Prince 「20Ten」(2010)

 不特定多数向のポップ志向をメドレー気味に、一気呵成でまとめた。プリンスのリズム・アレンジの本質が浮き彫りな盤。

 本盤は何年も、良さがわからなかった。聴き返してるうちにストンと魅力が腑に落ちて好きになった。リアルタイムで理解できず、数年たって惹かれるなんて。
 通常の流通を通さず、欧州の新聞や雑誌数紙に添付の形で発表された。今や、廃盤になっている。本来の主戦場なはずの、北米であえて入手性を落としたかっこう。このへんのマーケティング感覚が良くわからない。新規ファン層の開拓狙いだろうか。
 当時の日本ではAmazonなど経由で、盤単品は容易に入手できた。レコ屋での流通具合は覚えてないな。
 
 プリンスは、外見イメージを大切にしてた。本盤は妙におすましでイキッてる。等身を上げてスリムで凛々しい目力。だが筋肉は無い。アメコミ風の美化から、マッチョさを減じた。つまりアメリカ風価値観を消し、欧州風のエレガントさを狙った・・・のでは?

 表ジャケとにプリンスのクレジットは無い。TAFKAPのアイコンとプリンスの画像で、彼の盤だとすぐわかる。だが、敢えてアピールを"明示"しない。明確であっても。
 ちなみに紙ジャケの裏にはきちんとプリンスのクレジットあり。隠しトラックもあり。十重二十重に様々な仕込みが行われてる。
 当時は殿下の気まぐれリリースかと思ってたが・・・。とんでもなかったな。

 デモテープみたいに、ほぼすべてがプリンスの多重録音だ。けれどもバンド・サウンド的なキャッチーさもそこかしこにある。アレンジはプリンスの本質である、シンセやリズムを機械任せで、カッティング・ギターでグルーヴを出すさまが、ふんだんに聴ける。
 細かい打ち込みビートもプリンスは得意だが、シンセのリフはむしろ無造作だと思う。べったりと拍頭からシンプルに鳴らすのが多い。広がりを出す。
 そしてプリンスがギター・カッティング入れた瞬間、世界が変わる。ファンキーに踊り出す。

 本盤はアルバムの世界観よりも、一気に最後まで聴かせることを主眼に置いていそう。ジェットコースターのように、どんどん曲が進んでいく。

 Prince Vaultによれば(1)のみ06年録音の蔵出し。"3121"の頃か。あとは本盤発表にあたって新曲を並べた、とある。
 キャッチーでホーンも入れたわかりやすさを、新聞朝刊の爽やかさに投影して、(1)を軸にアルバムをまとめたのではないか。
https://www.princevault.com/index.php?title=Compassion

 シンセ・ドラムと80年代プリンスを強調するスネアの音色がぱっと耳に残る。手拍子みたいな潰れた音だ。これにタンバリン風の音を混ぜたら、まさにパープル・レイン時代のプリンス・ドラムの音色になる。

 (1)はシンセのペタッとした響きと、実際のホーンを混ぜることでメリハリ効いたアレンジだ。"サイン・オブ・ザ・タイムズ"(1983)、もしくは"Rave Un2 The Joy Fantastic"(1999)
 打ち込みリズムを鳴らしぱなしでなく、生ドラムふうにブレイクを入れバンドっぽさを出した。歌メロのオブリが、フレーズ終わりで揃って疾走するさまがかっこいい。
 サビ前に2拍足した6拍子で、つんのめる譜割が効果的なメリハリになった。
 アルバム1曲目に置くあたり、本盤を象徴する曲ではと思う。けれどこの後のツアーでも演奏はされず。けっこうもったいない使い方だ。ライブでは軽すぎる、とでも思ったか。

 (2)のつなぎがまるでメドレーのように、ぴたりハマった。新聞のおまけってことは、プリンスのファン以外も当然聞くことを想定してるはず。つまり飽きさせず一気に進むこともプリンスの狙いではないか。この(1)から(2)のつなぎはまさに、そんな感じ。こっちはライブで演奏された。
 (1)よりいくぶんファンクネスを増し、ドラムは音色ごとに打ち込みを重ねた。リズムの内訳でスピーディさを出す。ティンパニの深い音色が良いアクセントだ。べたっとシンセがリフを弾き、ノリそのものはシンプル。細かい打ち込みのニュアンスでスピード感に味付けする試みだ。
 そして中盤からカッティングの登場。ダブル・トラックで軽快に刻み、いっきにビートがクールに冴えた。このビート感こそが、プリンスの真骨頂。

 そして甘いバラードの(3)に。打ち込みビートは底に置き、生ドラムふうのシンバルが刻む。ギターの緩やかなフレージングを前面に出して、粘っこいグルーヴを出した。女性ハーモニーはプリンスの裏声も混ざっていそう。
 主旋律の複数の音域を多重録音し、不穏さとどの高さがメインかわからなくする歌のアレンジもすごく良い。

