TZ 7645:Henry Kaiser "Requia And Other Improvisations For Guitar Solo"(2013)

 幻想的で多彩なギターの可能性を追求した、心地よい即興音楽。

 電気仕掛けのようだ。旋律よりも無秩序に弦を爪弾き、楽器そのものの鳴りをどちらかと言えばアンビエント寄りに仕上げた。抽象的なフレーズだが、デレク・ベイリーのように軸をずらし続けるかたくなさは無い。逆に心地よさを素直に追及もしない。けれど、聴きやすさは漂う。そんなコンセプト。

 アルバム・タイトルは、ジョン・フェイヒーの67年作"Requia (and other compositions for guitar solo)"に引っ掛けた。
https://en.wikipedia.org/wiki/Requia

 本盤でヘンリー・カイザーは「All improvisations,Live solo guitar w. no overdubs」と高らかに記した。思えば僕は、カイザーの音楽ってほとんど聴いたことが無い。膨大なアルバムもあるし、これをきっかけに色々聴いてみるかな。

 なお収録の一曲ごとにカイザーは楽器を持ち替えた。ライナーに記された楽器群は以下の通り。エレキとアコギを持ち替える。さらに12弦、7弦、13弦のハープ・ギターなど、特殊なギターも積極的に持ち替えた。

1.Marc Silber 12-string acoustic guitar
2.James Mapson Avante 7-string electric guitar
3.Alastair Miller Barncaster electric guitar w.True temperament neck
4.7 assorted acoustic guitar Spalt Totem electric guitar
5.Stratcaster electric guitar w.True temperament neck
6.Takamine J15E electro-acoustic guitar
7.Fender Stratcaster electric guitar
8.Allan Beardsell 13-string acoustic harp guitar
9.Stratcaster electric guitar w.True temperament neck

 数曲で記載あるTrue temperament neckとは、フレットが奇妙に変形したネックのことらしい。よりニュアンスを出しやすい形状なのかな。http://www.truetemperament.com/

 レクイエム集、と銘打たれ楽曲ごとにさまざまな人をテーマにした。
 (1)は松尾芭蕉か。(2)のファマディハナとは、マダガスカルの改葬儀礼のことか。だとしたら、Dr.JBが誰のことを指すか不明。
 (3)は米の作曲家/作家/民族学者のFredric Liebermanがテーマか。

 (4)はサン・ラ、シュトックハウゼンとモートン・フェルドマンに捧げた22分近くの本盤で最も長尺なインプロだ。漂う神秘的な風景とメカニカルなフレーズの交錯が心地よい。最初は抽象的なサウンド。ピアノの残響ペダルを踏むような響きと、断続したフレーズが行き交う。そのあと、歪んだ薄い音色のエレキギター・ソロが続く。
 二本のギターがクレジットされてるが、これは横にもう一本、リバーブかましたギター置いて弦を叩きながら弾いてるのかな?

 (5)ではギタリストへ、とピート・コージーにソニー・シャーロック。一見派手なエレキギター・ソロと見せかけて、エフェクターを駆使した複数の音列が行き交う複雑な構成に。これもやはり、演奏の仕組みがぱっと読めない。ディレイ・ループだろうか。

 (6)が高柳昌行と武満徹。どういう共通性をカイザーは感じてたのか。むしろ静かな夢幻の空気。エキゾティックさと緩やかなフィードバックが震えた。
 (7)はヒューバート・サムリン。ハウリン・ウルフのバンドにいたギタリストらしい。ループでリフを作り、ブルージーなソロをかぶせた。

 (8)の"Charlie Appleyard"が良くわからない。曲名にある"Blind Joe Death"とはジョン・フェイヒーの57年アルバムのタイトルだが、Charlie Appleyardとの関係が検索してもそれっぽい内容が見つからず。楽曲は抽象的なフレーズがひときわ爪弾き気味に漂った。ほんのりとトロピカル風味。

 最後の(9)、Randy Californiaは60年代後半のカリフォルニアのロック・バンド、Spiritのギタリストのことだろう。
 
 隅々までひねりつつ、素朴な響きが充満する。捧げたミュージシャンへの思いを楽曲から空想するもよし、素直に音の揺れへ身を任すもよし。どちらにしても楽しめる。奥深い、シンプルな音楽が詰まった傑作。

Personnel:
Henry Kaiser: Guitars

なおカイザーにはダイバーとしての側面もある。知らなかった。

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