グンデルサンシントリオ 「円○満」(2008)

 のどかな民族音楽の皮をかぶったサイケ・プログレの好盤。

 ライブ演奏を記録でなく、非日常性として捉えた。

 民族音楽は暴力的だ。音色一発、イメージ一音で先入観や固定観念を植え付けてしまう。本盤でいうと、沖縄音楽。切ない音色と穏やかな雰囲気。寛ぎと開放感で慰撫する。そんな思い込みがぼくにはあった。
 だが本盤を何気なく聴いてて、特に後半に来たとき、本盤のがっつりプログレなグルーヴを内包したアンサンブルの、ほのぼのした凄みにやられた。

 本盤買ったのは2014年の初め、高円寺百景のメンバーとして坂元健吾(b)がライブのときに物販で持ってきた。特に予備知識無く買ったが、プログレ風のダイナミズムを求める無意識にあり、本盤へサイケな幻想性を投影するのかもしれないな。

 グンデルサンシントリオはインドネシアのガムラン楽器グンデルを弾く亀島良泉、三線のコウサカワタル(ステレオ・サンシン・インプロヴァイザーと称する)、エレクトリック・フレットレスベースのPUNCH!!坂元健吾の三人。
 そこへ立岩潤三(ダラブッカ、フレーム・ドラム)尾上祐一(リボンコントローラー、回擦胡)、麻矢鈴(ダンス)、坂田学(カフォン)加藤雄一郎(ソプラノサックス)がゲスト参加の構成だ。ダンス演者もクレジットあるが、残念ながらCDゆえにその様子はわからない。この中で聴いたことあるのは立岩潤三のみかな。

 アンサンブルを見ても一筋縄ではいかない、変則なものとわかる。鍵盤の和音性を排し、リズム楽器が4人。リードが三線/リボンコントローラー/S,saxと3人。アンバランスだ。
 けれども音一発で、沖縄旋律の強烈なイメージ戦略でのどかに聴こえてしまうのが始末悪い。だがその奥底に強烈なアグレッシブさを持つ。もちろん穏やかに慰撫する温かさも、狙ってるとは思うが。

 ちなみにグンデルや回擦胡ってのは、こんな楽器。回擦胡は本盤の奏者、尾上祐一のオリジナルとある。
 

 さて、本盤。トリオ編成にゲストを招いた07年6月15日のライブ盤で彼らの2ndになる。
 昼は那覇市立銘苅小学校、夜はライブバー・1mileでの演奏風景を一枚のアルバムに封じ込めた。
 昼のほうは公開レコーディングと銘打ってたらしい。当時の記事がネットに残っていた。「草原の馬乗り」「シシマイ」など4曲を演奏したそう。
 つまり地域社会の貢献みたいなオファー受けた演奏じゃなく、子供たちの反応を収録も意識した前のめりの録音だったんだ。

 前半4曲が、その小学校音源。子供たちのざわめき。体育館を歩く上履きが、床と擦れてきゅっと鳴る。グンデルが学校チャイムの音を出し、そのまま曲へ。緩やかに三線とベースが加わった。
 子供たちは音楽を静かに聴くでもなく、賑やかに騒いでる。その騒々しさが浮かんでは消えていく。冒頭はかなり大きくミックスされ、演奏とクロスフェイドするようにざわめき程度に。でも写真みるとお行儀よく聴いている。もしかしたら子供たちの喋りは完全にダビングかも。

 (2)ではフレームドラムの奥深い響きに子供たちが歓声を飛ばす。少しばかり声にフィルター加工してるっぽい。上下が切られ、意味性がはぎとられランダム性として音楽にかぶされた。充満する回擦胡の響きと三線のアルペジオ、倍音たっぷりに響くグンデルとパーカッション、そっと支えるベース。全員の音が幻想的に広がる。子供たちの声は無秩序に笑いさんざめき、楽曲の流れをむしろ妨害する。

 だが無邪気さをもち演奏の邪魔ではなく、音楽が日常から乖離するさまを表現するかのよう。なおエレキギターっぽい音色(回擦胡かな?)と三線のソロ掛け合いでは、ぐわっと歓声が上がった。
 まさにオーディエンス・ノイズな子供たちの声と、ライブに即した観客の歓声。相互が混ざり合い、非日常性の混沌へ誘われる。

 (3)でもう一度グンデルで校庭チャイムで掴みを入れて、アドリブに雪崩れる。むずかる子供の声を大きくミックスして、なんとも居心地悪さと子守歌の穏やかさ、双方の空気を立ち上らせた。
 ここでは三線も鳴るが、むしろグンデルの酩酊性をフィーチュアした。

