Prince 「For you」(1978)

 天才が背伸びして自己アピールした傑作。

 プリンスのデビュー作な本盤は、溢れる才能の萌芽が溢れた。様々な楽器を演奏し、作詞作曲プロデュース。歌はもちろん、さらにダンスまでいける、抜群の天才だ。だがこのとき、世界はプリンスを知らない。
 いかに自分をアピールするかに腐心し、尖りっぷりを盛り込んだ。振り返った今なら、本盤に無邪気さと粗削りさを、したり顔で見つけることもできるだろう。けれども10代後半の青年が、本盤を作り上げたことは本当に素晴らしい。彼と同時代でいられたことを感謝したい。

 時代を大きく変える作曲術が、このときあったかは知らない。ブートを聴くと試行錯誤してたようすも伺える。
 だがプリンスは基本線をむしろチープなシンセ主体のファンクに置き、ファルセットのうさん臭さでひねったセクシーさを演出した。かっこよさよりも、へんてこさ。それでも自分の独自性を確信してたんだろう。

 一人多重録音ゆえに、過剰なゴージャスさは狙わない。スライ・ストーンを下敷きに、P-Funkを仮想敵に。木管や金管は、自分の多重録音を強調するためにシンプルなシンセに置き換えた。
 さらにホーンとは違う、リフ的なシンセに置いた。そう、これを聴くとほとんどの曲でギターとシンセが並列であり、曲ごとのアレンジでギターと鍵盤を使い分けた。

 いろんなアプローチが行けることを匂わせたがゆえに、本盤の印象は五目味だ。ボーカルの多彩さを(1)のアカペラで思い切り自己主張し、和音や構成の作曲術も併せてアピールした。
 軽やかな粘っこいファンクの(2)と(3)でいったん自分のパブリック・イメージを作る。ファルセットの異物感を提示の上で。この辺、プロデューサー感覚が優れてる。

 (4)以降はごちゃまぜ。ギターでボサノヴァをファンク処理したかのような(4)で、クールな味わいも出せると証明した。さらにシンセの小刻みな響きで、独特の浮遊感だすセンスも匂わせる。この辺、のちの"パレード"や"サイン・オブ・ザ・タイムズ"に通じる、ざっくりと音を抜くお洒落さだ。

 もういちどファンク的な(5)につなげるが、これはむしろロック的。ファルセットの歯切れよさはあるけれど、少々野暮ったい。将来のプリンスなら、周辺バンドに提供しそうな曲。キャッチーなメロディと、リフの細切れなタイトさと、パーカッションを混ぜるアレンジ・センスの見本のつもりではなかろうか。
 フュージョン的なキメの多いとこも、青臭く自己主張さが若々しい。この究極が、(9)なのだが。

 (6)のバラードはメロディの美しさもさりながら、多重ハーモニーを生かしたゴージャス感がたまらなく愛おしい。ギターとシンセで華やかな世界を膨らませるアレンジ力に圧倒される。
 この曲で聴こえる弦はシンセなの?本盤の謳い文句は「すべてがプリンス」ながら、このアレンジだけはプリンスじゃないような。"Prince Vault"には根拠がどこにあるのか知らないが、「クレジット無いがPatrice Rushenがこの曲に参加」とある。名手ラッシェンが鍵盤をサポートしたか。また弦のアレンジはCharles Vealとも"Prince Vault"には記載あり。ってことは、この弦は生かな。

 なお言うまでもないが、あえて。本盤の演奏にプリンス以外の誰かが参加してたとしても。本盤の価値は全く変わらないし、ましてやプリンスの才能に傷がつくことは全くない。むしろ本盤に別ミュージシャンが参加してたとしたら。プリンス自身が「あ、クレジットと演奏は別で良いんだ」と、このとき学んだのかもしれない。クレジットはあくまで、ビジネスのための演出なんだ、と。

 さて。軽やかな雰囲気をそのままに、シャープなカッティングが清々しい(7)へアルバムは進んでいく。
 これもファルセットの多重コーラスが清涼に響く。わずかに歪ませた音色で、クリーンなロング・トーンを響かせるエレキギターはアドリブってよりもアレンジの一要素で響いた。
 これなんか、FMラジオと海辺の晴れた昼下がりが似合いそうな楽想。プリンスが多彩さを見せるための楽曲な位置づけと思うが、ちょっとやりすぎ。アルバムとしてはボケている。
 けれどもデビュー作で、自己主張のポイントとみると、あまりにベタなAOR路線が微笑ましい。今はこういう路線、まずやらないだろう。

 (8)はSSW的な内省さも出せるってアピールかな。シンセを色々配置して目先を変えながらも、ギターのストロークとボーカル一本で芯を太くした。
 ファルセットゆえに今一つ柔らかさが先に立つのは否めない。これはボーカル・スタイル統一の狙いだろうが、普通の声で歌ったらもう少ししゃっきりしたかも。

 そして本盤のクライマックス。あまりにあからさまなテクニシャンのアピールっぷりが微笑ましい(9)。ファンク・ビートで、エレキギターとベースが高らかに轟く。ハード・ロックまで行かないが、それに近い。アイズリー・ブラザーズを意識ってわけでもなさそうだし。

 プリンス的にはやはり、最後の一人バトルを聴かせたかったんだろう。エレキギターとベースが、早弾きで猛烈なテクニックをばらまき続ける。バンドじゃなく、一人多重で。
 こんな凄い演奏ができるんだ、と無邪気でいきがったプリンス。のちの強烈な自意識と自己顕示や自己コントロールとは異なる、あからさまなひけらかしっぷりが面白い。
 しかし10代後半でこんな音楽が作れるなら、威張りたくもなるよな。天才が自分の才能を持て余し、世に問うパワーが本盤に詰まった。

 つまりこのとき、プリンスは自分が受け入れられるか、自分を認めさせられるか、の視点だった。世の中全てに自分を問うていた。
 このあとプリンスはキャリアを積み、やがて自らの才気をコントロールするすべを覚えていく。そして自信とノウハウを蓄え、逆に観客へ自分の音楽を受け入れる度量があるか、と聴き手へ問いかける方向に変わっていく。

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