大友良英 New Jazz Orchestra 「LIVE Vol. 1 series circuit」(2006)

 偶発性と知的解釈のせめぎ合い。根本は、心地よい音波だ。

 大友良英の作品は、まったく即興的で意味を剥奪したノイズに見せかけて、山のように解説が成立する深いコンセプトを持っている。大友がどこまで意識的かはわからない。韜晦とも、言語化を放棄とも思える。
 すべてを解釈なんて不可能だし、野暮だ。でも無邪気な音楽の発露と、理論化への強烈な感情のせめぎ合い。その二面性が大友の特徴と思える。

 本盤は2タイトル連続発売なライブ盤の1枚目。双方2枚組の大ボリュームで、日本各地とベルリンで05-06年のライブが収録された。曲順も演奏場所もすべてをぐしゃぐしゃにして。この選曲や曲順にコンセプトは無い、と発売レーベルでコメントが出されている。
「ただし曲順に関しては頭から最後までしっかり聴いていただけるような配慮はしてありますのでご安心ください。」と添え書きつき。
 安心しない人っているのだろうか。

 ともあれライブと音盤は別物だよ、と意味深に書いてるように思えてならない。
 ここでは思ったことをつらつらとメモしたい。音楽的なあれこれよりも、むしろコンセプトへの深読みって観点で。

 なぜならば、本盤の音楽に解釈は無用だからだ。ジャズ・カルテットの様式美から解放され、メンバーを拡大かつ柔軟化させ、笙やサイン波の音響そのものを扱う大友良英ならではの、「周波数アンサンブル」を拡大させた。
 本当に心地よい、ジャズを下敷きにした大友流の音楽が伸び伸びと広がっている。

 さて、まず本盤に至るONJ*の歩みから。
 "山下毅雄を斬る"(1999)でONJQのクレジットを登場させ、5人編成のコンボ・ジャズと改めて大友は向かい合った。過去のトラウマを克服するかのように。ライブや録音は別として、ONJQは1stアルバム"Flutter"(2001)から、"Tails Out"(2003)にいたる。
 まさに文字通りの意味で、発展的解消しONJO名義で"Otomo Yoshihide's New Jazz Orchestra"(2005),"Out to Lunch"(2005)と矢継ぎ早に充実したアルバムもリリース。
 その後のツアー音源を収録が、本作に至る。ものすごくおおざっぱなまとめだが。

 本盤収録は、"山下~"(1999)からD1-3,-2。"ONJO~"(2005)からD1-1,D2-2(後半)。"Out to Lunch"(2005)からD1-2,D2-1(前半),D-4。
 D1-4,5とD2-3はライブならではの実験音楽で、D1-6は未音盤化で当時に発表したNHKドラマの主題歌。つまり極初期を振り返りつつ、あとは最新活動とじっくり向かい合ったリアルな選曲だ。
 なおD2-4はONJQ時代の"Live"(2002)で取り上げており、ONJQ時代が断絶しないようダブル・ミーニングの一貫性も持たせてる。

 大友は自らのWeb日記で東京と名古屋公演のセット・リストを上げた。
http://d.hatena.ne.jp/otomojamjam/20060215
 本盤にはこの東京2days二日目から、D1-2, 4-6とD2-3とかなりの音源が収録された。新宿2丁目ストリングスを入れた実験作品の音盤化も狙ったためと思われる。でもすべて東京音源に仕立てず、名古屋や京都、ベルリンの音源も混ぜて各地のライブへ行ったファンへの記録共有も図る。この辺はファンの気持ちが良くわかってくれてて嬉しい。とはいえぼくは、どのライブも体感はできてないのだが。
 
 この新宿Pit-inn公演も、曲順はライブとバラバラ。セットリスト順に収録曲を並べると、こんなふうになる。
 D1-2 → 1st set 1
    4 → 2nd set 3
    5 → 2nd set 4
    6 → 1st set 3
 D2-3 → 2nd set 2
 
 つまり、微妙に順番はバラバラ。本盤の重要テーマなひとつと思われる新宿2丁目ストリングスの共演は時系列を生かしつつ、敢えて一曲だけ別にDisc 2へ飛ばした。その場の記録、の意味性を剥奪が目的と思われる。色々凝った曲順だ。
 この日のライブを見てないが、新宿2丁目ストリングスとの共演は、弦とONJO組の二つのアンサンブルを並べ、同時進行の妙味を聴かせるって構図と思われる。
 "ダブル"のD1-4は大友が弦、イトケンがONJOを指揮し、D2-3はその逆。D1-5は大友のみの指揮なため、単一指示って意味で"シングル"と冠されたのだろう。

 そして名古屋公演からはD2-4を収録した。当日は2曲目に演奏、勢いある流れの曲を本CDではクライマックスに置いた格好だ。
 
 さらにD1-3はベルリンと東京公演(06年9月浅草朝日アートスクエア公演)の演奏を繋げる、の技も。
 そのうえクレジットを良く見ると、大友はD1-3にギターとシンセをダビングの記述まで。単なるライブ記録の録って出し、に収めず様々な工夫を伺わせる。
 この辺が、大友良英の考え深いところだ。

