Prince 「Prince」(1979)

 改めて、売れ線狙いの再デビューめいた盤。後年の萌芽もいろいろ。

 ソウルでは自らの名前を冠したアルバムって、山のようにある。デビュー、もしくは心機一転の機会にも使われる印象あり。デビュー二作目、前作のロックとソウルの混交と多重録音の密室性を追求の方向もあったろうが、プリンスは本作で、もっと開放的なヒット狙いを図った。
 Wikiによるとデビュー作が全米163位どまり。本作は22位まで上がり、プラチナ・アルバムに。意図はまさに成功した。
 
 アルバムはキャッチーさと、多重録音ならではのこもったグルーヴ。そしてシンセを前面に出したコンパクトさで統一した。だがところどころに、彼のこだわりと天才性が滲む。のぺっとしたシンセの響きが、少々単調に聴こえてしまう。ドラムは妙に軽い音色を選び、重厚さより洗練されたしなやかさを選んだ。

 A面は穏やかなファンクネスを滲ませる、ダンサブルな曲を並べた。だが簡単に踊らせず、どこか躊躇いやひねりを感じさせるのがプリンスの味わい。
 (1)はまさにヒットで初期の代表曲になった。。ギターと鍵盤が絡むアレンジも抜群だ。ただし、ドラムが弱い。低音も。軽やかなハイトーンのボーカルと、しゃっきりと刻む数本のエレキギターとシンセで多層グルーヴを積む。ドラムはリズム・ボックスかってくらい、抑え気味。
 もっとズシンとベース効かせてドラムを押す手もあったはず、だがサウンドのパンチ力より浮遊感を前面に出した。プリンスの意向か、スタッフのアドバイスかは不明だ。
 
 一通り歌が終わったところで、延々と後奏が続く。これがつらい。アドリブ・ソロを繰り出すでなく、新たなリフを出してアンサンブルが絡む。2分くらい。12インチ・シングルでもないのに。アルバムの最後ならまだしも、冒頭1曲目からこれって。LPかけっぱなしのダンス・アルバムを狙ったか。せめてギターや鍵盤のアドリブを弾きまくりなら、違う感想になった。
 もっともシンプルなドラムで淡々としたフレーズを載せて酩酊気味に走る、独特のグルーヴは後年のプリンスに通じる味わいあり。

 (2)も鍵盤が前面。一拍と三拍で四分音符を押してノリを貯めるのはギターでなく鍵盤。ライブでギター弾きながら歌うってアレンジを想定してないのか。
 この曲はサビ前の性急さが魅力だ。溜めて華やかに盛り上がる。
 しかし録音は丁寧だ。歌声でなく鍵盤が幾層にもダビングしてる。ギターもリフの一つに埋めて、アンサンブルにふくらみを持たせた。この辺は一人アンサンブルならでは。
 最後一分くらいになって、おもむろにエレキギター・ソロが登場。終盤でユニゾンにしてテクニック追求のひけらかしも忘れない。かっこいいね。

 シャープなギターを前面に、前曲と方向性変えた(3)。メロディは薄めに、乾いたギターのカッティングで空気を切り裂く。のちのヒット曲"Kiss"につながるアプローチ。
 この時点では引き算より足し算のアレンジが勝っており、歌もギターも鍵盤も、すっきりしつつ厚みあり。ファルセットとウィスパーという、およそマッチョイズムと逆ベクトルの歌声を駆使し、怪しいセクシーさの演出を狙った。この曲もアウトロが長い。アドリブでなく、リフのアイディアで場面を変えるのはプリンス流。
 ドラムは(3)だと、いくぶん存在感あり。たとえば(1)で、このドラム・バランスなお終盤でパクッとしたシンセ・ドラムの音色も。これが"パープル・レイン"で結実する、プリンス流スネア・ドラムの結晶となる。

 A面最後はスロー気味。ただしドラムは刻みをしっかりで、BPMはキープされ、ばらードにならない。ギターが硬質に鳴り、アコースティックさを生かしたアレンジが痛快だ。
 つぶやくファルセットで歌われるこの曲、ワンコードで押す。展開でなくシンプルに。例えばJBのようにグルーヴの持続狙いで同じフレーズを繰り返す、って方向性じゃない。この曲はスロー気味だ。すなわち甘くドラマティックに盛り上げるタイプもあったろう。
 けれどプリンスは曲を展開させない。同じムードが延々と続く。停滞してるかのよう。それが、独特などこかへ行きそうでいかない浮遊感になった。

