TZ 8337:John Zorn "James Moore Plays The Book of Heads"(2015)

 DVDが主でCDがおまけと言っていいアルバム。


 即興音楽は音だけだとそっけない。だけどライブ、もしくはせめて映像だけでもあると、音楽への印象がガラリ変わる。純粋に視覚的な情報量が増え、どんな感じで音を出してるかわかり、親しみ増すから。本盤も、まさにそのパターンだった。

 本盤はDVD一枚にCD一枚。DVDは録音風景を撮影し、映画にまとめた。単なる記録にとどまらず、会話やほんの少しの準備風景も混ぜて、録音の様子そのものを映像作品に仕立ててる。
 CDはそこから音楽のみを抽出の、いわばサントラ。音楽のみを楽しむなら、もちろんCDだけで成立する。しかしこの作品そのものを味わうには、やはり映像。きちんとマルチカメラで撮影され、編集がちゃんと施された映像作品あってこそだった。
 演奏もやっつけではない。なかにはテイク4と言う場面も。単なる勢い一発の録音ではない。

 本楽曲は76-78年に若かりしジョン・ゾーンが作曲した、全35曲のギター独奏小品集。パンクな仕上がりだがむしろ現代音楽のアプローチに近い。以前にマーク・リボーの演奏で"The Book of heads"(1995)としてTZADIKでリリースされた。

 今回は再録音となる。でもリボーの盤が非常に突き抜けた即興作品に聴こえたため、正直あまり期待せずに聴き始めた。なぜ本盤を敢えてリリースするんだろう、と。ゾーンは自らの再生産に興味が行ってるのか、と邪推してた。
 ところが全く違う商品パッケージに仕上がってた。映像付きで多面的に本楽曲を味わえる仕組み。というか本盤は、先に映像を見るべき。それでグッと、本楽曲への印象が変わる。茶目っ気や遊び心ある特殊奏法が、いかに刺激的な音楽に至ったかを実感できるため。

 なおJames Moore自身も本楽曲を再演のようだ。Youtubeへ2012年6月16日に本曲を演奏したライブ映像が上がっていた。


 今回はブックレットにほぼ全曲の楽譜が載っている。最後の曲だけ、載ってない。
 小さすぎて何が書いてるかは読めないけれど、図形楽譜に近い。音列の高低パターンや流れのみが指示され、あとは細かな特殊奏法が書かれたと思しき、抽象的な譜面だった。
 
 ムーアはくそまじめに"The Book of Heads"と向かい合う。プリペアードや棒を瞬間的に挟んだり、金属を弦へ押し付けたり。風船をピック代わりに使ったりと、ほとんどまともにギターを弾かない。スライドバーも多用した。
 中でも、演奏冒頭に弦を一本ペンチで切って、そのまま張り替える音そのものを音楽に仕立てる場面は、映像ならではの醍醐味だ。

 ジョン・ゾーンの才能にも呆れる。よくぞこれまで、さまざまな変則奏法を思いついて曲にまとめたものだ。そして短く次々と一曲を終わらせてしまう。そっけなくも潔い、切り捨てっぷりも合理主義な彼っぽいスタイル。

 おのおのの楽曲は、1分くらいでほとんどが終わる。けれどもたぶん、もっと一曲を長く延々と展開させることもできたろう。よほどのファンでないと、途中で飽きると思うが。
 それに気付いてるゾーンは。ショーケースのごとくアイディアを並べ立て使い捨てる。即興のアイディアそのものに拘泥せず、羅列と蓄積によるスピード感に価値を見出した。

 改めてリボーの盤を聴き返した。もちろん細部は違うが、大まかなイメージはけっこう本盤と共通する。ムーアもリボーもゾーンの抽象的な本作に向かい合い、真剣に演奏しており、なおかつこの譜面は、意外と再現性高いことにも驚いた。

 そしてこの楽曲、意外とリズム面でのアプローチが弱い。特殊奏法に軸足置くあまり、静謐もしくは断続的な旋律が続く。だからこそ、たまにムーアが弦をかき鳴らす瞬間のスリルがかっこいい。

 本曲は特殊奏法の嵐を散々繰り広げた後、35曲目でいわゆるメロディアスな楽想に変わる。その譜面だけ、このブックレットに載っていない。どんな楽譜だろう。

 ムーアは最後にしみじみと、センチメンタルで柔らかなメロディを静かに奏でた。表情をみせぬ、背中からの撮影で。この効果も素晴らしい。

 これらはムーアが本盤の宣伝を兼ねて、ラフな映像で演奏風景を撮った映像群。
 

 いやはや、すごいアルバムだ。見事な楽曲だ。映像を見たあと、ジャケットを見直す。とても必然性あるジャケット・デザインだとわかる仕掛け。

Personnel:
James Moore:Guitar

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