Cuts of Guilt, Cut Deeper (2015:RareNoise)

 可能な限り、でかい音で聴きたいアルバム。

 Merzbow, Balazs Pandi, Mats Gustafsson, Thurston Mooreの4人がセッション形式で14年4月13日にイギリスのスタジオ録音した音源。録音やマスタリングにメルツバウは関与せず、あくまでミュージシャンとして参加した。
 
 本盤の仕切りはパンディかな。ハンガリー人のドラマーで、バンドに所属せずさまざまなミュージシャンと共演する活動スタイルみたい。
 メルツバウとの共演は"Live At Fluc Wanne, Vienna, 2010/05/18"(2010)までさかのぼる。このウィーンのライブはLPにて500枚限定発売。その後"Ducks: Live in NYC"(2011)、"Katowice"(2012)と盤を重ねてきた。

 このデュオへフリージャズ界からマッツ・グスタフソンを加えたトリオ編成が、"Cuts"(2013),"Live In Tabacka 13/04/12"(2015)とリリース。後者は400枚限定のLPでスロヴァキアのライブを収録した。
 そして本盤へ。ロック界からサーストン・ムーアを招いたかっこうで、メルツバウとグスタフソン、パンディのトリオでは3rdアルバムにあたる。

 ドラムやアナログ楽器にも興味が映っていたメルツバウだが、本盤ではハーシュ・ノイズに徹する。オルークの色に染められた"Flying Basket = すっ飛び篭"(2015)とは異なり、本盤では全員が明確で痛快なノイズを存分にばらまき、のびのびと他のメンバーと渡り合うドラマティックで味わい濃いセッションを繰り広げた。

 グスタフソンはサックスだけでなく電子楽器も使用。ムーアはディストーション効いたエレキギターを軋ませる。必然的にドラム以外はノイズが噴出する音像へ。09年の月間"日本の鳥シリーズ"を連想させる。力強いパワー・ハーシュが溢れる爽快盤となった。

<全曲感想>

1."Replaced by Shame - Only Two Left" 19:46

 アルバムは全4曲、ちょうどアナログ2枚組に収まるタイム感だ。実際、500枚限定でアナログも発売された。それぞれの曲目は思わせぶりなタイトルだが、何かの引用かは不明。

 グスタフスンのブレスが生々しく響き、小さめの音でムーアがギターを軋ませた。物理的なボリュームとは別次元で、ミックス卓で操作されたかのような音量バランスだが、これはこれで面白い。
 ギターはボリュームを上げ、おもむろにドラムも加わる。サックスがオーバートーンをばらまいた。そして、メルツバウの登場だ。

 明確なソロ回しこそないものの、なんとなくそれぞれが順番に見せ場を作るような楽曲構成が面白い。ドラムの連打がぐいぐい煽る。ミュージシャン同士の斬り合いって意味では、本盤でもこの楽曲が抜群の出来だ。

2."Divided by Steel. Falling Gracefully." 17:42

 カットアップな場面も。ドラムが音楽の連続性を意識させるが、意外とあちこち編集かもしれない。断続的にノイズが沸き立ち、漂う。ドラムが淡々と空気をかきまぜた。ザクザク軋むエレキギターの音が、むしろ目立った。ノイズは背後の空気へ溶けていく。

 おもむろに姿を立ち上らせ、咆哮するエレクトロ・ノイズ。加速する別の音がグスタフソンか。サックスの音は良く聴こえない。
 中盤からハーシュが持続し、ときおり揺らぎながらも思い切り力押しで疾走する。ビートも消え、ひたすらノイズが充満した。ひとしきりうねったあと、ギターやシンバル連打が加わる。こういう力強い展開とメリハリあるアレンジが痛快だ。

 轟音ほど、この楽曲の魅力は映える。スペイシーなしゅわしゅわ言うノイズが一杯に膨れ、溢れた。ドラムはむやみに自己アピールをせずアンサンブルの構成を意識してる。
 そう、本盤のセッションはやたらとてんでに轟音出し放題じゃなく、ある程度の流れを全員が意識した。そのため音像が引き締まってる。

