Antimonument (1986:Art Directe)

 コラージュをノイズに溶け込ませた"抜刀隊"の姉妹作。

 以前はかなりレア盤だったが、今は配信音源で容易に聴ける。

 
 もとは86年にMerzbowのレーベルZSF Produktから225枚限定ピクチャーLPでリリース。91年にSwedenのArt DirecteがCD再発した。ただしデザインが違う。オリジナルのジャケットは、discogsに写真あり。

 オリジナル・ジャケットのデザインは、シュタイナーのゲーテアヌムに伊勢神宮をコラージュという。Wiki掲載のインタビューに「巷間で誤解の日本史観」ってニュアンスあり。本作と続く"抜刀隊"は日本文化の破壊的コラージュをジャケット・デザインに込めたようだ。
 当時の秋田昌美の考えを書籍化が「異形のマニエリスム―「邪」の民俗」(1989)だそう。未読でコメント不能。


 なおCD化はメルツバウに印税支払いなくブート扱いの記述も、ネットで見受けられる。真実は知らない。だが本CDからボートラ(5)が追加された。メルツバウの意思はこもったCD再発のようだ。
 さらに14年に2枚組LPで254枚限定で再再発の時、このボートラも収録された。再再発LPはDiscogsによると、オリジナルB面の一曲をわざわざC面にずらして強引に2枚組にしてる。

 もとは(4)の30分ぎりぎりとLP片面に詰め込んだため、音質的には再再発の方向性は正しい。でもメルツバウがオリジナルLPに、収録時間の限界追及までコンセプトにしてたのでは。まあ、それも真実はわからない。
 DiscogsによるとオリジナルLPのA面は(1)から三曲を"内宮"、B面の(4)を"外宮"と銘打たれてたそう。

 ボートラ(5)の委細は不明だが、たぶん同時代の未発表音源。ややこしい表現になってしまうが、Merzbowの"Agni Hotra"(1986)のアウトテイクらしい。この"Agni Hotra"そのものが、"Ushi-Tra"(1985)のアウトテイク。つまりアウトテイクのアウトテイクの未発表。入れ子構造だな。
 なお"Agni Hotra"はMerzbowのNo.17で聴ける。"Ushi-Tra"はいまのところ、CDや配信では未再発のようだ。

 さて、"Antimonument"。テープ・コラージュを意識した作品ながら、もっとノイズ寄り。コラージュに軸足が"抜刀隊"の構造となる。

<全曲感想>

1.Tatara 10:30

 たたらと聴くと、平安時代以降の鉄を製造する方法を思い出す。
 太鼓の音を軋む電子音が覆い、さらに実態の金属っぽい音がそこかしこに。この底冷えする重たい打擲音は、サンプリングでなく実際に秋田が叩いたか。残響が鈍く歪み、ノービートの打音が飛び交うさまは、まさに鉄をイメージした。

 多層的で緩やかに凄んだ音像は、素晴らしくダイナミックだ。軋む音にわずかなメロディ感が、現代音楽のオーケストレーションを連想する多彩で複雑な構造を思わせる。 
 一つの音像にとどまらず、常に表情を変えていくのもメルツバウらしい。今聴くと素朴なところもあるが、当時はデジタルが一切なし。テープ編集とダビングだけで、ここまで刺激的な音を構築に驚愕だ。
 しかしやはり、ノイズ作品はリアルタイムで聴くべきか。デジタル云々なんて、本作品の鑑賞には役に立たない、野暮な話だものな。

 連打される音には仏教的な酩酊感も連想した。だが全体像はあくまで激しく暴力的に空気を振動させる。当時のメルツバウはまだサブカルチャー思想ばりばりで過激だったころ。ニヒリズムでなく、率直な怒りをぶつけていたかもしれない。

 中盤からシンセっぽい音もひよひよと漂う。ダビングで潰れた音と、そもそもの濁った響きが混在してる。だが金属の打音はエッジが尖って、きっちりミックスされた。
 打音は緩やかに周期性を持ち、そのまま消えた。終盤は金属のうねりのみ抜きだされ、残響満載の中で、ストイックに叩かれた。ゆるやかにフェイド・アウトして幕。

2.Bardo Song 6:06

 Bardoとは中陰と訳され、四十九日を指すとWikiにあり。実際にこの意味は不明。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E9%99%B0
 軋み音がミニマルにループされる。別の高い音のループも重ねられた。ボリュームがループのたびに、微妙に変化する気がして異様に生々しい。じわじわとノイズがフェイドインし、音像は深みと細密さを増していく。
 
