TZ 4007:Ikue Mori "In Light of Shadows"(2015)

 電子楽器でわびさびを清らかに表現した。

 幻想的な世界の構築が目的ではなく、心象風景を無造作に音楽にしたら、たまたま不思議な空気に仕上がった。そんな感じ。つまり恣意的なわざとらしさが無い。
 一つのテーマで仕上げじゃない。いくつものアイディアや興味を作りため、まとまってアルバム化したかのよう。いわばオムニバスみたいな趣がある。

 イクエ・モリは全貌のイメージがわかない。やはり一度、時系列で彼女の作品群を聴かないとだめだ。DNAで音楽シーンに登場しNYを拠点に活動を続けてきた。このインタビューが貴重で興味深い。パンクな発想が根底ながら、破壊衝動ではない。アイディアをまとめ上げる瞬発力が彼女の魅力か。

 パーカッショニストとラップトップ奏者、双方のイメージあるイクエだが、あまり技巧や楽典的なアプローチを売りにしてる印象が無い。むしろ直感的な即興を得意としていそう。ジョン・ゾーンと多くの共演歴あるが、どういう軸でゾーンとウマが合うんだろう。
 TZADIKからも多くのアルバムを出してる。オフィシャルWebによれば他レーベルやバンドも併せて、本作が17作目の作品と位置付けたようだ。
 
 さて、本作。アンビエントっぽい静かな電子音楽ながら、決して寛ぎが志向ではない。むしろ暴力的な凄みを極限まで抑えた、密やかなノイズ作品って印象だ。つまり緊迫感が常に漂っている。
 だが緊張を強いる堅苦しさは無い。どこか空気の隙間を作り、ぽおんと柔らかく提示する余裕が感じられる。そこにいわゆる侘び寂びを感じたのだが・・・さて、どうだろう。 演奏はイクエ・モリのみ。ラップトップに音を取り込み、波形編集と打ち込みか。ときおり現れるメロディは、サンプリングした音色を音程変え旋律に並べてるのかも。

 (1)は泉鏡花の"高野聖"(1990)がアイディアのきっかけ。本盤最長の15分かけてじっくり作曲された。他の曲が数分なだけに、ひときわこの長尺が目立つ。リズミックなパターンが浮かんでは消え、決して通底するビート感は無い。やがてエキゾティックな旋律が現れ、小さなビートと重なり浮遊しながら展開した。
 大きな一つの物語というより、断片的なアイディアを繋げたような抽象さを持つ。漂いながら優美に匂い立つ。この抑えたセンスは日本人ならではと思うのだが。

 (2)はむしろアラビックな色をうっすら感じる。細野晴臣のワールド・ミュージックなテクノを連想した。ミニマルな要素を浮かべつつ、単調とも無機質とも違う、にじみ出る生々しさが魅力な曲。

 (3)、(5)、(8)とバラケさせてアルバムに配置した"百舌"シリーズは、まさに「百の舌」って漢字から連想した楽曲群だとライナーの解題に記述した。無数のビートや音が飛び交い、ランダムなはじける泡でグルーヴしない世界を描く。細かく聴くと、ループの重なりでポリリズミックにも聴けるが。

 (4)はジョン・ゾーンの作曲。Masada Book 3:The Book Beriahのレパートリーとある。まだBook3って音盤化されてないので、貴重だ。もっともイクエ流に再解体されてる。
 アルペジオが幾度も現れ、消えては別の音色やパターンで登場する。譜面数行のフレーズを再解体し、ダブ風に処理したかのよう。メロディが主でなく、音列を以下に配置するかのメタな作曲術だ。

 (6)はOsman Bey/Tambouri Jamil Bayの作曲とある。この19世紀トルコの作曲家のことか。テイストは(2)に似て、もう少しリズミック。メロディも手弾きのようにたどたどしい場面あり、より肉感的な印象を受ける。リズムは打ち込みとしても。
 アラブのメロディが断片的に流れ、異文化の不思議さが骸骨のように広がる。いったん電気仕掛けを通したことで、情報がそぎ落とされ骨格と破片のみが残ったかのように。

 (7)も泉鏡花の掌編がモチーフとある。"眉かくしの霊"(1924)のことか。今は青空文庫でも読める。
 きめ細かな電子音が密度濃く、時にすっと間をあけて飛び交った。このスリルと無秩序ながら緩やかなつながりをもつ世界観は、ぱっと聴きだとわからない。繰り返し聞くうちに、じわっと体にしみこんできた。

 (9)と(10)はホーソーン「タングルウッド物語」(1953)にインスパイアとある。ミニマル寄り、かな。ランダムなごく短いフレーズが、細かく折り重なった。いわゆる繰り返し強調のミニマルって意味じゃなく、展開性を剥奪した旋律の断片って感じ。
 ビート感ないが、発想や構造はえらく性急だ。次々に音が詰まり、すぐ沸き立って消える。それでいて濃密な暑苦しさは皆無。
 この構成のセンスと情報処理能力が、イクエ・モリの特徴にしてジョン・ゾーンとの親和性か。・・・と、聴きながら思ったことを適当に書いてみる。

 それくらい、この音楽には明確な意味表示が無い。聴き手が自由に発想を遊ばせる許容度を持ちつつ、ランダムや適当ではなく作者の意思を込めた音像なことは、明確に感じる。

Track listing:
1.Koya Hijiri (Holy Man of Mount Koya)
2.Agate Amulets
3.Mozu #1 (One Hundred Tongues)
4.Orot
5.Mozu #2
6.Basharaf
7.Mayukakushi (Wandering Spirits of Mayukakushi)
8.Mozu #3­­­­
9.Pomegranate Seeds #1 Sea Nymphs
10.Pomegranate Seeds #2 Underground King

Personnel:
Ikue Mori: Electronics


関連記事

コメント

非公開コメント