TZ 9007:Tobias Picker "Invisible Lilacs"(2014)

 ロマン派に通じるふくよかな旋律が響く、現代音楽の室内楽集。妙にキャッチーだ。

 本盤のコンセプトは76年から11年と長きにわたる室内楽曲集。いかにも無名作曲家にスポットを当てたかのようながら。
 トビアス・ピッカーはオペラや協奏曲、バレエ音楽までさまざまな分野で活躍する現代作曲家。98年頃からアルバムを何枚も発売しており、業界では有名な人らしい。ぼくは門外漢で初めて知ったが・・・。

 TZADIKでは時に青田買いもするが、本盤は今更ながらのリリースか。録音も特段本盤用ではなさそう。既存音源の発売レーベルが、本盤でのTZADIKの役割かな。
 アルバム化として初音源かもしれないが、後述のように演奏はどれも再演と思われる。

 断片的には親しみやすいメロディが幾度も現れる。それが有機的に盛り上がらず、唐突な跳躍や転換で風景を変える現代楽曲だ。散漫とならず、緊張感は保っている。
 ジョン・ゾーンの初期活動、いわばファイルカード式に通じる場面もあるが、それよりはまだ一貫性のある作品が収められた。

 すなわちこの世界観に馴染めるかで、本盤への評価が変わる。ぼくは淑やかな雰囲気を出すピアノ五重奏曲なんかは、興味深く聴けた。

 以下の全4曲を収録。楽章ごとにトラックが切られており、曲構造が読みやすいのはありがたい。

(tr.1-3) 1.Nova (for Piano Quintet) 1979
(tr.4-6) 2.Invisible Lilacs (for Violin And Piano) 1991
(tr.7-9) 3.Sextet No.2 "Halle's Ravine" (for Ensemble) 1976
(tr.10-15) 4.Piano Quintet "Live Oaks" (for Piano Quintet) 2011

 ピッカーの公式Webにて、作品群が整理されており非常にわかりやすい。Youtubeでの楽曲演奏まで貼られてる。せっかくだから、ここにもその動画を貼っておこう。

 最初のピアノ五重奏の"Nova"は、作曲された79年に初演。以下のYoutubeはピッカー自身がピアノを弾く、本盤とは違うテイク。何小節かごとに場面が変わる印象が強い。凛としたメロディは悪くない。


 バイオリンとピアノの楽曲"Invisible Lilacs"(1991)はVideo.comの動画が公式音源。自らのインタビュー付きな動画だ。ヤン・ウク・キム(Young Uck Kim)の委嘱で94年にNYのMMoAで初演された。この動画が、初演かな?
 ロマンティックな風景だが、緊張感を漂わせ寛ぎを安易に許さない。不安定なピアノの漂いに、バイオリンが鋭く絡んでいく。


 "Halle's Ravine"は六重奏:作品二番はピッカーの楽曲リストでも3番目に位置する、極初期のもの。NYのPound Ridge町の200年祭用に委嘱、らしい。同年にピッカー自身の指揮で初演された。
 ザッパ的な抽象度合いが飛び交う楽曲で、本盤では最も難解ではないか。無機質な音符の跳躍は、馴染むとこれはこれで面白いのだが。


 ピアノ4重奏"Live Oaks"(2011)は本盤発表の14年から見て、比較的近作にあたる。
 Da Camera of Houstonの委嘱で、同年にヒューストンで初演された。Youtubeの動画は14年1月19日のコンサート映像。現代音楽業界は詳しくないが、本盤入れて三回は最低演奏となる。これってかなり、売れっ子の域に達するのでは?
 楽曲は滴るメロディが生々しく迫る。それなりに場面の跳躍はあるけれど、意外と親しみやすさが持続した。


 ということで、作品解説もすべてYoutubeと自Webで賄い、ビジネス的にも総覧にも隙が無い。ずいぶん成功してる作曲家の盤と言える。逆にTZADIKみたいなマイナーが、よく彼にまで食指を伸ばしたなあ。

Personnel:
Piano - Nathaniel LaNasa (tracks: 1 to 6)
Violin - Keir GoGwilt (tracks: 1 to 6),

Cello - Michael Unterman (tracks: 1 to 3)
Double Bass - Tony Flynt (tracks: 1 to 3)
Viola - Margaret Dyer (tracks: 1 to 3),

Violin - Christopher Otto (tracks: 7 to 9),
Cello - Jay Campbell (tracks: 7 to 9),
Clarinet - Rane Moore (tracks: 7 to 9)
Oboe - Elizabeth England (tracks: 7 to 9)
Percussion - Alex Lipowski (tracks: 7 to 9)
Piano - Steven Beck (tracks: 7 to 9)

Piano - Sarah Rothenberg (tracks: 10 to 15),
Viola - Misha Amory (tracks: 10 to 15)
Violin - Mark Steinberg (tracks: 10 to 15), Serena Canin (tracks: 10 to 15)
Cello - Nina Lee (tracks: 10 to 15)

おまけ。EMMELINE(1996)は彼のオペラで本映像が初演時のもの。ほんといろんな活動してるな。こういうのがきちんとビジネスで成立する、アメリカのクラシック業界が良くわからない。


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