"Delicious Pie & Thank You For Calling" Guided by Voices (2003:Matador)

 いかにローファイ志向だったGbVとはいえ、本音源はあくまでファン向け。03年に出た5枚組BOXの3枚目で、未発表曲集だ。

 84年から99年までの未発表集。全100曲の発掘音源集"Suitcase"が出たのは00年。「まだあるのか!」と驚いた。当時は。その後、"Suitcase"があと3つも出るなんて、予想もしてなかった。
 没曲から別テイク、デモ音源まで。録音時期にさほど拘らず、ずらずらと並べられた。製作過程やプロジェクトの連続性が伺えて興味深い。演奏そのものはデモだけあり荒っぽいものがほとんど。

<全曲感想>

1. I 1:09

 若いボブの声がギターの弾き語りで響く。ものすごくうねる"I"のメロディが呪術的な魅力を持つ面白い曲。クレジットによれば84年の作品、極初期の録音だ。アイディア一発ながら、絶妙なメロディ・センスの萌芽が見られる。このころは曲をまとめることをある程度意識して、これは素材っぽいと没にしたんだろう。あと5年もしたら、こういう曲こそローファイの魅力ありとリリースに至ってたかも。
 実際、今こうして聴けるんだから細かいことはどうでもいいか。

2. Back To Saturn X 4:52

 きっちりバンド演奏な90年の録音。Mitch Mitchell、Bruce Smith、Tony Conley、Wendell Napierが共同作曲者とクレジットあり、デモ的に作られた曲と思われる。Wendell Napierは数曲のギターや作曲で共作クレジットあるのみ、GbVに参加のクレジットはGbVdbで見当たらず。
 当時アルバム化はしないがボブとつるんでたってことか。90年と言えば"Some Place the Fly Got Smashed"(1990)のころ。まだインディで自由が効かなかったと推測する。

 音盤化は初だが、00年くらいからライブでは何度も演奏されていた。たぶん現地でライブを見られていたマニアには嬉しい音盤化だろう。シンプルで効果的なギター2本のリフで演奏される、ミドル・テンポのロック。かなりきっちり録音され、デモめいた乱雑さは無い。最後にドタバタと終わり、咳き込み気味のおっさんが笑う、謎の声が延々と録音されてる。

 "Back To Saturn X"は91年にアルバムのタイトルにも上がり、曲順まで決まってたそう。結果は未発表に終わった。

3. H-O-M-E 2:41
 
 歌声がジョン・レノンっぽい響きな89年作。このころの作品も、ものによってはしっかりレコーディングされてたんだ。ハーモニーまで入り、凝っている。ギターがトビン、ベースがミッチ、ドラムがケビン・フェンネルと往年の黄金GbVメンツだ。探るような1分間の空白多いイントロも、そのままカットせずにリリースされた。

 リフが始まるとけだるげなビートルズっぽいロックに。ワンコーラス終わったところで和音がくるくる変わりながら、サビへ行かないという変わった構成。しかもそのままハーモニーが足されるサイケな幕切れ。投げっぱなしもはなはだしい、ボブ流一筆書きの曲。
 テープヒスが聴こえるものの、きっちりマスタリングされ充分にパンチ力ある音に仕上がってる。

4. You're The Special 1:32

 84年と最初期の録音。エレキギターの弾き語りで、つかみどころ無いメロディを淡々とボブが歌う。ワンフレーズごとに連続しない歌詞を並べ、その場でどんどん旋律を付けてくかのよう。いわゆる繰り返しが無いため、バラッドっぽいとりとめなさを持つ。
 これもきっちりエッジが立った音。瞬間的に音が揺れるため、劣化したカセットテープを丁寧に補正したと思われる。しかしこういう音で出せるなら、初期GbVのローファイ音源も、リマスターでがらり印象変わるのでは?