 そして本盤の最高傑作(4)へ。ライブでも取り上げられた。メロディはキャッチーと言い難いが、歯切れ良いリズム感と畳みかけるファンクっぷりの混交が抜群にはまった名作だ。
 ここでもギターのカッティングがリズムをつややかに彩った。中盤のラップめいたフレーズは今一つ野暮ったい。ぴたりビートに合っている。リズムを無視してフロウをかけるパターンは、プリンスの美学に合わないか。
 喉を張らず呟きの歌声が、逆に魅力的。喉を張ったほうが、ぐっとわかりやすくなるメロディなのに。

 いくぶん重くなるが(5)もムードは続く。女性ボーカルのハーモニーをくっきり立て、コール&レスポンスのスタイルを明確に提示した。打ち込みっぽいジャストな8ビートのドラムは、なんだかちょっと揺れる。4小節を生演奏で、それをループ?
 エレキギターのカッティングと打ち込みビートのスタイルはそのままに、いくぶん喉を張った歌声で前曲との対比も示す。
 改めて本盤の流れは、すごく緻密に考えられてると思う。

 (6)から数曲は、完全にプリンスの多重録音が続く。打ち込みビートよりもカッティングがリズムの主軸となり、膨大な多重ボーカルのメロディ・ラインが雰囲気をざわつかせる。
 コード変化させず、ワンパターンで突き進んでもいいのに。大サビ入れてぐうっと盛り上げるサービス精神も嬉しい。シンセとギターに加え、歌もリズムの一種と捉えてグルーヴを作ったか。

 プリンス流の軽やかなファンクの連発を一呼吸置き、甘いミドル・テンポに仕上げたのが(7)。生ドラムがメイン。シンバルやタムのフィルは同時でなく、音色ごと個別にダビングかもしれない。
 ドラムはタイトではないが、あまり揺れずにジャストな刻み。揺らしはピアノのフレージングが務めた。カッティングの変わりだ。シンプルな楽曲だが、アレンジはべらぼうに厚い。フレーズごとに様々なアンサンブルが出入りする。凝ってるなあ・・・。

 前曲からまた更に、ギアを一段落とした(8)。ドラムは再び打ち込みに変わり、エレキとアコギの双方でカウンターやリズム・ニュアンスの厚みを出す。
 歌はファルセットでシンプルにまとめ、多重ボーカルはサビなどのポイントに絞る。メロディはキュートだが、独特に揺れて小節一杯に広がるタイム感で、しみじみとエレガントさを演出した。ハーモニーに他の男女ボーカルが入ってるように聴こえるが、Prince Vaultではプリンスの多重録音と記載あり。
 Princ Vaultの情報信頼性は変に高いため、この記述がちょっと納得いかない。

 そしてアルバムとして一応の締めは(9)。あっというまだ。なおかつベタな終わり方を持ってきた。80年代のパワー・ポップみたいに、めちゃポップな仕上がり。プリンスが多重ボーカルな点を横においても、応援歌のように大勢で声を揃え歌うようなスタイルが似合いそう。
 ここまでのパーソナルな雰囲気を払拭して、一気に開放的でライブ映えしそうな曲。観客が声を揃えて歌うとか。実際のライブではメドレーで一部だけ挿入されたらしい。
 楽曲的にはあまりに大衆迎合的でいまいちだが・・・。
 
 そして隠しトラックの(10)に。数秒の隠しトラックを66トラック。つまり約5分間の無音のあと、一気に粘っこい本格ファンクを仕込んできた。これがプリンスのバランス感覚であり、しぶとさ。
 しこたまポップさ狙いもできるが、本質はファンクなんだと主張のように、
 ここではメロディのキャッチーさはまるで無視。バンド風に盛り上げた。ただしコーラス以外はすべてプリンスの多重録音らしいが。打ち込みと生演奏の溶け方が凄まじい。
 本盤発表の年末、2010年の"Welcome 2 America Tour"初日の一曲目にこれを持ってきた。やはり自信作なのだろう。

Track listing:
1."Compassion" 3:57
2."Beginning Endlessly" 5:27
3."Future Soul Song" 5:08
4."Sticky Like Glue" 4:46
5."Act of God" 3:13
6."Lavaux" 3:03
7."Walk in Sand" 3:29
8."Sea of Everything" 3:49
9."Everybody Loves Me" 4:08
10."Laydown" 3:07

Personne
Prince - all vocals and instruments
Shelby J. - vocals on 1-5,9,10
Liv Warfield - vocals on 1-5,9,10
Elisa Dease - vocals on 1-5,9,10
Maceo Parker - saxophone on 1
Greg Boyer - trombone on 1
Ray Monteiro - trumpet on 1

 プリンスの死後、本盤がプレミアついた。新品で6880円。中古で5400円の値段だ。そのうち値崩れすると思うから、記録で値段を記しておこう。
 後に本エントリーを見てくださった人は、当時と今の値差を楽しんでください。

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