日野元彦 「Double Chant」(1999)

 晩年に生きのいい中堅とはじけた、痛快なハードバップの遺作。

 日野皓正の実弟が98年11月3日に録音した盤。翌年5月13日に元彦は肝不全で他界する。
 本盤は"クラブ・トコ"と銘打ち、"Tac Tic"と二枚に分け発売された。トコとは元彦の愛称らしい。本盤でのサイドメンはいまでもテクニシャンで名高い凄腕ばかり。ブレイキーのように、若手のパワーを自分の音楽へ貪欲に吸収が狙いか。金管を入れず木管二管の編成が興味深い。

 "Tac Tic"とはメンバーを変えてる。こっちは未聴だが、川嶋哲郎以外はメンバーが全部違う、3管編成。"Tac Tic"が普段の元彦バンドの編成らしく、イレギュラーで二管カルテット編成が本盤"Double Chant"となる。
 多田誠司による"Tac Tic"の録音日記がネットに残ってた。

 本盤"Double Chant"では(8)のみ元彦のオリジナル、あとはすべて本盤に参加したメンバーのオリジナル。才能をぐいぐい吸収する元彦の懐深さが伺える。
 のびのびと各メンバーが巧みに演奏し、どっしりドラムは支えた。

 ハードバップを基本ながら、どこか洗練されたつややかな響きが音楽にある。
 サイドメンたちの音楽性のためと思う。無邪気に熱気をぶつけず、確かなテクニックに裏打ちされた着実さが、端正な面持ちをサウンドに滲ませた。
 ドラムも力押し一辺倒でなく、熱いが着実で確かなビートを刻む。
 
 ともすれば懐古趣味か化石みたいな硬直したジャズに陥りがちなのに、本盤は前のめりのグルーヴが煮立ってる。しぶとい凄みと、型に収まりきらぬパワーがあり。
 スティックで激しく打ち鳴らす場面より、むしろブラシやハイハットの柔らかいタッチこそ、この盤の真髄だ。繊細さとは違う。むしろ余裕。溢れる力を緩やかに制御し、小気味よく叩いてるってイメージ。
 
 サイドメンの演奏は破綻無いが、小奇麗にまとまってもいない。
 ピアノの雄大さ、ベースとの着実さ。確かなリズムに乗っかり、きちんとコントロールされたサックスの流麗なアドリブも綺麗だ。きちんとピッチを揃えて滑るように二管がテーマを滑っていき、がっと固まって疾走する。優れたテクニックの奔流がかっこいい。

 とにかく全編、スピードが爽快。ブルージーなスローでも、前のめりに整ってる。

 ぼくは特に日野元彦に思い入れなく、ライブを見たことも無い。本盤もたまたま買った。だが聴いてみてジャズの熱さを、確かに感じた。アメリカとも欧州とも、もっと言えばいわゆる中央線ジャズとも違う。
 メインストリームの洒脱さと、確かなクールネス。そして消しきれない熱気。いくつもの要素が絡み合った、ダンディでホットなジャズが詰まってる。
 本盤からは気持ちいい刺激を受け、改めてジャズの幅広さを実感した。

Track listing:
1. DOUBLE CHANT
2. SKY-SCRAPER
3. DANCIN'
4. A SUN GLOW SONG
5. CITY-SLICKER
6. BASHNESS OF WATER
7. COMPLEX
8. LANI

Personnel;
日野元彦 (ds)
山田穣 (as)
川嶋哲郎 (ss,ts)
石井彰 (p)
安ヵ川大樹 (b)

日野元彦のディスコグラフィはここが便利かな。参加アルバムは膨大だが、リーダー作一覧はこんな感じのようだ。

1970:First Album
1971:Beat Drum 1
1971:Beat Drum 2
1975:TOKO ~ Motohiko Hino Quartet At Nemu Jazz Inn
1976:流氷 (Sailing Ice)
1977:Flash
1989:Wild Talk
1992:Sailing Stone
1993:It's There
1995:Hip Bone
1999:Tac Tic - Club Toko Vol. 1
1999:Double Chant - Club Toko Vol. 2

           


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