5. Perhaps We Were Swinging 1:52

 GbVdbにはなぜかバイオリンまでボブの演奏と記載あり。アコギの弾き語りスタイルだが、エレキやバイオリンがダビングされドリーミーなサイケ・ポップにアレンジされた。87年の録音で、GbV前夜もしくは立ち上がり当初の作品。エコーを利かせ甘いハーモニーつけたポップな構造がキュートだ。
 メロディを無駄遣いする、才能あふれるボブを楽しめる一曲。

6. Mother & Son 2:33

 87年、上の(5)と同時期の録音と思われる。たっぷりリバーブ聴いた歌声ながら、コードがへんてこに動き、時に調子っぱずれな響きに。メロディはきれいだが和音とぶつかってる。
 ロバートは気にせず、どんどん歌い進む。これも投げっぱなしな一筆書きの曲ながら、同じフレーズを繰り返す場面があるのと、構成がある程度固まってるため、とっ散らかり振りはあまりない。
 ただ、メロディがちょっと弱いかな。すっと聴き流してしまう。

7. 7 Strokes To Heaven's Edge 1:54

 3rdアルバム"Self-Inflicted Aerial Nostalgia"(1989)のアウト・テイクだそう。落ちたのが不思議な柔らかいメロディの素敵な作品。ボブのアコギ弾き語りだが、ダビングでハーモニーもつけてる。これもビートルズを連想するイギリス風味だ。
 埋もれるのが惜しい佳曲。シンプルな曲進行に、温かく柔らかいハーモニーが魅力たっぷり。

8. Fire 'Em Up, Abner 3:32

 これも3rd"Self-Inflicted~"のアウトテイク。ジム・ポラードと、3rd"Self-Inflicted~"ではゲスト扱いだった、ミッチのベースにブルース・スミスのドラムで録音された。
 本盤冒頭の古い曲がクリアだったのはなんだったの、というくらいボーカルが後ろにミックスされ、音質もこもった曲。ラーガ・ロックって言葉が頭に浮かんだ。エレクトリック・シタールみたいなファズ効かせた音と、かろうじてメロディアスながら起伏の薄いボーカルが延々と続く。
 ただこれは、アレンジにも問題あり。ギターを抜いてポップに仕上げたらメロディはもっと映えたと思う。

9. Harboring Exiles 1:52

 同じく3rd"Self-Inflicted~"アウトテイク。ミッチのベースとブルースのドラム、ボブがギターと歌って、シンプルに録音された。ボブの幅広い声域を生かし、唐突に音程が上下する突飛な曲だ。
 ギターは間奏でダビングあり。ちょっとモタリ気味で危なっかしい印象を本曲に付与する。
 サビの軽やかなメロディは良いが、ちょっと唐突かな。

10. Still Worth Nothing 2:36

 3rd"Self-Inflicted~"アウトテイク。編成は上の(9)と同じ。低い音域を使って、一転してけだるげなボーカルに歌い方が変わる。サビでぐっと元気を出す二面性を表した。
 ブルースの荒っぽいがキッチリとキープするまじめなリズムが、この曲をデモっぽく見せてしまう。サビ部分は凄くいいのに、平歌のだるい印象が今一つ曲をはじけさせない。

11. Never 2:53

 3rd"Self-Inflicted~"アウトテイク。アルバム1枚の陰に、やはり膨大に曲が存在してた。編成はブルース・スミスのドラムだけ、あとはギターをボブが弾き語り。リズム・ボックスみたいなドラムながら、微妙に揺れるテンポやブレイクへきっちり追従するドラミングが上手い。
 
 けだるげな雰囲気は(10)に似てるが、こちらはブレイクを上手く使いメリハリを付けた。歌詞を次々に並べメロディを付けていく、投げっぱなし一筆書きな曲。二節目のメロディは固定させ、歌詞だけが変わっていく。