 (4)は牧歌的な雰囲気を持つ。アンサンブルが素晴らしい。
 ハーディ・ガーディみたいなドローンを出す回擦胡に、ソプラノ・サックスが軽やかなアドリブを載せた。ベースがじわっとグルーヴをえぐり、カウンターのフレーズがグンデル。そしてダラブッカとカホンが多層的なビートを出した。

 なお(1)が沖縄古典音楽で(2)が沖縄民謡。(3)がジャワ民謡で(4)がゲストの尾上のオリジナル曲。ここでメンバーでなくゲストの曲を取り上げるのが鷹揚だ。4曲しか演奏しなかったのに。

 (5)以降が1mileでのライブ。ざわめきからダラブッカとカホンのビートがそそり立ち、乾いたリズムを提示した。
 今度は子供たちのざわめき無しで静かに"シシマイ"が演奏された。三線の響きが、メロディ・ラインの旋法ゆえに、強烈な沖縄音楽を感じてしまうけれど。アレンジや演奏のテンションはのどかな沖縄民謡ではなく、もっとアグレッシブなチェンバー・プログレだ。次第にテンポを上げ、アンサンブルで加速するスリルが堪らない。
 ソプラノ・サックスに対抗するエレキギターっぽい音がリボン・コントローラーだろうか。リズムとベースでグルーヴを作り、伸び伸びとソロの応酬が聴ける。

 なお(5)がインプロから(2)の沖縄民謡へ。(6)の作曲者"Aromatic Ocean"は不明。沖縄のバンドだろうか。(7)は普久原恒男とクレジットあるが、普久原恒勇の誤記。沖縄の作曲家で、(7)は代表曲だそう。
 (8)と(9)はグンデルサンシントリオのオリジナル。(8)はもしかしたら、かなりのところまで即興かもしれない。
 
 (6)は牧歌的な雰囲気。ベースがメロディ的なラインを紡ぎ、ソプラノ・サックスが自由にアドリブをとった。カホンとダラブッカがリズムを膨らます。つまりここでは、グンデルサンシントリオでなく、坂元とゲストのみの演奏だ。

 グンデルが響く(7)は三線がメロディを紡ぎベースが支える、トリオ編成がイントロ。やがてゲストたちも加わって、柔らかく音楽を膨らませていく。三線がメロディを維持して、周りのメンバーが密やかにオブリを加える格好だ。
 素朴で力のこもった旋律は強靭で、どんなオブリが加わろうとブレない。そしてゲストたちは思い思いに自由な音を加えていった。

 沖縄旋律が生きることで民族性を意識はさせるけれど、やはりこの音構造はプログレ的な盛り上がりあり。観客の子供がむずかる声が加わるのはご愛敬。フレンドリーなライブっぽいともいえる。
 曲が終わった後の歓声もすさまじい。曲中でぐずってた子供は、メンバーかゲストの家族らしい。
 
 圧巻が(8)。極上のインプロだ。
 三線が沖縄的なメロディを奏でる以外は、奔放で自由なインプロだ。雄大でサイケな風景が広がり、リズムはしなやかで煽らない。
 ふっくらしたサックスがアドリブを紡いだ。穏やかで寛ぎつつ、しっかりとサウンドは締まってる。リボン・コントローラーがうにょうにょと蠢き、サックスはひらひら鳴る。三線が消えると民族音楽風味が溶けて、無国籍の音像に。最後はあっさりと消え去るように終わった。

 ライブのクライマックスを封じ込めた(9)。威勢よく盛り上がり、そのままぐいぐいとアンコールへ。この日の賑やかな様子を見事に追体験できる。
 だが冒頭に書いたように、この盤は記録ではない。昼と晩の演奏をもとに、新たな非日常を、いわば異世界を狙った盤だ。

【収録曲】
1.かぎやで風風
2.シシマイ
3.ウィルジュン
4.草原の馬乗り
5.リズムセッション~シシマイ
6.国際通り 22:00
7.芭蕉布
8.沖縄という宇宙船
9.十五の恋~カチャーシー

【演奏】
Personnel:
グンデルサンシントリオ
 亀島良泉:グンデル
 コウサカワタル:三線
 PUNCH!!坂元健吾:フレットレス・ベース

立岩潤三:ダラブッカ、フレームドラム
尾上祐一:リボンコントローラー、回擦胡
麻矢鈴:ダンス
坂田学:カフォン
加藤雄一郎:ソプラノサックス

 坂田学がいないだけで、あとのメンバーは本盤と同じライブ映像。麻矢鈴も見られて、当日の様子が伺える。レコ発で行われた08年10月12日、六本木スーデラにて。

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