 さらにこの曲ではピアノがときおり滑らかな音符をばらまく。曲によって違う楽器演奏のテクニックを魅せる。アルバム一枚を同じトーンにせず、異なるムードを詰め込んだ。この多方向性も、プリンスの色だと思う。

 アルバムのバランス的に、この曲をA面最後に置くセンスはちょっと謎。(6)を持ってきて、A面とB面の色を変える手法もあった。というか、B面で甘いムードに浸ろうと思ったとき、"バンビ"のロック性が邪魔なんだよね。

 さて(5)。B面トップを甘く盛り上げる。(4)と打って変わって、コード進行が滑らかに膨らんで、甘くしっとりと別世界に連れてってくれる。これもシングルに向いてるが、なぜかアルバムのみ。
 むしろアルバムを締めるのにぴったりな、隙の無い世界。なのにB面冒頭に持ってくるという。あまり語られないが、とびきりの名曲だ。ファルセットを中心ながら、ときおり地声をちらつかせる危うさが、生々しくて良い。歌い上げるところの透明感は格別だ。コーラスを入れず、メイン・ボーカルのみ。シンプルに自分の歌を強調した。

 ストリングスを狙ったシンセの音が、どうにも安っぽいのが難点。多重録音に拘らず生の弦が欲しいが、そしたら暑苦しくなっちゃったかな。
 伴奏のメロディも美しい。隅々まで目配り効いたアレンジだ。

 で、(6)。前盤最後のギター・ソロひけらかしに通じるアップテンポな曲。(5)での寛いだ気持ちが、いきなり蹴飛ばされる。ロックを大胆に取り入れつつも、スネアでなくウッド・ブロックをアクセントに持ってきて、奇妙な軽みを狙う謎なアレンジ・センスも炸裂した。
 あくまで歌が主役で、エレキギターぶら下げライブを盛り上げにぴったりな曲。
 でもドラムが野暮ったい・・・前へ向かって突き進むより、べたっと足を止めてしまう印象がぬぐえない。

 ギターと鍵盤の絡みを抜群に混ぜたアレンジ力が炸裂の、爽やかな曲。むしろ毒気が無い。ファルセットで親しみやすく迫ってくる。ドラムは刻みを強調し、キックとハイハットが巧みに存在を主張した。
 あらゆる楽器をすべて自分で演奏してるせいか、この時点は「どれかの楽器を生かす」よりも「場面ごとに生かす楽器を変える」ってアレンジに感じる。ミックスにメリハリを出し、ボーカルの印象を強く出しつつ、細かく聴いてるとアレンジの精妙さにしびれる。
 女性コーラスっぽいのも、プリンスのオーバーダブしてるハーモニーと声域が似通ってて、どっちかわからなくなる。女性コーラス、だよね?

 チャカ・カーンのヒットで一気に株を上げた(7)。むしろプリンスのオリジナルのほうが、野暮ったい。
 ポイントはここで、地声を匂わせたところ。左右へ極端にボーカルを振って、地声とファルセットでデュエットぽさを演出した。ファルセット一本やりでアルバムのイメージを完結させず、常に期待を裏切り続ける。ひねりつづけるプリンスだ。幾度もボーカルがダビングされ、複雑さを出した。
 感想でフリューゲル・ホーンっぽいのはシンセ?他のミュージシャン?
 キャッチーなリフを次々繰り出しながら、どうもドラムが弱い。テクニックとは別次元だ。不思議。ギターだとあれほどシャープなのに。リズム感で、何が違うんだろう。もう少し聴きこむかな。

 アルバム最後の(9)はしっとり気味の佳曲。このドラム、なんだよ。アルバム全体に欲しいリズム感とミックス・バランスは。歯切れよく鳴り、タイトで滑らかに刻む。
 他の楽曲と違い、明らかにドラムがでかいミックスだ。なぜ楽曲ごとにここまで極端に、楽器バランスが違うんだろう。多方面の要素をみせたい、プリンスの趣味と思うが。

 しかし、聴くたびに色々と気づきがある盤だ。後年に比べ、まだあちこちに隙がある。でもアレンジは考え抜かれ、丁寧にダビングが繰り返されてる。
 その反動のように(プリンスの意図と異なるって噂もあるが)、続作"Dirty Mind"では荒っぽくなる。

Track listing:
1."I Wanna Be Your Lover"  
2."Why You Wanna Treat Me So Bad?"  
3."Sexy Dancer"  
4."When We're Dancing Close and Slow"  
5."With You"  
6."Bambi"  
7."Still Waiting"  
8."I Feel for You"  
9."It's Gonna Be Lonely"  

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