 そしてもう一度、冒頭へ。きっちり曲はまとまってるが、なぜか没。暗すぎたかな。

12. Slave Your Beetle Brain 1:59

 同じく89年の録音だが、アウトテイクではないらしい。ドラムが冒頭に聴こえ、あとはギターのみ。すべてテープの逆回転で演奏される。奇妙な味わいの実験的な作品。
 断片だけ切り出し、カットアップ風にアルバムへ混ぜたら面白い効果が出た曲ではないか。これ単独で聴くと、2分足らずの小品ながらちょっと長い。

13. It Is Divine [Different Version] 3:47

 スーパーチャンクのマック・マッコーガンと組んだユニット、Go Back Snowball"Calling Zero"(2002)の別バージョン。本テイク録音は99年。この曲だけではないが、ボブは曲を作りっぱなしでなく、こうしてサルベージする。丁寧な仕事に頭が下がる。よく覚えてられるな。

 ただしこの曲はGo Back Snowballの盤に比べて若干テンポが速く、サビでの華やかな展開も無い。歌詞も違うかな?サビのメロディも結構違う。通底するが別の曲と言ってもいいくらい。いったん没にして、マッコーガンと仕上げ直したといえそうだ。

 録音した99年と言えば、全面メンバーチェンジの"MAG EARWHIG!"(1997)から"DO THE COLLAPSE"(1999)まで、オリジナル・アルバムを出さずにいた頃合い。ソロ2nd"WAVED OUT"などは発表してたが、さぞかし膨大に曲がたまっていそう。

14. They 1:41

 99年の録音。アコギの弾き語りでデモっぽい仕上がり。残響の奥に倍音なのか、うっすらとオルガン風の幻聴が聴こえた。緩やかなバラードで、アコギだとあっさり聴こえるがいくつかの断片的なメロディが絡む。一筆書きな曲。

15. I Invented The Moonwalk (And The Pencil Sharpener) 2:08

 ここから4曲が"Do The Collapse"(1999)のデモ。なぜか本盤は、そのあとに"MAG EARWHIG!"(1997)のデモが並ぶ。時系列的に逆なんだが、アルバムとしての流れを意識か。実は"Do The Collapse"のほうが先だったりして。

 これはボブのギター弾き語りにダグ・ギラードがエレキギターをダビングした。アコギの素朴な歌が、数本のエレキギターですっかりハードに仕上がった。ドラムの音も聞こえるが、これはボブの演奏だろうか。
 シンプルなロックだが、サビでの明るい風景から間奏に向かうあたりはキャッチーだ。

16. Fly Into Ashes 2:24

 タイトルをつぶやいた後に演奏が始まる、これこそデモ。"Do The Collapse"がらみの曲で、99年にシングル"Teenage FBI"やEP"Hold On Hope"のカップリングで発表された。ここではあっさりアコギの弾き語り。ダグがギターをダビングして、すっきりしたかっこよさを付与した。
 甘酸っぱいメロディをさっぱり処理する、ボブの真骨頂な小品の佳曲。

17. The Various Vaults Of Convenience 2:16

 これもデモっぽく、タイトルを告げてから演奏。ただしギターの重ね具合やベースまで入り、比較的カッチリ作られた。5年前のGbVならば、このままOKテイクにしてもおかしくない仕上がり。ハイトーンで歌うためか、咳払い入るのはご愛敬。
 ボブの弾き語りにダグがギターを足した。当時のコンビっぷりが伺える。サビを連呼するフレーズ連続型な曲。少しばかり単調かも。

18. Trashed Aircraft 2:15

 ここまでが"Do The Collapse"のデモ集で、ダグと二人での弾き語りデモ形式は変わらず。GbVDB見てると面白い。この曲はもともと98年に"Do The Collapse"の前身となる、没LP"When I Go North"の曲目リストに上がっていた。
 本盤予定曲は結局、"Do The Collapse"だけでなくボブのソロ"Waved Out" (1998)や"Kid Marine" (1999)にも振り分けられた。