 ・・・ここで力尽きました。音楽の感想は日を改めて、気が向いたら書きます。
 まずデータ的な解釈と総合的に思ったことまで、まとめてみた。

 音楽としては、分析要素をさまざまに配置しつつも、無邪気に聴いて楽しめる要素もたっぷり持っている。エンターテイメントとして、どんなにノイジーでも成立させる人懐っこさがある。したがって音楽が、芸術家の独りよがりに終わらない。
 この点が大友の音楽の、最も素晴らしいところだ。観客にいかようにも解釈をゆだねる懐広さと鷹揚さを持っている。聴くほどに、色々考えたくなる。
 
DISC 1
1. ロスト・イン・ザ・レイン (Berlin) 13:23
2. アウト・トゥ・ランチ (Tokyo) 16:00
3. プレイガール (Berlin + Tokyo) 4:05
4. ダブル・コマンド II (Tokyo) 6:09
5. シングル・コマンド (Tokyo) 3:30
6. クライマーズ・ハイ・オープニング (Tokyo) 8:06

DISC 2
1. ストレイト・アップ・アンド・ダウン~真夜中の静かな黒い川の上に浮かび上がる白い百合の花 (Kyoto) 23:44
2. 涙から明日へ (Berlin) 10:03
3. ダブル・コマンド I (Tokyo) 7:38
4. ハット・アンド・ベアード (Nagoya) 12:02

Personnel:
メンバー:(guitar, conduct)、カヒミ・カリィ(vocal)、(vocal)、マルガリータ・カメラー(vocal)、アルフレート・ハルト(tenor sax, etc)、津上研太(alto sax, etc)、(bass clarinett, etc)、青木タイセイ(trombone, etc)、アクセル・ドーナー(trumpet)、(笙)、Sachiko M(sainewaves)、(computer with objects)、(vibraphone)、(bass)、(drums, etc)、(conduct)+ 、(live sound)


大友良英: guitar, conductor
津上研太: alto saxophone, soprano saxophone
Alfred Harth: tenor saxophone, bass clarinet
石川高: sho
Sachiko M: sinewaves
高良久美子: vibraphone
水谷浩章: contrabass
芳垣安洋: drums, percussion

青木タイセイ: trombone, bamboo flute (Disc 1: 2-6; Disc 2: 1, 3, 4)
宇波拓: computer with objects, computer (Disc 1: 2-6; Disc 2: 1, 3, 4)
大蔵雅彦: alto saxophone, bass clarinet, tubes (Disc 1: 2-6; Disc 2: 1, 3, 4)

Axel Dörner: trumpet (Disc 1: 1)
Kahimi Karie: vocal (Disc 1: 1-3; Disc 2: 1, 2)
Margareth Kammerer: vocal (Disc 1: 3; Disc 2: 2)
伊集加代: vocal (Disc 1: 3; Disc 2: 2)

イトケン: conductor (Disc 1: 4; Disc 2: 3)
新宿二丁目オーケストラ:
Hiroki Chiba: violin (Disc 1: 4, 5; Disc 2: 3)
Shuichi Hashimoto: violin (Disc 1: 4, 5; Disc 2: 3)
Tekko Koryu: violin (Disc 1: 4, 5; Disc 2: 3)
Kazuya Takeda: violin (Disc 1: 4, 5; Disc 2: 3)
Yuto Tsukada: violin (Disc 1: 4, 5; Disc 2: 3)
Toshitaka Mukaiyama: viola (Disc 1: 4, 5; Disc 2: 3)
Mikiko Narui: viola (Disc 1: 4, 5; Disc 2: 3)
Tadanobu Kumon: cello (Disc 1: 4, 5; Disc 2: 3)
Chisato Ito: oboe (Disc 1: 4, 5; Disc 2: 3)

近藤祥昭: live sound engineering (Disc 1: 1, 3; Disc 2: 1, 2, 4)

Disc 1: 2, 4-6 and Disc 2: 3 recorded live by Yasuo Fujimura at Shinjuku Pit Inn, Tokyo, February 9, 2006
Disc 2: 4 recorded live by Yasuhiro Usui at Tokuzo, Nagoya, February 11, 2006
Disc 2: 1 recorded live by Koji Sato at Hardy Hall, Kambai-kan, Doshisha University, Kyoto, February 12, 2006
Disc 2: 2 recorded live by Yoshiaki Kondo at Haus der Berliner Festspiele, Berlin, March 17, 2006
Disc 1: 1 recorded live by Yoshiaki Kondo at Haus der Berliner Festspiele, Berlin, March 18, 2006
Disc 1: 3 recorded live by Yoshiaki Kondo at Asahi Art Square, Asakusa, Tokyo, September 16, 2006, with vocals recorded live by Yoshiaki Kondo at at Haus der Berliner Festspiele, Berlin, March 17, 2006

大友良英:guitar and synthesizer overdubbed on Disc 1: 3
Mixed by 近藤祥昭 and 大友良英
Mastered by 近藤祥昭
Produced by 大友良英 and 沼田順

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