TZ 4003:Phantom Orchard Ensemble "Through The Looking-Glass"(2014)

 電子音と生楽器による混沌ながら、精緻で美しい融合。

 Phantom Orchardはイクエ・モリとジーナ・パーキンスによるユニット。"Orra"(2008)が、Phantom Orchardオーケストラ名義で"Trouble In Paradise"(2012)を発表した。さらに本盤はPhantom Orchardアンサンブルと名義を変えている。より室内楽的なアプローチを志向か。
 ちなみにオーケストラとアンサンブルのメンバー違いは、アンサンブルのほうにShayna Dunkelman(per)とHild Sofie Tafjord(French Horn, Electronics)の二人がいないだけ。あまり大幅な人数の増減が無い。

 曲ごとにアプローチはかなり違う。共通は若干の密室的なアンサンブル志向だけ。滑らかで繊細で、不可思議で幻想的で浮遊する。つかみどころ無く、しかしまとわりついてくる。面白い音楽像がいっぱい詰まった楽しい盤。メロディとノイズが並列し、電子音と生楽器がごく自然に溶け合った。

 (1)は細野晴臣を連想する音色を使った、アンビエントな環境テクノで幕開け。やがてノイジーに鳴っていく。だがまたブレイクしたりと行きつ戻りつ。頻繁に場面転換するせわしなさだ。
 和風風味な(2)はミニマルなフレーズが次第に膨らんでいく。サンプリング・ループへチェロの重厚な響きが加わり、迫力につやが増す。静かなビート感と繰り返される酩酊性が、神秘的な世界を描いた。わずかなメロディも次第に、抽象的なノイズやチェロの乱れ弾きに埋もれていく。

 (3)はPC中心の電子音楽。ランダムなフレーズがきらきらと鳴る。ジーナがエレクトリック・ハープを足してるかもしれない。電気仕掛けな一方で、どこか生演奏風のランダムさが残るところが、本盤の特徴だ。
 逆のパターンが(4)。弦の軋みやハープもしくはピアノが音をばらぱらと流れ、電子音が混ざって浮遊感を演出した。

 現代音楽風の緊迫さが(5)。息音を中心の女性声と、ピアノやハープの音列へ、リズミカルなパーカッションが乗る。リズムはイクエ・モリのPCかな。即興かもしれないが、本盤の他の曲と異なり、作曲っぽさが強い。
 リズムは一定でなく、曲が進むにつれスリルを増す。すごくかっこいい。

 (6)は電子音で始まり、ハープとチェレスタのデュオへ。ジーナのダビングか。そこへイクエのパーカッシブな電子音が足される。他のミュージシャンが参加してるとしても、非常にデュオっぽい音像だ。
 超高音域の残響や倍音が充満する(7)は、抽象的だが非常に気持ちいい。軋むノイズがよじられ、高らかに広がった。

 揺れるバイオリンとチェロの絡みにハープやピアノ、電子音がぶつかる(8)。不安げだが安定感ある響きで、しとやかな音像が広がった。これもチェロがベース役でアンサンブルを引き締め、即興とも作曲ともつかめぬ細やかな構成だ。

 (9)も現代音楽寄り。まず弦が世界を作り、後ろで静かに電子音のキラキラした響きが足されていく。周辺の空白を埋めるかのように。この曲も、静かできれいだ。冒頭しばらくして軋む音のノイズが音の主役になるけれど。暗黒風味すらも浄化するハープや弦の涼やかで複雑な構造が美しい。

 この盤は終盤に小品が並び、つるべ落としにアルバムが終わってしまう。3分、2分、1分とカウントダウンのように3曲が並んだ。
 (10)は弦とハープがランダムに絡み、電子音が世界を広げる密やかで複合リズムが飛び交う。

 小さなバネが弾み、ゴムが軋むような電子音のうねりが詰まった(11)は、とてもノイジーなシロモノ。ボリューム上げると迫力を増すが、低音成分が少ないせいか軽みもあり。エレキギターの歪みっぽい場面がカットアップのようにせわしなく暴れた。

 そして最終曲(12)。嵐の波打ち際か、雨降り注ぐ窓の外か。細かい電子音と風が飛び交う。冒頭の抽象性は落ち着いていた。ここではどことなく、性急だ。

Personnel:
Sylvie Courvoisier: Piano
Ikue Mori: Electronics
Zeena Parkins: Acoustic And Electric Harp, Celesta
Sara Parkins: Violin
Maja Solveig Kjelstrup Ratkje: Voice, Electronics
Maggie Parkins: Cello


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