 ビート性はときおり表情を変えながらも、常に残っている。テープ・ループゆえのビート性だが、鈍くなる打音が奇妙なノリを産んでて面白い。シンプルな構造を主体に、ときおり飾りでノイズがきらめく。だがそれに甘んじず、4分半くらいでがらり音像を高音中心のきらめきに変えるあたり、メルツバウの斬新さが興味深い。


3.1560°C 8:01

 1560度って、なんだろう。検索したが、それっぽい意味を見つけられず。
 冒頭からいきなり猛烈なハーシュ・ノイズの壁。奥でガタガタと暴れる様子が伺える。初手から容赦せず一気に疾走。しかし音を単一に埋めず、途中でハーシュの壁すらも一部崩して奥の様子を見せた。このへんの常に構築を破壊し続ける、メルツバウのセンスが素敵だ。

 音像はあくまで鋭角に、激しく動き続けた。テンポ感は無いが、1分50秒あたりで倍テン風に加速するさま、直後にゆるやかな崩れをみせるさまなど、メリハリ効かせてる。ノイズは持続でなく、変貌だ。

 中盤でハーシュをきれいに拭い去り、残響をまとわせつつ打擲音をばらまいた。いくぶん、音は軽い。金属の叩いてるくらいのスケール感。このアレンジ構造は(1)や(2)に通底する。それぞれが別の曲ながら、一貫性を持たせたか。
 
 終盤はゆったりと寛ぎノイズに。水の沸き音や馬の疾走めいた音、乱打する金属音が現れては消える。

4.Saiseikan No Owari/Pleasure Dome-Grid Module 30:41

 "さいせいかん"の終わりが邦題。館の名でいくつか検索に引っかかるが、メルツバウの意向は不明だ。
 LPのB面すべてを使った、二部構造の大作。冒頭は残響の咆哮と、小刻みな金属音の打音が複数まざった。リズムやパターンは特になく、連続性がポリリズミックに成立した。
 酩酊もしくは幻想。ぼんやりと残響のなか叩かれる音が無秩序に進行し、神秘さにも。
 3分ほどして色合いが若干変わり、テープ・ループのコラージュが走って理知性を増した。ダビング・ループのさまざまなサンプリングが行き交う。この辺の音像がこの曲で、ひときわ刺激的だ。

 ぶわりと空気が膨らみ、個々のノイズは大きさがあいまいになっていく。小さいと思っていたものが膨張して聴こえ、剛腕な轟きはじわっと矮小な存在へミックスが変わる。
 多彩なノイズ世界が現れては変貌し、ひと時も立ち止まらない。メルツバウの真骨頂だ。

 コラージュはいくども同じ素材が瞬間的に表れ、沈む。テープは早回しで意味は解釈できない。高速ノイズまではいかない。「何か」だが「なんだろう」の境界線が続く。
 やがて音は加速し、せわしなさを増した。そして空虚へ。

 18分あたり。ごくわずかな無音を挟み、世界は無意味の具象音へ。こする、もしくは折り曲げる。その音がしばらく続き、太い太鼓の音が連続した。やがて他のノイズも混ざり、音は混沌さを増していく。

 いったんブレイク、韓国語風の言葉が漂う。逆回転の言葉にも聴こえるな。ダブ風に処理され、これもノイズに溶けた。
 さらなるノイズの軋みはループで繰り返され、意味性は剥奪されたままシンプルな響きのみが存在する。

 26分で唐突に表れるアフリカンなボンゴのビート。これはループかな。ハーシュ・ノイズと混ざり、さらに新たなビートも。深い倍音をまとい、ハーシュを切り裂き低音強調でスピーカーから溢れた。 
 カットアウトで静かなノイズに。この落差もすごい。
 最後は膨らみ、軋み音と高速テープの音が混ざった。

5.3 Types Of Industrial Pollusion 6:40

 テイストは本編と少し違うかな。小刻みな電子音と鈍く吼えるハーシュ。テープ・ループめいたところはあるけれど、スピーディーさは本作のほうが速い。緩やかなうねりと、ドラム・セットの混交がテーマに思える。
 ドラムのピッチを下げ目にして、重たい響きでドタスカと鳴った。

 野性的に前のめりに鳴り続けるドラム。低音、そして残響。主役はドラムであり、彩りで様々なノイズがまとわりついた。
 この時点では、非常に珍しいアプローチ。明確なエイトビートを刻むドラムを作品に取り入れてる。この時期はノイズに拘り、ルールや準拠枠から開放を狙ってるイメージあったため。
 テンポは一定でなく、前後する。だがエイトビートは生真面目に刻んだ。奥深い残響と、ノイズが溶けていく。

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