飯島真理 「Sonic Boom」(1995)

 バカラックの新曲を歌った。R&Bにに接近し、明るいが世界観が発散したアルバム。

 ムーン時代、12thソロ。前作のメロウな路線から一転、躁な楽曲が並ぶ。アレンジは1曲を除き、ジェイムズ・ステューダーと飯島真理の共同クレジット。

 けっこう歌詞がストンと聴こえる盤で、(3)の別れ歌など歌詞世界に引きずられてしまう。アップな楽曲も歌詞世界に引っ張られてしまい、やけになってる感じ。
 楽想としては打ち込みビートを軸にシャープなギターのカッティングを仕込んだシティ・ポップ。前作より若干、精神年齢を若くしたような。
 
 "Good Vibrations"のテレミンのサンプリングを延々流すようなアイドル・ポップな(1)で始まる。多重録音コーラスも仕込んだ歌声と、等身大な歌い方がちぐはぐ。
 (2)のハッピーなポップスじたても、前作に無かったアプローチだ。カラッと明るいキャッチーな楽曲で、エレキギターのカッティングもはまってる。転調も気持ちいい。だが直前の乾いた笑いがなんともはや。回転数上げたハーモニーも足して、異様なテンションの高さを示した。
 
 ところが(3)の別れ歌でガツンとテンションを落とす。この極端な世界観は何なんだ。あまり僕は歌詞を聴かないほうだが、これは妙に歌詞が耳に入る。ちなみにジェイムズ・ステューダーと離婚は、Wikiによると99年と本盤の4年後。実体験を投影ではなさそうだが。
 楽曲はコード弾きの鍵盤弾き語り調子で、シンセの弦まで足して切々と高らかに盛り上げるミディアム。

 一転して(4)はシカゴ・ソウルをポップに仕立てた風の楽曲へ。シャープなギターのカッティングと華やかなコード・チェンジとメロウさが漂う。飯島でなくステューダーの曲だが、飯島っぽい色合いが良く出ている。ハーモニーの和音感なんか、特に。
 (5)もニューヨークあたりのソウル風。いわゆる黒っぽいグルーヴは強調せず、外側のみ取り上げてAORなアプローチ。コーラスも外部から招いたと思う。この声からして。
 サビで和音感が変わり切々と風景を一瞬変えるのも飯島らしい鮮やかさ。

 続く(6)は共同作曲家にDonny Hathawayのクレジットあり。謎だ。歌手のダニー・ハサウェイならとっくに他界してるし。曲は確かにシカゴ・ソウル調。
 曲はタイトルの歌詞に沿ってガラガラとコード転換するさまがかっこよく、中盤のオルガンも雰囲気だしてていい。しかしリズム隊はあくまでタイトに決め、西海岸風の健全さ。ファンキーさとはいまいち寄り添わない。
 細かいカッティングやシンセのフレーズにホーンの形など、カーティス流を狙ってるっぽいが。

 今でいうオートチューンっぽく声を加工した(7)は一転して打ち込みポップスに。むしろこの曲のほうが、小刻みなタンバリンとスネアの絡みにグルーヴを感じる。
 上物は多重コーラスを強調した讃美歌よりの譜割で、これまた水と油。大胆なアレンジだ。

 そしてここからが、さらにスキゾっていく。ザクッとエレキギターが鳴る大味LAロックな(8)の登場だ。ぐっと張る飯島の声は、やたらカラッとしてる。歌詞は恋に悩むネガティブな内容なだけに、アレンジとのバランスがムキになる心情を歌ってるかに聴こえてしまう。リズムもこれまでの細かいビート作りと一転、シンプルで大ざっぱなエイト・ビートに変わった。ほんとこのアルバムは、イメージの統一性が無い。
 
 (9)もそれを引っ張った、ギター・ロックなアレンジ。メロディはキャッチーな飯島節の応援歌なタイプだ。キメを入れながら、大らかな譜割で伸び伸び歌った。なんというか一人でなく、大勢で声を揃え歌うことを想定したかのように、メロディへゆったり歌詞を載せた。

 インストのイージーリスニング風のピアノ・インスト(10)を挟み、バカラックの新曲を投入が(11)だ。
 ジェイムズ・イングラム、パフ・ジョンソンの作曲チームと作詞家ジョン・バティスの共作クレジットという、いまいち人脈が読めないクレジットだ。アメリカでヒットが産まれずアジア圏へ拡販を図った、バカラックの音楽出版社からの売り込みで採用に至ったらしい。

 この曲のみ、バカラック人脈のクライヴ・デイヴィスが押したか、アーロン・ジグマンがアレンジを担当した。
 いきなり世界観変わるアレンジ。安っぽい打ち込みビートや、間奏のやたら長いサックス・ソロのドリーミーなサウンドが唐突なため。メロディは冒頭の4小節と、サビ前の転調だけバカラックっぽい。あまり変化なく淡々とワンフレーズで進む感じ。甘ったるいAORになった。

 なおコステロとの"Painted from Memory"(1998)で、バカラックが復活遂げるのは本盤の数年後だ。

 最後の(12)も、飯島っぽいメロディがきれいな良い曲だ。和音進行やきゅっと引っ張っては離すメロディ、柔らかな甘さが漂う。この曲だけアレンジの感触が、他と違う。R&Bっぽさをニュアンスに止め、アレンジを硬くまとめたせいか。ビクター後期~ムーン移籍直後のサウンドと似た質感だ。もし本盤から一曲選ぶなら、これかな。
 05年発売の自選ベスト盤"Mari’s Picks”The Ultimate Collection(1987-1999)"へ本盤からこの(12)を選んだのも、むべなるかな。

Track listing:
1. スーパー・ソニック・ブーム
2. シェイク!シェイク!
3. ラヴ・イズ・カミング・バック
4. マジック・イレーサー
5. ミテミテ,スキスキ
6. ストップ・キーピング・イン・タッチ
7. エンジェルズ~レッツ・ゲット・ハイ・オン・ラヴ
8. カム・オン!
9. フォーエヴァー・チアー・ガール
10. プレリュード
11. イズ・ゼア・エニバディ・アウト・ゼア?
12. ミス・サリー

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