍵盤を並べたとしても、音数がもっと多い気がする。
 この「弾いてみた」みると、かなりのとこまで一度に弾けるっぽいが。


Track List:
1.Catherine of Aragon 3' 47"
2.Anne of Cleves 7' 55"
3.Catherine Howard 6' 37"
4.Jane Seymour 4' 50"
5.Anne Boleyn 6' 36"
6.Catherine Parr 7' 4"

Personnel;
Steve Howe – guitar (A1)
Chris Squire – bass guitar (A1)
Barry St. John – vocals (A1)
Judy Powell – vocals (A1)
Bill Bruford – drums (A1, B2)
Liza Strike – vocals (A1, B2)
Ray Cooper – percussion (A1, B2)
Les Hurdle – bass guitar (A1, B2)
Mike Egan – guitar (A1, A2, B2, B3)
Alan White – drums (A2, B1, B3)
Dave Winter – bass guitar (A2, B3)
Frank Ricotti – percussion (A2, A3, B3)
Dave Cousins – electric banjo (A3)
Chas Cronk – bass guitar (A3)
Barry de Souza – drums (A3)
Dave Lambert – guitar (A3)
Laura Lee – vocals (B2)
Sylvia McNeill – vocals (B2)

09年のライブ映像。違うんだよ。音色もアレンジも。確かに豪勢だし、きれいだ。けれど違うんだ。
本盤で聴ける演奏の荒々しさや危なっかしさ、コンパクトな編成で織りなすサウンド、なによりも鍵盤の音色は、豪華なアレンジや今の音だと再現できないんだよ。


 むしろこのカバーのほうが、荒々しさを上手いこと再現してる。単にテクニック追いついてないだけかもしれないが。


 

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