 だがこの曲はどれからも没になり、"Trashed Aircraft Baby"としBoston Spaceshipの3rd"Zero To 99"(2009)収録曲とし、晴れて日の目を見る。実に十年ぶりの正規録音化。実際には本盤収録で、ボブの頭の隅にこの曲のモチーフが残っていたのかも。

 Boston Spaceshipでは派手なギターとシャウトするボーカルで、明るいロックに仕立てられたが、ここでは抑えめにいくぶん鬱屈した仕上がり。ザクッとギターが刻む。ときおりテンポが揺れ気味の、荒っぽい演奏だ。

19. Running Off With The Fun City Girls 2:14

 ここから4曲、"Mag Earwhig!"のデモ音源。冒頭に曲をつぶやき、弾き語りでダグがギターを足すとこは上の"Do The Collapse"デモと同じパターン。この曲はヒスノイズが目立つ荒っぽい録音だが、音像は変わらない。
 あんがい両方のアルバムはひとつながりのプロジェクトかも、と思い始めた。膨大な作曲を誇り、使いつぶさないボブのことだから、いったんデモを作ってあれこれのアルバムへ振り分けてるだけかも。

 さてこの曲。サビできりもみのように絞られながら舞い上がるフレージングがかっこいい。ギターのリフもキャッチーだ。実際は"Mag Earwhig!"の日本盤ボートラとして正規リリース版が世に出た。

20. Bulldog Skin 2:24

 これはGbV代表曲のデモ。"Mag Earwhig!"に収録、シングル・カットもされライブでたびたび演奏あり。いくぶん元気ないテンションだが、サビでのハーモニーも含めて楽曲は完全に出来上がっている。
 後半のギター・インスト部分も出来上がってる。最初のフレージングこそないが、そのあとの3つの音を連ねて上がっていく箇所は既に存在。

 冒頭部分の歌に被るハウリングっぽい響きはわざとかな。公式テイクだとイントロで、シンセっぽい音が鳴る感じ。
 いずれにせよ、きっちりデモで曲を追い込んでるようすが、よくわかる貴重なデモだ。

21. Portable Men's Society 4:04

 "Mag Earwhig!"に収録曲のデモ。あまりこれは印象無かった。デモも4分、最終テイクも4分。(20)もそうだが、タイム感もほとんどズレないデモだ。本盤テイクはシンセが足されてドラムやギターも派手に鳴り、歌がこもってた。
 だがこのデモは歌を聴かせるため、数本あるギターも控えめ。やっぱり、地味な曲だけど。語りのようにあまりメロディが跳躍せず、淡々と進行した。

22. Choking Tara 2:24

 これも"Mag Earwhig!"収録曲のデモ。歌いかたはちょっと荒っぽい。
 いきなり上で書いたことをひるがえすが、最終テイクは1分半なのに、このデモは2分半。デモのほうが長い。ディストーション効いたギターをダグが足したデモは、キーが低めに聴こえる。

 最終テイクは一通り歌い終わった後、長めのフェイドアウトで曲が終わる。このデモだともう一度メロディを繰り返す。それをたるいと思ったのかな。どちらがいいか。うーん。きれいなメロディだから、本盤テイクもこのデモの構成でよかったかも。

 なおエンディングのギター・リフはメロディ2回歌ってから入る。このリフ入れて、メロディ2回目歌うってのは?それがめんどくさくて、ボブは歌1回にリフで終わりにしたのかも。 

23. Man Called Aerodynamics [Concert For Todd Version] 2:10

 98年の録音とある。もやもやにテープがよれて、ひどい音質の曲。ボブのギター弾き語り。公式には"Under The Bushes Under The Stars"(1996)に収録。GbVdbによると96年のツアーで頻繁にライブ演奏したらしい。だとすると98年録音ってつじつま合わない。デモ録音だし、もっと前に作成の音源かな。
 
 "Concert For Todd"とは没アルバムのタイトル。この時期にいったん練り始めて、曲目すら完成せずに頓挫したようだ。

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