3."Too Late, Too Sharp - It Is Over" 21:04

 金属質にキラキラ光る音はエレキギターのムーア、乾いた太鼓はもちろんパンディ。フィードバックや電気ノイズはどっちだろう。本盤は明確なハーシュ・ノイズを除き、グスタフソンとメルツバウの役割分担が、うまく聴き取れない。
 冒頭はノイズが鳴るものの、比較的アコースティックで生楽器演奏のダイナミズムを生かした音像だ。

 次第に轟音の強度が増す。だがすっきりした音像は変わらない。ムーアはきらきらする響きをギターで表現し、ドラムも深胴の奥行きある響き。エレクトロ・ノイズがざわめき、不穏さを漂わせた。

 いわばフリージャズなスタイル。ストイックに全員が音を出し、寄り添いながら併せない。ドラムが何となく軸を作り、ハーシュが膨れ上がるにしたがって、次第にテンションを上げていく。こういうアプローチも、かっこいい。なによりメルツバウが素材にとどまらず、きっちりと対等に存在が嬉しい。意外と、難しいんだ。過去のいろんな共演作を聴いてて思うが。

 8分過ぎで強い風のようにざらついたフィルター・ノイズが沸き立って空気を虐める。このあたりから、ときおりムーアも音を歪ませてきた。キラキラ音が続くのは、その場のサンプリング・ループかな。

 あまり性急に駆け抜けず、冒頭のすっきりしたフリーな風景へ。断続的にノイズが鳴り、パンディはフロアタムを軽快に鳴らす。決してだれもが力任せにならない。余韻と間を意識した美しいプレイだ。

4."All His Teeth in Hand, Asking Her Once More" 23:22

 一転してハイテンション、冒頭から軋み音とドラムの乱打。ハーシュが炸裂した。グスタフソンもノイズだろうか。どうもサックスの音が聴き分けられない。うねりを抱えて大きなグルーヴを作り出した。
 鈍く電子音が空気を切り裂く。手数多く叩きのめすドラムを底に配置し、拍を無視してムーアがエレキギターを唸らせた。

 むしろノイズのほうが冷静に聴こえる。総勢で燃え立つ中、ドラムとハーシュが個別にテンポ感を作った。つるべ打ちに畳みかけるスピードと迫力がたまらない。
 わかりやすく小気味よい、アナログ的なノイズ世界が構築された。

 単なるセッションのはずだが、実にメルツバウらしいオーケストレーションが産まれてる。ただし、物語性は希薄だ。この辺が自然発生っぽい。メルツバウのソロならば、もっとドラマティックな展開もあり得たが。
 けれどもサウンドそのものは刺激的。やはりボリューム上げるほどに聴こえる情報量が増え、音圧が増す。パワーと魅力も増していく。

 12分過ぎ、バリトン・サックスの咆哮が聴こえた。エレキギターと斬り合い、メルツバウのノイズが漂う。連打するドラムは激しい。しかしこのドラム、つくづく秋田昌美とタイプが似ている。あまり前後にテンポを揺らさず鋭角に叩きのめすところが。

 グスタフソンはメロディより単音を絞り出してるだけながら。この瞬間、いかにもセッションらしい4人のキャラクターが明確に立った。埋もれさせず、4人をすっきりと分離したミックスに仕立てた処理も綺麗だ。

 最後でグッと、グスタフソンの存在感が増した。ビブラートをぐいぐい効かせながら、二つの音を丁寧にロングトーンで繰り返していく。単純ながら、ロマンティックな構造だ。
 ロングトーンはムーアに引き継がれ、ディストーションの貫きが野太く揺れた。背後にメルツバウが佇む。ドラムがゆっくりとテンポを落とし、幕。素晴らしい。

Masami Akita - noise electronics
Mats Gustafsson - reeds, live electronics
Thurston Moore - electric guitar
Balazs Pandi - drums

Recorded at April 13, 2014 on The Park Studios, London
Daniel Sandor - recording engineer, mixing

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